カッパ男
※この物語には恐怖表現が含まれます!
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キーンコーンカーンコーン。
チャイムが網目から漏れて流れてくる。
クラスの皆は学校が終わりだと、音を楽しんでいるようだったが、俺はそれをただ、清聴していた。
「なぁ。今日さ。ここで肝試ししない?」
唐突に顔を覗かせたのは、冬だと言うのに、半袖の制服を着た栗原。
栗色の髪を指先でくるくると巻いている。
「この学校にそんなの無いだろ」
俺は呆れた手つきで追い払おうとしたが、逆に栗原が食いつくように机を叩いた。
「それがな、あるんだよ。知ってるか? カッパ男の噂」
俺が知らないのを知ってて、栗原は訊いてくる。
意地悪め。
「きゅうりでも渡す気か? 馬鹿馬鹿しい」
俺はバッグに教科書を詰めて、背負った。
今日は猛烈に寝たいんだ。
「本当にやらねぇの?」
「もちろんだ。中口、こいつ置いて帰ろうぜ」
「いや、俺はやるけど」
「なんでだよ」
猫背で背の高い中口がおとぼけ顔で俺を見る。
「ものは試しに......」
「終わったら、新作のバーガー、奢るからさ」
2人は俺の肩を掴む。
「はぁぁぁぁ......いいよ」
俺は結論を出した。
「まじか!」
自分で言い出したことなのに、栗原はとんでもなく喜んだ。
「ただ、ポテトも付けてくれ」
「そっちかよ」
「逆になにがあるんだ」
肝試し......ジャンクフードのために俺達は普段誰も来ない音楽室の倉庫の中に隠れた。
遠くの寂しい車の音が窓ガラスを反射する。
「よし、先生はいなくなった」
栗原は埃で鼻がむずむずしている。
「で、そのカッパ男はどこにいるんだ」
中口から当然の疑問が飛びかかる。
「A棟3階にある......ロッカーだ」
「ふざけてんのか」
俺がぴしゃりと栗原の頭を叩く。
「なにすんだよ」
「居るわけ無いよ。居たら、ミイラでしょ」
中口も同じ意見のようだ。
「まぁ、一旦行ってみよーぜ......」
栗原はゆっくりと向かう。
2人に責められて、億劫なのだ。
道化のように鼻を赤くして、渡り廊下を通る。
階段を登り、あったのは掃除用具入れのロッカー。
「本当に居るんかなぁ」
「居るわけ無いだろ」
「開けてみよーぜ」
栗原が公園で遊ぶ子供みたく、ロッカーの窪みに手を入れる。
キィィィィィ......と、錆びついた響音がする。
少し、奥の影が揺らいだ気がした。
一番楽しいタイミングだろうが、俺は不意に瞬きをしてしまった。
ぐしゃり。
妙な音で目蓋を上げた時......栗原が地面に仰向きで倒れ込んでいた。
額は凹み、赤い液体が溢れている。
「えっ......くり......」
その言葉は名を呼ぶには儚く、静かに溢れ落ちた。
冗談だよな?
小さな願望を握って、上へ視線をやる。
快晴の空のような合羽が一つ。
奥は暗かったが、限界までかっぴらき、充血している眼がこちらを覗いていたのだけは分かった。
怖い。
怖い、でも、慌てたら、ダメだ。
怖い、それでも、中口と一緒に逃げなきゃ。
一周回って冷静になった。
「中口、逃げるぞ!」
俺は急いで、左へ駆けようとする。
くっ、中口の奴め。
「えっ?」
反応の遅い中口を見て、俺は袖をがしっと掴んで、廊下まで体を引っ張る。
「すまん」
「良いから走れ!」
俺達は死に物狂いで走る。
後ろからぴちゃりぴちゃりと水を含んだ足音が反響する。
渡り廊下まで着いて、膝に掌を乗せた。
「っぁはぁっ......どっかに隠れて、警察呼ぼう!」
「中っ口っぃ。それなら、体育館の倉庫だ! あそこなら、鍵を掛けれる!」
先生に、家族に、バレたって良い。
誰でも良いから、助けに来て欲しい。
ほんの僅かな小憩で俺達はまた、駆け出す。
視線は自然に下を向いている。
今すぐにでも、体を休めたいんだ。
だけど、それをする暇はない。
ここはもう半分で渡り切れる。
が、
「っ嘘だろ......」
中口が足を止め、意図せず、顔を上げる......
そこには、見覚えのある合羽があった。
突如、血走った眼が駆け寄ってくる。
足が竦む。
「お前だけでも!」
声が俺の胸を叩く。
「逃げろ!」
すまん、中口。
俺は中口を背に後ろを向く。
一、二、三。
と、何かが破裂するような音がした後、辺りが自分の息で一杯になる。
階段を降りて、体育館に入る。
闇が広がるばかり。
電気を付けたら、怪物が分かってしまう。
だから、俺は電気を付けずに月の光を頼りに探し出す。
やっとのことで見つけ、鍵を閉める。
俺は隠しにあるスマホのロックを外して、電話に110と入れた。
すると、ぴちゃりぴちゃり。
あいつの足音が聞こえる。
どくん......どくん......
幸い、電話の音は小さい。
大丈夫だ、鍵も掛けてる。
どくんっ。どくんっ。
心臓な鼓動がみるみる大きくなる。
どくん! どくん!
ぴちゃり......ぴちゃ......ぴち......
通り過ぎた......?
この数秒の間に、通話は繋がらないが、俺は安堵で胸を撫で下ろす。
きぃ......ききききききき......きぃぃぃぃぃぃぃ!
少しの隙間から手が出てきて、それが甲高く閉扉を剥がす。
眼前に合羽男。
俺は座したまま、下がろうと手足を地に擦る。
しかし、跳び箱やマットが邪魔をする。
最期の俺の視界には手だけが映されていた。
ぽたっ......ぽた。
赤い何かがマットから滴り落ちる。
〈事件ですか? 事故ですか?〉
先には電源の入ったスマホが。
〈......大丈夫ですか? 話せますか......?〉
その声に、ぽたっ、と返す。
〈......〉
学校はいつもの静寂になる。
聞こえるのは鳥と虫の鳴き声......そして、水の音だけである。




