第二十七話 僕と妹
次の日の朝、目覚めるといつもと違う部屋、普段聞こえない包丁の音、少しだけ、現実じゃないみたいな感覚があった。
「そっか……今は、父さんの家だもんな……」
昨日は、疲れていたため風呂に入って、夜ご飯を食べてすぐに寝てしまった。
「昨日のご飯、懐かしい味がしたなあ……」
彩葉の作ったご飯には、どこか母さんの面影があった。
「そういえば同居の件は、何も聞かれなかったな……」
そんなことを考えながら、まだはっきりと目が覚めないまま、リビングに向かうと彩葉がいた。
「ゆうにい、おはよう!って寝癖すごくない?」
「そうか?いつもこんな感じだけど。」
「もう、朝ごはんできるから待っててね。」
「おう、ありがとう。」
彩葉は、鼻歌を歌いながら支度をしていた。気分が良いみたいだ。キッチンに立つ彩葉を見ると、中学生とは思えないほどしっかりしていると思う。けど、変わらない部分もある。そんな、彩葉を知ることができてなんだか僕も気分がいい。
「できたよー」
「いただきまーす!」
「どうぞ。」
「やっぱ美味しいな。」
「ほんと?良かった。美味しそうに食べるね。」
「実際、うまいからな。」
「ゆうにい、そういうことばっか言って……」
「ほんとだって彩葉。ところで、父さんは?」
「あの人、朝は基本、食べないんだ。」
「そうなんだ……彩葉は、ちゃんと食べてるのか?」
「うん。お弁当も作ってるからね。」
「お弁当も!?すごいな彩葉。」
僕は、少し彩葉のことが心配になったと同時に、彩葉が住んでくれたらばぁちゃんも楽になるのかなぁ……とも思った。
「まあ、楽しいからね。」
「楽しいならいいけど、無理はするなよ。」
「しないよ。父さんも手伝ってくれてるから。」
「ばぁちゃんが倒れたとき家事とか料理したけど、全部が全然上手くいかなかったぞ。」
「それは、ゆうにいが不器用だからだよ……」
「トドメ刺さないでくれ……」
二人で楽しみながら朝食も取り終えると彩葉が片付けを始めた。
「僕がやるよ。彩葉は、休んどきな。」
「私もやるよ。」
「いいよ。いいよ。」
「じゃあ、二人でやろ。」
片付けをしていると僕が無意識のうちに彩葉に近づいていた。
「ゆうにい……近くない……?」
普段とは少し違う声に、思わず動きが止まった。
「あ……ごめん。」
なんか少し気まずいまま片付けが終わった。
「彩葉、普段だったらあの距離でパンチなんだけどな……」
このとき、僕と彩葉の間で何か変化が起きたことは誰も分かっていなかった。
昼前になり、父さんが起きた。出かける準備をして車を出した。
「父さん、どこ行くの?」
僕が聞くと、父さんは、ハッとして言った。
「そうか……言ってなかったな。遊園地だぞ。」
「遊園地!?……でもなんで?」
「久しぶりに遊ばないとな。彩葉には、いつも家事をやらせてるし、悠太も来たからな。」
そのとき僕は、父さんが忙しくてなかなか彩葉との時間を作れてないことに気づいた。
「着いたぞ!」
「ほんとだ着いた!ゆうにい、見て見て!」
父さんがそう言うと、彩葉は、テンションをあげて観覧車を指差して言った。
「すごいな……彩葉、楽しもうぜ。」
「うん!」
彩葉の輝く眼差しに僕は、釘付けになった。楽しそうで何よりだ。――この一日が、思っていたよりも特別なものになるなんて、まだ知らなかった。




