私以外の
初めてカラッソに行った日から、私はそこを新たな活動地点として定めハンター稼業を続けていた。
転移魔法で初めてこの街に飛んだ時はすぐ近くに人がいるなどのハプニングもあったが、人気のない場所を探し当て転移魔法と隠蔽系の魔法を併用してからは、その心配をすることはなくなった。
パーティーを組まずに転移魔法を駆使して、何度か一人で行動しているときに、私はあることに気付いた。それは、いちいちカラッソを経由する必要はないのでは? ということだ。
転移魔法を使えるなら魔物領域に直接飛び、そこから狩りを開始すれば良いのではないか。そしてこれは別に今回の話に限ったことではなく、魔物の素材を売却するときだけハンターギルドに顔を出すだけで、これからは常にそうした方が色々と捗るのではなかろうか。
そのことに思い至った私は色々と考えた末に、とりあえずカラッソの中を探検することにした。もしかしたら私が知らないだけで、役に立つ物や便利な施設がたくさんあるかもしれない。もしそうであるならばわざわざカラッソに戻る価値はあるだろう。そう考えたのだ。
そして私は予定を変更して、カラッソの街中へと繰り出したのだった。
カラッソは魔物狩りが集まる街であるからか、魔物狩り向けの場所が多かった。
武器や防具を製作する工房からそれらを販売する店を始め、魔物狩りに役立つ野外用の道具や魔道具なども含めて、様々な物を扱っている百貨店のような商店など色々と存在した。
歓楽街も当然のようにあり、子供の私が訪れるのには躊躇われる場所も多々あった。と言っても躊躇う以前に私はそういう場所に興味など微塵もわかないので、入る気はさらさらないが。
私は大通りの店は一通り見れたと、今度は主要な道を外れ路地裏や裏通りなどを探検することにした。そこは大通りの華やかなイメージと違い、寂れた雰囲気や怪しげな様子の建物など、ここまでに見た所とは正反対の雰囲気を漂わせていた。
これでも貴族家の一員として生まれた私にとって、このような日の当たりにくい街の裏側は当然縁のない場所である。だからなんとなくいけない事をしているという、背徳的な感情から生じる緊張や興奮といった気分によって、いくらか胸の高鳴りを感じていた。
私はある種の冒険をしているという、ワクワクとした高揚感に引きずられるようにして、スイスイと複雑な街路を軽快な足取りで進んで行った。
そして迷った。
自分が来た道をただ戻るのでは面白くないと思い、先の先の道に進んでいったことが原因だ。自身の楽観が招いた事態であり、いざとなれば転移魔法を使えば解決するだろうという慢心も、今の状況に陥った理由の一つとも言える。
実際いざとなればいつでも脱出できるので、焦りや不安といった負の感情は微塵も湧かなかった。
それにしても、随分周囲の様相が先ほどまでと違ってきている。今いる辺りを見回しても、商店らしい建物は一切見当たらず、民家と思われる建物も相当の年季を感じさせる。人の手入れが行き届いていないと思われるものも少なくない。
もしやここは俗に言う貧民街か何かなのではと、そこまで考えたところで、私の感覚に微妙な違和感が届いた。
これは一体なんなのかと、なんとなしに疑問に思い、自分の感覚に従ってその違和感の正体を突き止めようと歩を進める。そしてそれほど時間がかからずに、そこそこの広さのある空き地に辿り着いた。
私はそこで違和感の正体に遭遇した。
歌だ。
空き地の中心部よりやや奥側で、こちらからは顔が見えないが子供が、歌を歌っていたのだ。
聴いたことのない歌ではあるが、穏やかで暖かみのあるメロディは、私の心を静かに震わせていた。
やがてその歌唱が佳境に入り、クライマックスを迎える。その後は段々と終幕に入り、最後には静寂が訪れた。
たった今まで自分の鼓膜を震わせていた目の前の歌に、私は名残惜しさを感じつつも耳の奥に残る余韻を楽しんた。そしてほどほどのタイミングで、その人物に向けて拍手を送った。
突然の異音に驚いたのか、あるいは自分の後ろに人がいることに驚いたのか、とにかくその人物はビクッと肩を震わせると、警戒するようにゆっくりとこちらへと振り返った。
性別不詳だった目の前の歌い手の正体は少女だった。確かに男児にしては声が高く長い髪だったので納得である。
「驚かせるような真似をしてすまない。歩いていたら君の歌が聴こえてきてな。あまりに見事だったから、思わず立ち聴きしてしまったんだ」
私は驚かせたことを謝罪し、少女の歌を賞賛する。
しかし少女は私の言葉に返答することなく、口を半開きにさせた状態で固まっている。想像以上に驚きが強かったようだ。
確かにいつの間にか怪しげな仮面を被った黒装束の人間が自分の後ろにいて話しかけてきたら、子供でなくてもびっくりするだろう。
その考えに思い至った私は、用件を手短に済ませることにした。
「どうやらこんな風貌の人間に突然話しかけられて困惑しているようだな。私はすぐにこの場を離れるから安心してほしい。ああ、それと君の歌に対する私からの報酬だ。取っておいてくれ」
そう言って懐から出すように見せかけて、収納魔法から硬貨を一枚取り出す。未だ動かない少女の手をとってそれを半ば無理矢理に握らせると、さっさと踵を返した。
それにしても吉兆というのは重なるものだ。そう一人納得しているところで、後ろから声が掛けられた。
「ま、待ってください!」
私は声に釣られて振り向く。
声の主は当然一人、先ほどまで見事な歌を響かせていた少女だ。
「あ、あの……ええっと……こ、これ貰いすぎ! ……じゃなくて」
少女は言いたいことがあるらしいが、言いにくいのか頭の中で上手くまとまっていないのか、はっきりとしない。
とりあえず向こうから話しかけてきたので私も普通に応対する。
「言いたいことがあるならばはっきりと口にしてくれいい。別に一言二言で急に激昂したりはしない。それとその報酬は私から君の歌への正当な対価だ。素直に受け取ってほしい」
「で、でも、私の歌なんかにいくらなんでも10万リアなんて……」
私が彼女に渡したのはこの国ラークシャル王国が発行する通貨、10万リア硬貨だ。
だいたいランク8の魔物の魔晶核の買い取り金額がこれくらいである。使う方ならこれ一枚で、食堂や酒場で好きなだけ飲み食いできるくらいだろうか。さすがに一食が10万リアで収まらないならば、一流のハンターでもなければ破産が確定してしまう。
仮にも上級貴族家の一員であり、そこそこ凄腕ハンターの私からしたら端金なのだが、彼女にとってはそれなりの金額になるらしい。であるから金銭感覚の違いから来る価値観の相違は軽く受け流す。
「それよりも君は他に何か私に言いたいことがあるのではないか? 私としてはそちらの話を聞きたいものだな」
私の態度に少女は息を詰め、迷った素振りを見せながらも、やがて観念したかのように言葉を吐き出した。
「わ、私の歌が良かったって、どういう意味なのでしょうか?」
その質問に私は首を傾げる。
「どう、と言われてもそのまま意味しかないのだが。もっと多彩な褒め方や、具体的な評価を求めているという意味かな?」
「いえ! そうではなく……気分が下がったり、悪くなったりしませんでしたか?」
「特にそういった変調は感じていないが……。むしろ君の歌を聴いて気分は上向いていると言っていいくらいだ」
「そうですか……」
いまいち意図を理解できない質問だったが、もしかしたら彼女は過去に、歌うことで嫌な思いをしたことがあったのかもしれない。
私は敢えてその部分に踏み込んだりせずに、彼女に自信を持たせる意味でも改めて賞賛する。
「互いに互いを何も知らない身同士ではあるが、私にとって君の歌は賛辞を送るのに相応しものだった。そしてそれだけが私にとっての事実だ。だから君も少しは自分の歌唱に誇らしくしてくれ。でなくては、それを褒め称えている私の立つ瀬というものがないではないか」
少し戯けた口調で言うと、少女は困った風にしながらも笑みを見せてくれた。
それを見て、仮面の下で私の口元も綻ぶ。
「そうだな、遅ればせながら自己紹介をしよう。私の名前はプラウス。奇怪な風体をしているが、これでもれっきとしたハンターだ。そしてもちろん魔法使いでもある」
「……プラウスさん。あっ! 私の名前はリナって言います!」
「そうか、よろしくリナ」
「あっ、はい! よろしくお願いします!」
まだ緊張が抜けきらないのか、言葉に力が入っているリナ。とにかく私たちはお互いに最低限の自己紹介を終え、名前を知り合う仲となった。
関係の構築を特に急ぐ理由もないため、今回はこれくらいで切り上げることにする。
「知り合って初日から深く付き合う必要もないだろう。私は今日はもう帰ろうと思うが、ここに来ればいつでも君の歌は聴けるのだろうか?」
「あっ、いえ……いつでもというわけではないですけど、たまにここに来ています。歌わないときもあるけど……でもプラウスさんが来るなら歌います! ……まだあんまり自分の歌に自信を持ててないけど、えっと……プラウスさんの立つ瀬を、立たせないといけないので!」
「そうか、では私もなるべく君……リナの歌を聴くためにここへ足を運ぼう。リナに自信を持ってもらうためにもな」
リナの独特な表現に私も冗談っぽく返す。それを聞いてリナは一瞬キョトンとし、「なんですかそれ」と笑ったので、「君の方こそ」と、私もそれに釣られて笑いで返す。
互いにお互いの言葉で笑い合った後、私は今日の出会いに別れを告げる。
「ではなリナ。いつとは確約できないが、また必ず君の歌を聴きにここへ来る。そのときには今日以上の会話を交わそう」
「はい、プラウスさん。絶対にまた私の歌を聴きに来てくださいね」
これが私ことプラウスと、歌う少女リナとの出会いの日だった。
私とリナの関係は初めて会った時から続いている。近くに人気のない転移に最適な場所を確保し、ハンターとして一狩り終えた後や、そうではなく単に休みの日にも通っている。
初めはリナが一曲歌い私が聴くだけだった関係も、約束した通りお互いのことを教え合ったり、近況を語り合ったりもした。リナの方も大分緊張が解れ、笑顔も度々見せるようになってきた。そしてそんな会話の中で、私はリナについてある事実を知ることになった。
彼女が孤児であることともう一つ、彼女が魔力を持たないということだ。
前者は理解できる。まだ子供と言える年頃の少女が、お世辞にも身綺麗とは言えない格好で、一人街外れの寂れた空き地で佇んでいたのだ。世間知らずの自覚がある私でも、そのことは容易に察することができた。そのため踏み込み過ぎないように対応に気を使ったつもりだ。
だが魔力を持たないということはどういうことなのか、私は普通に疑問に思った。
この国の五歳を迎えた子供は、必ず魔力測定を行う。基本的にそこに例外はなく、貴族も平民もこれだけは公平に行われる。だから魔力を持たないというのはこの魔力測定の結果が著しく悪かった。私はそういう意味だと理解した。
しかしながら私の理解は外れていた。
彼女の魔力測定の結果は、魔力量,魔力放出量,魔力回復量の全てにおいて最低評価であり、人ならば基本的に誰しもが持つとされる適正属性においても、示した属性は皆無だった。
つまりは彼女は──リナは私と同じ、否、私以上の、正真正銘忌み子と呼ばれる存在だった。
これを口にしたときの彼女の顔は酷く儚げに見えた。
適正属性を持たない人間はこの世に少なからず存在する。
魔力があっても、それを変換するための器である肉体構造そのものに異常があるのだ。そのため魔力に属性を持たせることが出来ない。という事が今日までの研究結果で判明している。
先天的な障害とも言えるこれはしかし、軽度のものならば治療が可能であるとされている。
だがその治療を受けられるのは多額の金銭を有している者か、あるいはその金銭に見合うだけの才能を発揮できると期待される者に限られている。この障害を抱える大多数において、魔法とは産まれながらに縁遠いものなのだ。
だからといって今を生きるのに絶望するわけではない。
技術が未発達な時代ならともかく、現代には多種多様な魔道具が存在している。魔石でも使用できるこれは、当然魔力を放出できる者ならば誰でも扱うことができ、擬似的にではあるが魔術という形で魔法を再現することも可能である。
そのため、今現在この障害は個人にとって、然程重大な問題があるとは認識されていない。
──その魔力すらも余分に持たない人間を除いては。
「……軽蔑しましたかプラウスさん? どんなに歌うのが……上手でも、上手なだけの私が魔力を持たない欠陥人間だと知って」
そう私に問いかけるリナの瞳は、まるでこの世に何も期待せず、今に何の希望も見出せていない、そう私に訴えかけているようだった。
それを目にした私は、かつての自分、こうなる前の私がどうだったのかを自然と思い出させれた。
同年代の誰よりも早く言葉を覚え、文字を記憶し、知識を溜め込んで神童と持て囃された幼少期。魔力測定の結果、両親含めた周囲の結果を裏切った5歳頃。無駄と思われつつ、かもしれないと思いつつ、訓練を重ねた6歳までの日々。
リナは確か今9歳と言っていたか。つまりは6歳の頃、力に開花しなかった私と言えるだろうか。
いや、言えないだろう。私とリナでは生まれも境遇も育った環境さえも違いすぎる。
方や貴族、方や平民に生まれ、両親に愛された私と、おそらく捨てられたであろうリナ。知識を身につけることも、況してやまともな教育を受けることもできないでいる彼女と私では、何もかもが違いすぎる。
だから、自分とリナを比べるのはやめた。
「……プラウスさん?」
「あぁ……すまない。少し考えに耽ってしまってな。リナを軽蔑するかどうかの問いだったか。それに対する私の意見は『いいえ』だ。そんなことで嫌いになったりはしないな」
「……っ! 嘘です! お母さんもお父さんも私を捨てました! 孤児院の他の子たちだって私のことを気持ち悪いって言います! プラウスさんも心の奥ではそう思っているんじゃないんですか!?」
急に大声で捲し立てるように言葉を連ねるリナ。
それは彼女にとって、心の底に沈めた箱に閉ざした内なる気持ちだったのだろうか。彼女と仲を深めたことで、私がその箱を開ける一助になってしまったのか。
これはきっと私と彼女の関係を維持するためには避けられないことであると思った。
「いいや、思ってないよそんなことは。全く爪の先ほどもね。私の爪は手袋で覆い隠しているので見えないだろうが」
「……どうしてですか?」
「取るに足らないことだからだ。私にとって君は歌うことが上手な少女。この認識だけが私と君を繋げた事実だったからだ。それ以外は私と君の関係を阻害するに至らない些事に過ぎない。なぜなら私は君が高名な魔法使いだったから、あの時この場で君に拍手を送ったわけではないのだから」
私の言葉が耳に届き、意味を咀嚼し理解したリナは僅かに目を見開いた。
「まぁ……でも、いつまでもただの歌手と聴衆の関係では味気ないからな。私としてはこの先の関係へと進めたいと思っているんだが、リナはどうだ?」
「先の関係……? ……ま、まさかこここ、恋人ですか!? そ、そういうのはまだ早いです!!」
「……いや、友人関係のことなんだけど。リナって年齢の割にませてるんだね……。あぁ、それとちなみに私の性別は女だよ」
「ゔっ……って、プラウスさん女の人だったんですか!?」
この日一番の大声を出して驚嘆するリナ。この子なんだか急にすごいキャラが変わったなと思いつつ、これがリナ本来の性格であるのだろうと納得する。
リナがプラウスの性別に驚くのも無理はない。私もそう勘違いさせるために振舞っているし、このことを自分から明かすつもりもなかったからだ。しかしリナが自らの秘密を打ち明けたのに、私だけ未だ何もかもを偽り続けるのは、この先友人となるであろう間柄のリナにとってあまりに不義理である。
私は現在プラウスであるが、仮面の下の正体はミーナ・リシャールだ。いずれその正体を明かすにしろしないにせよ、いざというときの余計な齟齬はなくしておきたい。
そう思い秘密の一端をリナにだけ明かすことにした。
「それでどうかなリナ? 私と友人になるのは」
「……」
迷うような素振りを見せるリナ。
先ほどまでの澱みを纏った瞳の色はもうない。ただ期待して裏切られるかもしれないという恐怖があるだけだ。
私もその想いを味わったことがあるから知っている。その恐怖と向き合わないようにすることが最も楽で傷つかない方法であることも。
だけど同時にそれに打ち克つ術も知っている。何より私自身がそれを身を以て知ったからだ。
「それほど複雑に考えることはないぞリナ。言った通り、私たちの繋がりの始まりは君の歌だ。君の歌が私たちを繋ぎ、関係を築かせた。友人になるというのはその関係を更に進展させ、発展させようというだけだ」
「……歌がない私は、プラウスさんにとって価値がないって意味ですか?」
「違う。確かに私は君の歌には大きな価値があると思う。だが同時にそれだけでしかないとも思っている。私は君の歌を聴いた。君の歌を知った。そして君を、リナという一人の人間を知った。たとえ君がもう歌を歌わなくても、歌えなくなったとしても、私の中にリナという存在は既に刻み込まれている。残り続けている。だから君の歌は君の持つ価値を知るための切っ掛けでしかなく、そこには確かに君という、君だけの価値が存在しているんだ」
その恐怖に打ち克つ方法。それは他者からの言葉とそれに込めて伝えられる想いだ。
魔力測定の結果が出たあと、私は父に失望され、ほとんど見限られたものだと思っていた。母に対してもそうだ。母は相変わらず私に愛情を注ぎ続けてくれたが、私は心のどこかで壁を作り、学ぶという名分で自分だけの世界に逃げていた。
だがそうした私の態度とは裏腹に、父と母の想いはあの日から少しも変わっていなかった。それを私は知ることで、二人に再び向き合う意志を得られた。
「……私には、私だけの価値があるんですか?」
「そうだな。私はそう思っている」
「……でも、だったらお母さんとお父さんは」
「君の御両親の心中は私にはわからない。君のことを愛していたかもしれないし、そうでなかったかもしれない。それは本人たち以外には誰にもわからないことだ。だから、私が君に伝えられるのも私の気持ちの分だけだ。そしてその私の気持ちは既に君に伝えた通りだ。リナ、君は決して無価値なんかではない」
私の言葉に自然と目の端に涙が溜まっていくリナ。それがだんだんと溢れ、頰を伝い、滂沱となって重力に従い流れていく。
やがて嗚咽が混じり始めたところで、私は自然と彼女の顔を胸に引き寄せ優しく抱いていた。彼女は抵抗することなくそれを受け入れ、憚ることなく私の胸の中で泣き喚いた。まるで妹を相手にしているみたいだなと思いつつ、私はその小さい背中をさすり続けた。
その後幾ばくかの間、その場に少女の泣き声が静かに響いた。
「君の涙と鼻水で私のローブはベタベタになってしまったな」
「ご、ごめんなさい! 私弁償しますから!」
泣いたリナを慰めた私は、泣き止んだ彼女に開口一番そう言ったのだが、真面目なリナは変な受け取り方をしてしまったらしい。
「別にこれくらい構わない。それにそもそも君はそんなお金持っていないだろう」
「プラウスさんから貰ったお金がまだたくさんあります! 全然使っていないので!」
彼女が一曲披露するごとに私が渡している投げ銭は、初めての金額から減って1万リアとなっている。本人は相変わらず貰いすぎだと遠慮するが、ただでさえ十分の一に減っているのにこれ以上減るというのは、私が歌の価値を下げているみたいで嫌だと伝えたら、渋々それで納得してくれた。
そんなリナがローブを弁償すると言ってくれるが、それは不可能だろう。仮に私が一曲に10万リア渡していたとしても全く足りないと思う。
「そのお金は私が君にあげたものだ。自分のために使うといい。それにそもそもこの程度、弁償どころかクリーニングすら必要ないよ」
そう言って私はローブについたリナの体液を魔法で出した水で洗い流す。
それだけでローブは元々汚れがなかったかのような輝きを取り戻した。
「戦闘中に魔物の血を浴びることも考慮して、このローブには高い撥水性を持たせているんだよ。だからリナが気にすることは何もない」
「……プラウスさんって凄いんですね」
この場合凄いのはローブの機能の方だと言えるが、一流のハンターの条件には装備を揃える財力も含まれるものなので、素直に賛辞を受け取っておく。
「それよりも、君と私はもう友人関係と考えていいのかな?」
「あっ、はい、よろしくお願いしますプラウスさん」
最後はなんだか軽い雰囲気で決まったが、そういうわけで晴れて私とリナは友達同士になった。
私にとっての初めての友達だ。へへっ。




