この勇者、『スキップ』で旅をします
アイデアを使うのは構わないのですが、使う際にはメッセージで教えて下さると幸いです!(読みたいので)
ここは商業が盛んな国フェスターン。
カラフルな建物の奥に白い城が座る。
ただ、今日はいつもより賑わいを見せていた。
「勇者様が帰られたぞ!」
「魔王の幹部を倒したんだってよ!」
「流石だぜ! 勇者様!」
人々が歓声を上げる。
そんな中、城内に橙色の髪を揺らす男が王座に座す国王の前に立つ。
「よくぞ、戻られた、勇者よ。今回------」
(長い)
勇者が心で呟く。
「スキップ」
その瞬間。
「今後の活躍を期待しているぞ」
国王の会話が飛び、立ち位置も少し変わっている。
勇者は退屈そうな目の中、黒いマントを手で手繰り寄せる。
「......頑張りますよ」
素っ気ない言葉を投げかけて、その場を後にした。
すると、城内で騒ぎが起きる。
ブォンッ!
「グオオォォォォ!」
城の上に青い皮膚を持つドラゴンが現れたのだ。
ドラゴンは城を爪で壊し、口から炎を吐いて、溶かしている。
その部分からギロリと顔を覗かせる。
「ぎゃぁあぁ!」
兵士まで尻を突く始末だ。
そりゃそうだ。
ドラゴンの鱗は突き立てる武器を破壊するほど、硬く、並の者では傷1つ付けることすら敵わない。
勇者が走り出しながら、黒で塗りつぶされた大剣を背中から右で引き抜く。
勇者はドラゴンに接近する。
ドラゴンが勇者を捉え、高音のブレスを浴びせようとする。
この男の名は天野 燈夜。
5年前に魔法陣から呼び出された異世界人である。
その際に、1つのスキルを手にした。
「スキップ」
瞬きの瞬間に視点が暗転し、気付けば、城の下に飛び出ていた。
足下には血塗れのドラゴンの死体がある。
「流石、勇者様だ!」
「ドラゴンをあっさりと殺っちまうなんて!」
またもや、国民は歓声を上げる。
(ここの奴らは誰1人として、俺を見ようとはしない。勇者の肩書や強さしか見ていないんだ)
燈夜はやつれた背中が帰ろうとした。
しかし、その手を誰かが引き止める。
「勇者様、助けてくれてありがとうございます!」
ショートの茶髪の可愛らしい黄色の目が感謝を伝える。
(誰だ、この子......スキップしたから分からないな。冒険者か......)
「いい、当然のことをしたまでだ」
「勇者様、どこか痛むところは......」
「ない。そろそろ、離してくれないか? 俺は忙しいんだ」
燈夜の目蓋が下がる。
「そうだ、そうだ! 勇者様から離れろ!」
「早く!」
野次が飛ぶ。
それでも、女の子は手を握り続けた。
「でも、頬に傷が」
燈夜が目を見開く。
その顔の右頬にドラゴンの爪が走っていたのだ。
「私、ヒーラーなんです。動かないでくださいね」
その子が両手を翳すと、治療を施し、怪我を治した。
「なんで、俺を気に掛ける。やっぱり、勇者だからか?」
燈夜はこれがバカバカしい質問だと思いながら、訊いた。
「......勇者様だって人間じゃないですか!」
真剣な声に燈夜は驚いた。
声量ではなく、その内容に。
「そう......か」
燈夜の心にじわっと何かが染み込む。
そして、少し昔の過去をふと思い返す。
知人やクラスメイトに虐められ、親ですら見放した過去を......
(あっちでもここでも、誰も人として扱ってくれなかった......でも、今、そう思ってくれる人がいる!)
燈夜の手が固く握られる。
「勇者様が迷惑してる!」
「誰か、あいつを剥がせ!」
「パーティーには入ってるか?」
「いえ......」
「もし、俺が旅についてきてくれって言ったら?」
「そりゃもちろん、承諾しますよ......て、もしかして!?」
邪魔な者を剥がそうとする国民を横目に女の子をお姫様抱っこで持ち上げると、地面を蹴って、空を飛ぶ。
「こんな国になんか居られるか!」
燈夜は初めて、明るい笑みを浮かべる。
燈夜が顔を下に向けて、女の子を目を合わせる。
「名前は?」
「マーニャです!」
こうして、2人の不思議な旅の幕が上がるのであった。
ある野営地にて。
軽い拠点を作るために布や木を用意していた。
「突発的に連れてきてしまったけど、マーニャは本当に良いのか?」
「全然! むしろ、感謝です! 勇者様と色々、回れるなんて誰だって光栄に思いますよ!」
「そうか」
(他の奴なら、少し違ったと思うが)
「マーニャ。改めて言う、俺たちは仲間だ。敬称は要らない。燈夜って呼んでくれ」
「うん......抵抗はあるけど、それもそうだね! トーヤ!」
マーニャは元気いっぱいだ。
「ん......」
燈夜が鋭い目つきで後ろを見る。
そこには、多くの鉄の防具を揃えた兵士たちがいた。
「勇者様。今すぐ、フェスターンにお戻りください。国王が呼び出したあなたは、言わば、国王の駒です。勝手に動かないでいただきたい」
その言を受けても、燈夜の目は揺るがなかった。
「やっぱり......人に見られてなかったか。で、他に国王はなんて?」
燈夜は冗談でも言うように、軽く言う。
「説明する必要はありません。国に戻って頂ければ、問題は起こりませんよ。そちらの冒険者の処遇は後ほどとなりますが」
「後ほど? あの国王のことだ。勇者を誑かしたあの冒険者を即刻殺せ、と言ってきそうだがな?」
兵士らの槍の位置がカチャとほんの少し下がる。
「やっぱりな。じゃあ、尚更......帰るわけには行かねぇな!」
瞬間、燈夜の握る鋼鉄の大剣に光が帯びる。
兵士が槍先をこちらを向ける。
「国王の命令は逆らえんのだ! 2人とも、女を捕らえろ!」
リーダーらしき兵士が叫ぶと、両側から1人ずつ兵士が飛び出してくる。
「マーニャ! しゃがむんだ!」
「うん!」
マーニャは考えが分かってるのか、行動に移すのが早い。
振られた大剣が両雄を斬った......ように見えた。
しかし、その攻撃はすり抜けていた。
兵士2人は斬られたものだと思い、気絶している。
「スキップ」
スキルを使用して、大剣を体から通したのだ。
燈夜の口角が上がる。
「勇者め!」
リーダーはそんなことをいざ知らず、襲いかかってくて、穂先を燈夜へ貫通させる。
「トーヤ!」
マーニャが声を張る。
「大丈夫」
(スキップ)
スキップは攻撃すらも透過させた。
燈夜が柄を掴むと、簡単にへし折った。
「なっ!」
リーダーが怯む。
その隙に大剣の面を頭に落とす。
直撃と同時にリーダーは倒れる。
(面倒なことになってきた)
「ふぅ......」
「治療!」
すかさず、マーニャが回復にかかる。
しかし、それは燈夜にではなく、リーダーの方だ。
リーダーがすぐに起き上がる。
「マーニャ......? 何してるんだ?」
「この人たちは国王に命令されただけで、何も悪くありません」
「本当にそれで良いのか? 命令は確かだが。私たちを生かせば、何をしでかすか分からないぞ」
リーダーが咎める。
「それでも、私は......人を助けたい」
マーニャにとっては敵味方なんて関係ない。
そういうことだろう。
「襲撃しようが、国に帰ろうが、どのみち、私たちは終わりだ。そうなってしまうなら、国を捨てて生きる方が気楽さ」
リーダーが鎧を脱ぎ捨てる。
ドサッと地面に落ちた。
「そうか」
(こいつらも......俺と同じか)
「襲ってしまった代わりと言ってはなんだが、いつでも困ったら、私たちを呼んでくれ」
そう言うと、リーダーが笛を渡す。
「分かったよ」
「それでは、私たちはこれで......」
「お元気で!」
「じゃあな」
兵士たちは野営地の森から姿を消す。
その背中にはどこか、覚悟が宿っていた。
燈夜たちは彼らが視界に映らなくなるまで見守った。
------静まり返ったフェスターン城内にて。
「クソッ、クソッ!」
国王が座の肘掛けを殴る。
その表情の怒りが露になる。
「国王、落ち着いてください」
兵士が宥めるも、
「この状況を鑑みてものを言え! ふざけるな! 使者を送ったのに、勇者や使者すらも帰って来ぬ!」
今度は両手でアーム部分を殴りつける。
「怒りはごもっともですが......」
兵士が国王へ論を展開しようとした。
その時......バシュン。
兵士の頭が消える。
そして、カチャと。
頭のない、兵士だったものが床に倒れ込む。
「ひっひぃぃぃぃ! 誰だ! 貴様は!」
怯えて、逃げることすら叶わない。
「これはこれは。無礼を働きましたね。私は魔王軍幹部、アミュレットと申します」
カチ、カチと。
執事のような趣きで参ったアミュレットは黒の燕尾服を着付けている。
キラキラと輝く黒髪はまるで黒曜石、透明感の宿る瞳はまるでダイヤモンド。
いや......比喩じゃない。
本当の鉱石で創られている。
皮膚ですら妙な煌めきを帯びる。
「魔王軍幹部が何しに......勇者は居ないぞ!」
「だからこそです。フェスターンは腐っても商業だけは素晴らしいので、ここを潰して、一時的とは言えど、装備の流通を止めようか、と」
「ぐっ! 兵士よ、儂の盾となれ!」
そう命令するが、誰も来ない。
声が木霊するのみ。
「相当、阿呆な王ですね。さぞかし......甘ったれた生活をなさって来たのでしょう」
アミュレットがゆっくりと国王へ歩み寄る。
「来るな! 来るなぁ! 来るなァ!!!」
直後、血飛沫が舞う。
あの口うるさい国王が黙り込んでいる。
これからも喋ることはないだろう。
「それでは、さようなら。フェスターン」
アミュレットがパチンと左を鳴らす。
瞬間、その場にいた生者や死者を問わず、全てが赤く、青く、輝く宝石と成り果てた。
「勇者の宝石は何色だろう?」
その声には感情が一切......乗っていなかった。
------夜の野営地へ戻り。
「トーヤ、これからどこに行くの?」
焚き火の光に照らされながら、マーニャが笑う。
燈夜は少し考えて、空を見上げた。
「……好きに行くさ。スキップしてな」
その目は、もうどこか遠くを見ていた。




