096_妹と交渉術
その日、夕暮れの中コーヒーを飲んでいたのだが、いつも通りやかましい声が聞こえてきた。
「お兄ちゃん、そろそろお風呂の時間ですね?」
「一緒には入らないからな」
「え……お兄ちゃんって読心術が使えたんですか?」
何を言ってるんだコイツは、読心術以前に頭のネジがぶっ飛んでいて逆に言うことが予想つくんだよ。分かりやすい奴だなとは思う、可愛いとは思うがそれとこれとは話が別だ。
「じゃあお兄ちゃん、お風呂上がりに体を拭くのを手伝っていただけると……」
「お前は幼稚園児か……? 自分でやれよ」
ゴネる妹を適当にあしらう。コイツのゴネ方は立ち退きに反対している住人よりも強情だ。金で解決するタイプではなく、絶対に立ち退かないという強い意志を持っていると言えばいいだろうか?
とにかくそういう妹なので、言葉の全てを真面目に受け取っていたらハートがいくつあっても足りない。適当に聞き流すことを覚えてしまった自分がなんとも不思議だった。
こんなもん、どうしろというのか悩むレベルだが、とりあえず断っておけば間違いないので分かりやすい。
「お兄ちゃん、今日はこの辺で文字に起こすのをやめにしませんか? そうすれば明示されないので何をやっても翌日しれっと現れれば何も無かったのと同じ事になりますよ?」
「知ってるか? タレントってプライベートでも不祥事を起こしたら責任を取らされるんだぞ? 俺はそんな面倒な事はゴメンだね」
好き放題言うよなあ……リスクを取る方の身にもなってほしい。コイツは何をやってもバレなきゃいいとでも思っているのだろうか?
「お兄ちゃんは細かいリスクを気にしすぎなんですよ、私たちを見ている人が揃っても問題視されるほどの人数は集まりませんって! お兄ちゃんのしていることは杞憂なんですよ!」
「お前それでいいのか? 誰にも見られないただの兄妹として存在しているだけでも……」
「私はそれでも構わないと思いますがね、私とお兄ちゃんだけが世界の全てで何が悪いって言うんですか?」
コイツ、どんだけメンタルが強いんだよ……無敵なメンタルをしているのでどうにもこうにもなりゃしない。
話していると千日手の様な気分になってきたので話を終えようと思った。
「分かった、お前の言うことは分かったよ、だからさ、何かがあるとしたら全てが終わった後にしないか? せめて今は我慢してくれ、そうすれば少なくとも誰も見ようが無いだろう?」
「しょうがないですねえ、お兄ちゃんはちょっとチキンのようですが、いずれはチャンスがあると思えば少しはやる気になるってもんです」
そう言って妹は風呂の方へ歩いて行った。その日はなんとか誤魔化せたが、アイツは言動が過激なのでいつまではぐらかせるか不安になるのだった。




