第三十一話 あと一つ
今日は、勝負の金曜日だ。
「あと、授業が終わるまで五分だ。今日こそ必ず……」
僕がなぜそこまで燃えているのか。それは、毎週金曜日に購買で十個だけ売られる、あの伝説とされるクリームパンを勝ち取るためだ。一学期、その存在を知ってから毎週狙っていたが買えたことはない。
「もう、チャイムが鳴るのに……授業が終わらない……最悪だ。」
金曜日の四限、古典の授業は延長しがちだ。
「頼む……早く終わってくれ……よし、終わった。」
終礼と同時に教室を出て、購買に向かった。
「着いた……どうだ……」
顔を上げてもクリームパンは、もう無かった。
「クリームパンラスト一個買えたね、ラッキー。」
そんな声が聞こえてきた。
「くそ……」
僕は、負け戦から教室に戻った。
「ゆうくん、またクリームパン買いに行ったの?」
りおにそう聞かれたからうなずいた。
「また、買えなかったのね。授業終わるの遅いからそこを乗り越えないと無理じゃない?」
「ゆうくん、とりあえずお昼食べよ。」
ひまりに、そう言われて三人で昼食を食べた。最近は、三人か多田も入れた四人で昼ご飯を食べることがたまにある。
「りっちゃん、そのだし巻きちょうだい。」
「いいよ!二つあるから。」
「やった〜。……やっぱ美味しい。」
二人を見てるとこっちまで和やかな気持ちになる。学校にいる中で、この時間が一番好きだ。
「ゆうくん、どうしたの?」
ひまりに聞かれた。
「いや、二人とも楽しそうだなあって。」
「欲しいの?だし巻き。」
「りお、僕には悪いよ。あと一つだろ。」
「欲しいなら正直にいいなよ〜。」
「ひまり……何言ってんだ。」
「ゆうくん、はい。あ〜ん。」
「りお……」
抵抗するのも違う気がして、口を開いて食べた。
「うん……美味しい!」
「ほんと?」
りおは嬉しそうだったが、ひまりは睨んでいる。
「二人でイチャイチャしないで。」
「元はといえば、ひまりが煽ってきたんだろ。」
「確かに。私もひまりに煽られたからだし巻き、あげたくなっちゃった。」
「も〜二人ともいじわる〜」
やっぱり、この時間は変わらないままであって欲しい。
次の週の金曜日。
「今日こそは……」
古典の四限、僕は一人で覚悟を決めた。
「よし、今日は延長がないみたいだ。いくぞ……」
僕は、購買に向かって急いで向かった。
「すいません、クリームパンまだありますか?」
息が上がったまま聞くと、
「あと一つ、あります。」
「よっしゃー。一つお願いします。」
僕は、勝ち戦から教室に戻った。
「ゆうくん、あれ?もしかして……」
りおがいつもより元気な声で聞いてきた。
「そのもしかしてだ。ついに……買えたぞ!」
「ほんとに?」
ひまりが驚きながら言った。
「良かったね。ついにだね。」
「念願がついに……記念に写真でも撮ろう。ほら二人も。」
「「私たちも!?」」
二人は顔を合わせるように言った。三人で写真を撮り、ついに実食と言ったところだ。二人が見つめる中、袋を開けるといい香りがしてきた。
「りおとひまりもいるか?」
「いいの?」
ひまりがキラキラした目で見てきた。
「三等分したら小さくなるし、私はいいよ。」
一方でりおは、遠慮していた。僕は、三等分して二人に渡した。
「僕は、りおとひまりからいろんなものを貰ってる。この時間だって二人のおかげで好きになった。だから、お返しだ……」
「ゆう……ありがとう。」
りおが小さな声で言った。
「ゆうくん、ありがとう!」
ひまりは、元気な声で返した。二人とも大事そうにクリームパンを食べていた。やっぱり、この時間が好きだ。――この時、僕はドキドキしていて、しっかりとした味は分からなかった。




