105_妹と穏やかな午後
その日の昼は平和に過ごしていた。何故なら阿地が朝起きてきてからソファに寝転がってずっと寝ているからだ。この際、妹の足や脇の方からチラチラと白いものが見えるのは丁重に見なかったことにしよう。知らない方が幸せなことだってある。
コーヒーを飲みながら平和な午後を満喫していると、スマホにメッセージが入った。それは趣味で作っていたアプリへのバグ報告だった。アプリを開いてから確認の印を付けて今夜にでも解決しようと思っていた所で阿地は目を覚ましてきた。
「は!? 私はお兄ちゃんと一緒に寝ていたんですか!? これは一線を越えたのでは!?」
「記憶を捏造すんな、俺はずっと起きてたよ。一人で寝てたろ」
「ぐぬぬ……お兄ちゃんは妹に手を出そうとはしないんですか……日和らないでほしいですね」
「日和ったつもりはないんだけどな、いつもこうだろうが……まるで日和って手を出した事があるようなことを言わないでくれないか」
存在しない記憶を捏造するのはやめて欲しい。俺と阿地の間には兄妹愛異常のものは無い。そこをねじ曲げるのはやめて欲しいな。
「はぁ……お兄ちゃんからは本気を感じませんね、妹には本気になるのが兄としての務めでしょうが。そのくらいの覚悟は持ってほしいですね」
勝手な覚悟をさせないでほしい。俺と阿地はあくまで兄妹だし、向こうがどう思っているかはともかく、俺とは思考を共有していないんだからそんなことを考えないでほしいものだ。
そんなことはお構いなしにソファから立ち上がって俺の向かいに座って昼食を食べ始めた。時計を見てから適当に菓子パンを掴んで食べているあたり、俺がもう食べたと判断したのだろう。俺が関係無いなら適当にすませてしまう妹が兄として不安で仕方ない。
「お兄ちゃん、退屈でしたらお願いがあるんですがいいでしょうか?」
「なんだ?」
どうせろくでもない頼みなのだろうが、聞くだけは聞いておこう。
「その……寝不足で目が覚めてしまいまして……よければお兄ちゃんの膝枕で寝直したいなーなんて思うんですが……」
「俺が膝枕をしたとして全く気持ちよくないだろうが……需要のないものを求めるんじゃない」
バンと阿地が机を叩いて主張し始めた。
「お兄ちゃんの膝枕は私みたいな妹にとって気持ちいいものなんです! ワンチャンあるかもと思ったらそりゃ頼み込むでしょう? それの何がおかしいと言うんですか?」
「思想だと思うぞ」
「いいじゃないですか! この通り! 無理は言いませんから! 寝付くまででいいですから! ね?」
机に額を付けて、イスに座ったまま土下座のようなポーズを撮るので思わす俺は承諾してしまった。どこにそんな情熱があるのか分からないが、この執念は気持ち悪いなんて思わない、怖いんだよ……
そうして俺はソファに座って膝の上に妹の頭を載せたまましばしじっとしていたところ、寝息が聞こえてきたので、膝と枕を交換してそっと離れた。
どうやら俺には穏やかな休日というものが無いらしい。でもまあ……
「退屈しないのは確かだな……」
その言葉は誰にも届かなかったが、これはこれで悪くない、そう思えるくらいには妹に毒されているなと思った。




