私の敵/私の望み
最近はメアリーが魔法の訓練に精を出し、姉様もダミアンの勉強を見たりと、二人とも個人的に行動している。そのため、私は以前のように一人寂しく書庫通いの日々を送っていた。
この日も私は書庫に通い本を読んでいた。そうして魔物に関する本を読んでいる最中に、ふと頭にある疑問が浮かんだ。
魔物とはいったい何なのだろうか。
普通はそんなことは思わない。そういうものだと納得するだけだ。しかし、私の知識にある世界では魔物も魔法も存在していなかった。
ならばなぜこの世界ではそれらが存在するのか。
魂の在り方が、この世界と私が知るもう一つの世界で異なるのは、既に理解している。魂が魔力を生み出し、肉体を通して魔法と成る。それが魔法だ。それは理解できる。
ならば魔物は?
魔物は現在知られている人類史の初期には既に存在を確認されていて、その起源は定かではない。分かっているのは人類に対して敵対的であり、捕食対象と見ているということくらいだ。
もちろん魔物同士で殺し喰らい合うことも頻繁にある。そしてその分だけ強力な個体へ成長する。
個体毎の成長や進化というのは、生物として非常に不自然に思えるが、種族によって大きく外見や特徴が異なるので、そこは理解できなくもない。そもそも人類が魔物とそれ以外を区別しているのは、魔晶核の有無でしかないのだ。
魔晶核という存在が、魔物を魔物たらしめている条件と言い換えてもいい。
そうであるなら魔物とは……
そこで私の思考は強制的に中断される。突然自分に向けられた殺気に気づいたからだ。
椅子から飛び降りるようにして距離を取った私は、いつでも魔法を発動出来る状態で、殺気を発した人物を視界に収めた。
そこには一人の男が立っていた。黒色の貴族服を見に纏い、指や首には多くの装身具を身につけているが下品には見えない。短く切り揃えられた青い髪と、碧色の輝きを瞳に灯した壮年の男。
その鋭い視線は私を捉えている。男は右手で口元の髭を軽く触りながら、徐に口を開いた。
「魔力も無く、魔法も使えないと忌み子という話だったが……なるほど。あの噂やベルトランの話は真実だったというわけか。それとも母親譲りの小賢しい体術の結果なのか。どうなんだ、答えろ」
突然現れ殺気を向けてきたその男は、上に立つ者の威厳を感じさせる傲岸な口調で、私に対して命令した。
「……いきなりのその言動、例えリシャール家の客人だとしても、礼を失しているのではないですか? まずはご自身のお名前を──」
「黙れ。早く答えろ」
有無を言わさない厳しい口調を崩さず、男は傲然と告げる。
先ほどよりも険しくなった視線。それに射竦められそうになるのを耐え、私は中断させられた言葉を続けた。
「まずは名前を名乗ってください」
改めない私に、男は怒気を膨らませ睨みつけてくるが、負けじとこちらも睨み返す。相手が貴人であるならば、ともすれば無礼打ちにもされかねない態度であったけれど、男はやがて怒気を抑えた。
「ふん、ただの小娘というわけではないか。これならあの若造が貴様を放逐しないのも理解できる。私を前にしてのその不遜な態度。それは貴様には私を恐れるに値しない相手と考えてのものか。それともそれだけの何かを貴様は持っているのか」
「……」
男の質問に、私は閉口したままだ。名前を聞いているのに、質問で返してくるこの男の問いには意地でも答えない。
そんな私の堅固な意思を感じ取ったのか、男は自らの名を告げた。
「私の名はドヴェルグ・カールストン。カールストン家の現当主だ。覚えておけ」
カールストン……リシャール家と同格の侯爵家でイザベルの実家だ。そして目の前の男は自分をカールストン家の当主だと言った。つまり目の前の男は、カールストン侯爵本人であるということだ。見ればイザベルやメアリーと同じ髪色をしている。
そんな大物が私に何の用があるのか。私を忌み子と呼んでいたから、侯爵自ら始末しに出向いたのか。ベルトランの名前や噂がどうのと言っていたから、私が魔法を使えることを確認しに来たのか。
真意を確かめようと決心すると、即座に居住まいを正した。
「カールストン侯爵に対する非礼をお詫び致します。私の名前はミーナ・エマール。父はリシャール侯爵家当主であるエドモン・リシャールになりますが、今は訳あって母方の性を名乗っております。カールストン侯爵に置かれましては、本日はどのような御用向きで私の元にいらっしゃったのでしょうか?」
「そんな繕った形だけの礼など不要だ。自然に話せ」
「……私に何か用ですか?」
言われた通り笑顔を消して無愛想な態度に改めた私に、ドヴェルグはここに来てから初めての笑みを見せた。
「それの方が貴様らしいな。以降公の場以外ではそれで構わん。さて、私がここにいる目的だったな。特別な理由はない。貴様を見に来たのはついでのつもりだ。──今は違うがな」
ドヴェルグは碧色の瞳を細め、見極めるような視線を向けてきた。
「貴様が孫のメアリーと仲睦まじいのは知っている。それに関してはどうでもいい。重要なのはクラリス・リシャールと、その師であるシャノン・グレンフェルも同様であるということだ。かの大魔導師は、多くの弟子入りを望まれながらも、実際にそれが叶った者は極僅かだ。この国でも奴の弟子と呼べる者は、指の数で足りる程度しかいない。クラリスがその僅かに含まれたことに疑問はない。あの娘は私から見ても傑物だからだ。だがグレンフェルは、メアリーにも教えを施したという話ではないか。私はそれを耳にし疑問に思った。アレは優秀だが、認定魔導師に師事するほどの才はない。であるならその理由は何か。考えられるのは奴の気まぐれか、あるいは何らかの心境の変化があったか、何者かがそうさせたかだ。その何者かがクラリスであるならば、ここまでの話は無駄になる。だが思い出したのだ私は。魔物狩りの最中にランク6の魔物と遭遇し、生き延びた少女のことを」
そこで言葉を区切り、視線を私から天井に向けた。
「ギリアム・ガモーとハリス・バーナー。この二人の名には聞き覚えがあるな? 魔物狩りで貴様を護衛した騎士の名だ。生き残ったハリスは、ギリアムは魔物との戦闘で命を落とし、その奮闘の結果件の魔物の討伐に成功したと語ったそうだ。だがそれは妙だという声が騎士団内で上がった。下級騎士の二人でランク6の魔物を討伐したという事実もだが、ギリアムが命を賭してその魔物に挑んだという点にだ。奴はそれほど評判のいい男ではなかったらしくてな。そんな男が他者の為に命を賭けるような真似をするのかと。結局特に反証もないため、ギリアムは騎士道に殉じたと判断された。私もそういうものだとさして気に留めなかった。──しかし私は、この話が先の話と繋がる可能性に思い至った。両方に深く関わっている少女について。つまりは貴様のことだ」
再び碧い瞳に私を映し、正面から見据えてくる。
「貴様にはあのグレンフェルに興味を抱かせる何かがある。ただ年齢以上に賢いなんて低レベルな話ではない。大魔導師の意思を翻させる何かだ。そしてそれはギリアムの件とも決して無関係ではない」
言葉の一つ一つに私が反応するかどうか、確かめるように観察するドヴェルグ。
私は無表情を維持し、ドヴェルグの顔より下に視線を固定し続けた。
「ふふっ、頑固だな。それともそんなものは本当にないか? これはあくまで私の推測混じりの妄想でしかないからな。そういうこともあるだろう」
もう一度私から視線を外し、ドヴェルグは更に続ける。
「今、この大陸では転換期を迎えている。ここから東では海を越えた先から人や文化が流入したことで、価値観の変異が起こり革命が勃発した。北では帝国が領土欲を隠すことをやめ、戦争の兆しを見せ始めた。南では剣王国と連邦が大陸西側遠征のために手を組んだ。そして西の勇聖国では、勇者の再来と目される少年が誕生した。……流れがあるのはこの大陸だけではない。西の大陸では、文献にある魔王の特徴に酷似した個体が複数確認されている。討伐に成功した個体もあるが、全く歯が立たない推定ランク2以上の脅威度を持つ個体も存在しているそうだ。そんな奴が動けば、再びこの大陸に災禍を撒き散らすやもしれん。──ここラクシャール王国でも、貴様の姉クラリスを筆頭に英雄の卵が育っている。しかし、それだけでは足りない。必要なのだ! 流れに抗う力が! 撥ね退ける武力が! でなければこの国は時代の波に沈められ、滅亡の一路を行くことになる!」
熱く語るドヴェルグとは反対に、私の気持ちは冷え切っていた。
目の前で勝手に盛り上がる男へ、興味がなさそうな視線を向ける。
「……それで、その話が私に一体何の関係があるのですか? 私にクラリス姉様はもちろん、メアリーやダミアンほどの期待も寄せるのは無意味ですよ。なんたって、私は無能ですから」
「それは知っている。貴様がなにを隠していようが、魔力測定の結果は覆らん。だが貴様の持つなにかが、この流れに抗する一因になるやもしれん。だからその何かがあるのなら私に付け。この国のために、私が貴様を上手く使ってやる」
私の目を真っ直ぐ見つめ、真剣な眼差しをを向けるドヴェルグ。
私は差し出された手を取る以前に、どうしてもこの男に聞かなければならないことがあった。
「それに答える前に質問させて下さい」
「……なんだ?」
「あなたは、私と母を一度でも殺そうとしましたか?」
ドヴェルグは一瞬目を細めた。
「いや、私はそんな指示は出していないな」
真顔で、何の後ろめたさも感じさせずに吐くその嘘に、私は元々出ていた結論を口にした。
「あなたの手を取るくらいなら、この国から出て行った方がマシです。大方、私を通じて母様やクラリス姉様、それとあわよくばシャノン様の懐柔を狙ったのでしょうけれど、当てが外れましたね。それともカールストン侯爵ともあろう者が、よもや噂や妄想を真実として捉えてしまったのですか? それはご愁傷様です。耄碌したのなら、さっさとその席を次代へ譲ることをお勧めしますよ」
私の挑発に、ドヴェルグは表情を変えないまま魔力を解放した。
突如現れた水は私の顔部分を覆おうとしたが、私はそれが顔に触れる前に掻き消した。
「……ほう、それがベルトランの言っていた他者の魔法を消す力か」
「祖父孫揃って堪え性がないですね。それとも私を試したつもりでしたか? それならあなたの企みは大成功です。おめでとうございます」
興味深げにいま目にした私の力を咀嚼するドウェルグに対し、私は内心の焦りを微塵も出さずに皮肉で応じる。
強がりを言って誤魔化したが、正直ギリギリだった。おそらく初級程度の魔法だったというのに、魔法の支配権を奪うのに低ランクの魔晶核を丸々一つ分使わされた。この男は決して侮れない。
私が内心でドヴェルグへの警戒度を上げていると、当の本人は私の言動に気にした様子も見せず、笑みを浮かべた。
「クラリス、アナベル、そして貴様……ミーナか。少数ながらこの家には粒が揃っている。ああ、ベルトランとメアリーもいたな。あの男は種馬としては非常に優秀だったのかもしれん。もう一人か二人イザベルに作らせるか? それとも別の若い女を宛てがうか……──ああ、すまんな。今はお前と話をしていたのだったな。どうだミーナ、今一度聞くが私に付かないか? 私ならばお前の望む物を全て与えられる。金でも宝石でも魔道具でもなんでもいい。なんなら私の養子にしてカールストン当主の座を譲ってもいい。今のお前にはそれだけの価値がある」
先程と打って変わって上機嫌になり、私への評価を改めたドヴェルグ。態度の変わりように気持ち悪く感じるが、これがこの男の本性なのだろう。おそらくこの男が他者に求めるのは力だ。母のような戦闘能力、姉様のような魔法の才能、そして私が持つような異質な力。そこに絆や信頼は必要なく、ただ自分の要求を満たす者であれば構わない。言うなればこの男は力の信奉者だ。
「先程もお伝えしましたように、私があなたの提案を飲むことはあり得ません」
私が丁寧な口調でそう告げると、自身の再度の提案を蹴られたドヴェルグは、笑みとともに表情を消した。
「……それは、私を敵に回すということか? 少々珍妙な力を使えるからといって、思い上がりが甚だしいぞ。私がその気になれば、貴様ら母娘などどうとでもできることを忘れるなよ」
「一体何をされてしまうのか。想像しただけでも恐ろしいです。それと僭越ながら、私からも一言ご忠告申し上げますね? 私の家族に手を出すなら、お前もカールストン家も纏めて潰す。覚えておけ」
ドヴェルグの脅しに、私は殺意を込めてそう返した。
ドヴェルグはそんな私を興味深そうに眇め、私はそれを睨み返した。
「面白い……。そこまで明らさまに敵意を向けられたのは久しぶりだ。貴様のそれが虚仮威しでないことを願っているぞ。すぐに死なれてはつまらんからな。もしもこの先、貴様が生き延び私の前に立ち塞がるなら、その時は私手ずから殺してやろう」
「はい。いいえ、私のような卑賤の身では、閣下のお目を汚してしまうだけでございます。その汚れは流水でも濯ぐこと能わず、閣下に消えぬ汚点を残すことになるでしょう。ですからそのような機会を持たれるには及びません。閣下は心身ともに、健やかに過ごすことをお心掛け下さい」
私の皮肉の篭った返しに愉快そうに笑うと、ドヴェルグは踵を返した。
ドヴェルグが部屋を出るの見送ってすぐ後に、入れ違うようにして青髪の少女が入って来た。
「ねぇミーナ。今お爺様が出て行ったけど、ミーナとお爺様なにかお話してたの?」
「ん? ああ、閣下は私に確認したいことがあったらしくて、二、三質問されただけだよ」
「ふーん」と納得した素振りを見せたメアリーは、「あっ!」と思い出しように大きな声を上げた。
「聞いてミーナ! お母様が! イザベルお母様が私といっしょに王都へ行こうって、さそいに来てくれたの!」
「ほんと? それはおめでとうメアリー」
「そ、それでねミーナ……ミーナもいっしょに王都へ行かないかしら! クラリス姉様も来年には王都行くし、ミーナもこのさいいっしょに王都へ行きましょう!」
興奮気味にいうメアリーを私はじっと見つめる。
不安と期待が込められたその瞳の色は、あの男と同じ色にもかかわらず、そこに宿る輝きと感情は全く異なっていた。
私はそんなメアリーが愛しくなって、自然と抱きしめてしまった。
急に抱きしめられたメアリーは「えっ!?」と驚くような声を出したが、すぐに私の後ろに腕を回し互いに抱き合う形となった。私はこの愛しい妹の提案に屈してしまいそうになるのを、奥歯に力を込めて堪えた。
やがてどちらからと言わず腕の力が弱まり、私はメアリーの容姿がよく見えるように、一歩距離をとった。
「メアリーごめんなさい。私は王都へは行けない」
「ど、どうして……? クラリス姉様だっているし、アナベル母様だっていっしょに来たらいいじゃないっ!」
信じられないといった雰囲気で言うメアリーに、ふるふると首を振り私は告げる。
「違うのメアリー、私にはやりたいことができたの」
「やりたいことって……前に話してたあの話のこと?」
「うん、今の私にはやりたいことがある。それは多分王都に行ってもできるかもしれないけど、それじゃきっと後悔すると思うから。私はそれを全力で遂げるためにも、今は王都へは行けない」
真剣な眼差しでメアリーの綺麗な青碧の瞳を見つめる。
メアリーはそんな私に若干顔を歪ませながらも、堪えるようにして顔を伏せた。
「そ、そう! それなら好きにしたらいいじゃない! わ、私は王都でここよりずっとゆうがな暮らしをするんだがらっ! そのときになってまぜてって言っても遅いからねっ! ……あやまったらゆ、許してあげないこともないけど……」
私は特に何か言葉を返したりはせず、静かに目の前にある妹の頭を撫でた。
メアリーは私に撫でられることに気付くと、私の胸に顔をうずめて声を押し殺すように静かに泣いた。
私は妹が泣き止むまで、優しく撫で続けた。
メアリーがこの家を出て行った。王都に行くためだ。
泣き止んだメアリーはそのまま短く「じゃあね」とだけ言って私と別れ、そのまま言葉を交わすことなく旅立っていった。少し寂しい気もしたけど、私が突き放した結果だと自分を納得させた。
そうしたらメアリーがいなくなったすぐ後に、姉様から手紙を一通渡された。
何だろうと思って私はそれを読むと、その差出人はメアリーであることがわかった。時間がなかったのか書きなぐったようなぐしゃぐしゃの字で、『王都へ遊びに来なさいよね 待ってるから』と短く綴られていた。
それが堪らなく嬉しく感じて私はその場で泣いてしまい、今度は私が姉様の胸を借りることになってしまった。妹というのは姉に甘えたい生き物なのかもしれない。
泣き止んだ私は、今一度決意を固めた。
革命が起きたドルトワルトでは、王侯貴族を始めとして有力者の多くが処刑された。
この国でも同じことが起きれば、父や母を含め多くの貴族が処刑される可能性がある。その中には姉様やメアリーの母や実家も含まれ、あるいは二人の首にも縄がかかるかもしれない。
戦争が起きれば、多くの兵や騎士が出兵を要請されるだろう。そうなれば騎士の人も戦わざるを得ない。侯爵である父もその例に漏れない筈だ。そして二人とも、そのまま戦場で帰らぬ人になるかもしれない。たとえ生き残ったとして、敗戦したならば待っているのはよくて捕虜待遇、悪ければそのまま処刑だ。良くてと言っても、敗戦国の捕虜に真っ当な暮らしが待っている筈もない。
そして最大の問題である魔物……魔王。
人類災厄にして、人類そのものを滅ぼし得る絶対的脅威。
人類側にもシャノンのような強者がいる。姉様もいるし勇者の再来も誕生したらしい。
しかしそれは、私が何もしないでいる理由にはならない。
いつか訪れたその時に、私は私が弱いことが原因で家族を失うなんてことは、絶対に受け入れられない。
力が必要だ。
抗うための力が、戦うための力が、守るための力が。
ドヴェルグ、私はお前と同じだ。力を求めている。
だがお前がそれを外に求めたのに対し、私は内に、自らに求める。
私は決意する。
家族を守るために、英雄も、勇者をも、魔王すらも超えて強くなることを。
──私は最強になる。
季節は巡り、メアリーに続いて姉様も家を出た。当然のごとくダミアンやそれとリディアーヌも泣く泣くついて行き、人が減ったこの家は随分と寂しくなった。
私は上底のある靴と黒いローブに同じ色の手袋、そして変声の魔術が込められた仮面を装着する。
そして亜空間収納から魔晶核を一つ取り出し、転移魔法を発動した。
山岳地帯に飛んだ私は、周囲を警戒しながら今日の目標を立てる。
「今日はランク6あたりの魔物を狙いに、少し奥へ行こうかな」
献立を決めるような軽いノリで方針を決めると、私は擬似魔闘術の応用で身体能力を上げて、一気に駆け出した。
景色が横に流れる。荒ぶ空気が身を叩く。周囲に存在する小さな魔物の反応は全て無視する。
そして、一際大きな魔力を持った存在を感知すると、その方向へと進路を取った。
やがて開けた場所に到着すれば、そこには全身に金属光沢がある岩を纏ったトカゲのような魔物がいた。そいつは巨大な口腔を開閉し、細長い蛇のような魔物を喰らっていた。
「アイアンロックリザード……魔法耐性は高いけど、私にとっては関係ない」
私は食事中のその魔物の眼前に堂々と姿を現し、挑発するように先制の火魔法を顔面に撃ち込んだ。魔物は正面から上級魔法を受けて軽く仰け反るが、多少の焦げがある程度で、ダメージらしいダメージは見当たらない。
岩鉱竜は食事の邪魔をした上に、餌を炭に変えた存在である私の姿を視認すると、激昂したように雄叫びを上げた。
「グルルルォォォアアアア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!」
その雄叫びは、常人が聞こうものならショック死するほどの音量で、周辺の大気を軋ませた。
風の魔法でそれを遮断し、自分への影響を皆無にした私は、これから殺す相手へ静かに告げる。
「お前も、私が強くなるための糧になれ」
──少女は家族を守るため、最強へと至る道を行く。
これで第一章は完結となります
ここまでお読みいただきありがとうございました




