095_妹は朝に遅れた
今朝は阿地が起きてきていないので優雅に朝食を食べている。アイツにしては久しぶりの寝坊だが、こちらものんびり朝食を食べられるので悪いことではないだろう。
トーストをのんびりかじっていると、阿地の部屋のドアが開く音がした。それから風呂場の開く音がしたのでシャワーでも浴びるのかと思った。朝から忙しいヤツだと思いながら締めに牛乳を飲んで気持ちよく食べ終わると食器を洗い始めたのだが、その頃に阿地がキッチンにやって来た。
「あ……お兄ちゃん、食べ終わりましたか?」
「ああ、トーストでよければ焼こうか」
「はい! ありがとうございます!」
俺はトースターにパンをいれながら阿地を見た。スキンケアをしっかりしたのだろうか? なんだか妙にツヤツヤしているような気がする。
「なんか調子が良さそうだな?」
「はい! 昨日はお兄ちゃんとの妄想が捗りまして……シャワーを浴びなきゃならないほど捗ったんですよ!」
「ギリギリのラインを攻めるなあ……家庭内の普通の会話でギリギリのラインを反復横跳びするのはやめてくれよ……」
俺だってそんな無茶な話題にどう付き合えば良いんだよ。普通に怖いぞ、ライン越えをしたら消される覚悟はあるんだろうな?
「私は『勉強』が捗っただけですよ? おやおや? お兄ちゃんは一体『何が』捗ったと思ったんでしょうねえ?」
ニヤニヤしながらそう言ってくる妹に黙って熱々のトーストを差し出した。そういうことにしておこう。その話題は深掘りしても幸せにならないヤツだからな。
「いやあ、お兄ちゃんが朝食を作ってくれるのは覚えてたんですが、如何せん楽しみすぎて寝過ごしちゃいましたよ」
「分かった分かった、好きなジャム塗って食べればいいから。あんまり兄をからかうもんじゃないぞ」
阿地は『はーい』と真剣さの感じられない返事をしてから食事を始めた。俺が作るったってトーストだぞ、そんな嬉しいもんかね? そうは思いながらも、ニトログリセリンよりセンシティブな妹に刺激を与えないように黙って朝食を食べさせた。最初から最後まで平和とは行かなかったものの、落ち着いて食事をしたのは久しぶりのような気がした。
そして、悔しいことだが阿地と一緒に朝食を食べているときと比べると、自分がどう理性で思っていようと朝食を共にしているときに何か少しでも阿地のことを意識しているんだなと思い知らされた。正直に妹に対して『勝てないなぁ……』なんて事を思いながら、自分にとっての妹の存在の大きさを思い知らされたのだった。
そして……俺もなんだかんだで妹との朝食を嫌っていないんだなと思った日だった。




