初めての魔物狩り2
初めて魔物を狩るのを間近で見物して、更にその戦利品である魔晶核を貰って、森に入る前と比べて私の気分は大いに高揚していた。
ここに来たのも悪いことばかりでなかった。寧ろこれがあるなら大幅にプラスと言ってもいいかもしれない。そんな浮ついた気分でいる私へ、護衛の人はここら辺で一旦休憩すると告げてきたので、近くにあった木を背にして座り込んだ。そこで初めて自覚したのだが、普段よりも身体が怠さを感じていることに気づいた。私の肉体は慣れない森歩きに意外と疲れを覚えていたらしい。私の貧弱な体力を考えればそれは当然のことなのだが、そんなことも気付かないほど浮かれていたようだった。
改めて手の中にある魔晶核を眺める。
相変わらず美しい。どうしてこれほどの美しさを内包したものが、あんな凶悪で恐ろしい魔物の中に存在するのだろうか。全く生命の神秘というのは不思議に満ちている。
これならいつまでも飽きずに見続けられるかもしれない。そんな風に同じことを頭の中で繰り返し考えていると、離れた場所にいる護衛の人たちの方から、怒鳴るような声がするのを私の耳は捉えた。反射的にそちらに視線を向けたら、魔晶核をくれた方の護衛の人がなんでもないといった様子で手を振っていた。
その仕草に再び魔晶核を眺める作業に戻ろうとするも、向こうの話が気になり集中できなくなる。彼らの会話に側耳を立てることにした。
そうしたら幾つか不穏な単語が聞こえてきた。
どうやら私が予想した通り、あの二人はイザベルから私を始末する命令を受けたカールストン家の人間だったらしい。しかしカールストン家とリシャール家、両侯爵家が持つ力の大きさの間で板挾みとなり、私の生存如何に関わらずこのままでは殺されてしまう可能性がある。そのせいでどうするべきか判断が分かれ、言い争いになっているみたいだ。
それはある意味私にとって朗報だった。彼らの選択した決断次第では、私は悠々と護衛を付けて森から帰還できるかもしれないからだ。そうなれば私にとっては万々歳だ。都合の良いことこの上ない。仮にそうなったら、私から父に彼らの助命を嘆願してあげよう。
だけど、きっとそれは叶わずに終わる。私が帰還しても家に父はいないからだ。もし任務を果たせなければ、あの騎士たちは早々にカールストン家への帰参を命じられ、そのまま秘密裏に、或いは有る事無い事でっち上げられて、即座に処分されるだろう。イザベルの実家であり、今回私を葬る計画の黒幕であるカールストン家ならば、そうする可能性が高い。命令通りに事を終えたとしても助かる保証は無い。私が死ねばきっと侯爵である父は、その面子と誇りに掛けこの件を究明し、企てた者と実行した者への報復を実行してくれると思う。というかして欲しい。とにかく、その結果カールストン家が生贄に差し出すのが、切られる尻尾の身でしかない彼らだ。カールストン家があくまで事故を主張するか、父が慈悲を与えない限り、彼らに生存の芽は出ないだろう。
おそらく彼らの考えはどちらも正しい。ただどちらを選択しようと、その結末が大して変わらないだけ。つまりはこの任務を受けた時点。いや与えられた時点で、彼らの命運はほとんど尽きていただけの話に過ぎない。
それでも彼らの生存率がより高くなる選択肢は存在する。それは同時に、私にとって最悪の方の選択でもある。
私は再び視線を落とし、手の中の魔晶核を見つめる。
変わらない輝きを発するそれは、人の持つ悩みや柵とは全く無縁に感じられていて、だからこそこんなにも美しいのかもしれない。ふとそんな風に思った。
──もしかしたら、このまま黙ってやり過ごしていた方が、私の生存率は上がるのかもしれない。
でも私は、護衛の人がこれをくれたことを、魔物の解体について教えてくれたことを、そして私の恐怖や絶望を払ってくれたあの剣技のことを思い返して、やがて一つの決断を下した。
立ち上がった私は、二人に近づき声を掛けた。
「あの、話聞こえていたんですけど……私、置き去りにされましょうか?」
何も知らない人が聞けば、自殺志願にも聞こえる突然の発言。護衛の人もそのように聞こえたのか、目を白黒させながら聞き返してきた。
「……あのな嬢ちゃん。話聞いてたら理解できてるかもしれないが、それはここで日向ぼっこや森林浴をするって意味じゃねえんだぞ?」
「はい、分かっています。私をここに置き去りにして、魔物に殺させるって意味ですよね」
「いやいやいや、そこまで理解できてるんならなんでそんな言葉を吐けるんだよ。確かに非力な嬢ちゃんにとっちゃ、この森に入った時点で実質俺たちに自分の命を握られてるようなもんだ。しかも本来なら嬢ちゃんの護衛であるはずの俺たちは、実は初めから嬢ちゃんを魔物の餌にするつもりだった。んなことを知っちまったら、まあ自棄になるのも分からなくはないが……それをわざわざ俺たちに言うのは違うだろ? それとも嬢ちゃんにはそうなりたい理由でもあったりするのか?」
私の荒唐無稽な判断に対し、護衛の人は呆れた様子で反論してくる。
どうして彼のような人物がカールストン家なんかに雇われ、こんな仕事に手を染めているのか。この世はままならないものだと思いながら、言葉を返す。
「……いえ、そんな理由も望みもありません。そもそも魔物だってすごい恐ろしかったですし」
「だろ? 俺も見てたから知ってるぞ。もう少しでちびりそうになるくらいブルってただろ。そんな嬢ちゃんが一体どうして、魔物がその辺彷徨いてる危険たっぷりなこの森に残ろうなんて、それも自分から言い出したりするんだよ?」
「多分ですけど、任務は失敗するよりも成功した方が、カールストン家に守ってもられる余地がある分、あなたたちが生き残れる可能性が高いと思います」
「それは俺たちにとっての話だろ? 嬢ちゃんにとってそうする利点が一切無えじゃねぇか」
抱いて当然の疑問を護衛の人は投げかけてくる。
私は目を閉じ、今一度あの輝きを思い出す。
「確かに私の利点は無いかもしれません。でも、綺麗だと思ったんです。貰った魔晶核はもちろんなんですけど、あなたの……護衛の人のあの剣技も、魔晶核に負けないほどずっと輝いて私の目に映ったんです。理由と言うなら、それが理由です」
護衛の人はあまりにそれが意外だったのか、私のその言葉に目を見開き、口をぽかんと開けたまま固まってしまった。
魔物の討伐を目にした時の私も、きっと同じような顔をしていたんだろうな。などと考えていると、数十秒経ってようやく再起動した護衛の人が、何かに呆れるように大きな溜息を吐いた。
「……子供にそんな風に言われて『はいそうします』なんて頷いてたら、きっと子供の頃の自分に幻滅されちまうんだろうな。『俺がなりたかったのはそんな騎士じゃない』って」
そう言って大きく天を仰ぎ、また乱暴に自分の頭を掻いた。
「ハァ……やめだやめやめ。いくら剣を捧げた主人からの命令だからって、こんな子供を魔物に殺させるなんて騎士のやることじゃなかったわ。悪かったな嬢ちゃん、一度は嬢ちゃんに死を覚悟させるようなことを言わせちまって。嬢ちゃんにどんな事情があって命を狙われているのかはぶっちゃけ知らんが、少なくとも嬢ちゃんが死ぬのは今日じゃなくなった。──だから安心してくれ。今日だけは俺が嬢ちゃんを守る騎士になるからよ」
立てた親指を自分の顔に向け、冗談めかして言う護衛の人。
その態度の変化に私は呆気にとられ、すぐに困惑を表情に出す。
「……それだと、護衛の人が助からないじゃないですか?」
「いいんだよ細かいことは。ガキは自分のことだけ考えてろ。それに騎士ってのは、弱き者を守るために存在するって大昔から決まってんだ。だからこれで……いや、これこそがあるべき姿なんだよ」
そのままニカっと気持ちのいい笑顔を見せた護衛の人には、もはや数分前の暗然とした気配はない。晴れ晴れとした迷いの消えた瞳を目にした私は────。
その瞬間、私の身体は宙を泳ぎ、直後に背中から強い衝撃が伝わった。肺からは無理やりに空気が追い出され、カハっと呼気が苦しげな音を発する。
私は何が起きたか判らないまま痛む身体を無理矢理に起こし、おそらく突き飛ばされたであろう方向となる前方を見やる。一瞬で状況を理解できるだけの情報が視界に入ってきた。
「おいお……ごふっ……これは一体なんのつもりだよ……ギリアム……?」
「お前が主家の命令に背き、任務を放棄したからだ。標的に入れ込むばかりか主家の命令に背くなど、貴様は既に騎士ではなく逆賊だ!!」
「……お前、俺の話は理解できてたか? 仮に任務を成功させても──」
「カールストン家に始末されると、そう言うのだろうお前は?」
私の前で起こる二人の護衛のやり取り。ギリアムと呼ばれた方は、赤く染められた剣を片手に小さく笑っていた。
「それが理解できてなぜ……!?」
「別に俺も主人の命令に殉じろなんて、忠臣じみた綺麗事を口にするつもりなんてないさ。なんたって俺は俺の命が一番大事だからな。そしてそんな大事な大事な一番を守るために、──俺はこいつを使うのさ。念のために持ってきてよかったぜ」
「お前それは……!? ……正気なのか? それの所持が発覚すれば、お前は残りの人生一生牢屋の中だぞ?」
「バレないさ。これはお前がまだ騎士になるより前、ある犯罪組織からくすねた物だ。これの管理は厳重だが、非合法な物まで国だっていちいち把握しちゃいない。それにここはまだギリギリ森の浅層だ。それほど魔物の数も多くない。これ一つだけなら大した効果はないから使用に関した懸念もない。筋書きはこうだ。そのガキの護衛中に森の奥から突如大量の魔物が現れた。俺はガキを守ろうと奮戦するも、お前が魔物に殺されることで対象の護衛に穴が空き、ガキも死亡する。俺は護衛対象を死なせたことで責められはするだろうが、一番の責任は雑魚魔物に殺されたお前にあると周囲の意見を誘導する。事故である方が都合がいいと、きっとカールストン家も協力してくれるだろう。そして俺は今回の任務を完璧にこなした功績で、そのまま侯爵家の上級騎士の仲間入りってわけだ」
得意げに計画を語るギリアムに、護衛の人は傷口を押さえながら言う。
「へっ、そんな上手く行くわけねェだろ……」
「かもな。だが俺の名に一番キズがつかず、生存確率が最も高そうなのがこの方法って話なだけだ。お前には感謝するぜ。青臭い騎士道精神を語る気に食わない奴だったが、最後に俺のために死んでくれるんだからな。──ほら、こいつに釣られて魔物どもが集まってきたぜ」
ギリアムの言葉通り、其処彼処に魔物の気配が漂い始め、唸り声が聞こえてくる。いつから魔物を呼び寄せていたのか。近くにどれだけの魔物が存在していたのか。これからどれだけ増えるのか。現れる魔物の数と比例するように、私の思考には次から次へと疑問が溢れてくる。
そして、頭では今の状況を理解出来ているのに、身体は意思に反して思うように動かない。私の身体は現在進行形で迫り来る脅威により、強制的にあの時の恐怖を思い出さされ、ただただ震えていた。
そんな私を叱咤する声が届く。
「何やってんだ嬢ちゃん! そのまま突っ立ってると死ぬぞ! 何でもいいからその辺の木の上によじ登れ!」
血を吐きながらも必死に伝えようする護衛の人の言葉によって、私の身体はなんとか平静時の動きを取り戻す。ただ言われた通り木の上に避難しようとするが、やろうと思って出来ることでもない。
もたつく私を護衛の人は背後から持ち上げてくる。「行くぞ」という掛け声とともに上へと投げ飛ばした。投げ飛ばされた私は、再び自由落下を始める直前になんとか手を伸ばし、枝に掴まることに成功する。決して落ちないようしっかりと足も使って組み付いた。
「嬢ちゃんはそこで見てろ。後は嬢ちゃんの騎士である俺が片付けてやるからよ」
安心させるためなのか、穏やかな声音を発した護衛の人は、それだけ告げて襲って来る魔物に対し逆に斬りかかって行った。
私が魅了されたその美しい剣技は、しかしそれが振るわれる相手にはひたすらに、無情に、無慈悲に、淡々とその命を刈り取っていく。
この場に存在した魔物はあっと言う間に全てが斬り捨てられ、綺麗な森の中は死体と血臭が漂う殺戮現場に様変わりした。
これを一人で為した護衛の人は、私の方を一瞥だけして背中を向けた。まるで自身へ魔物の注意を引き寄せるに、未だ魔物を吐き出し続ける森の奥へと消えて行った。
無力な私はその騎士の背中を、ただただ見送ることしかできなかった。
「ゴホッ……全く……万全ならともかく、こんな状態で魔物の群れとの連戦なんて、本当に嫌になってくるぜ……。だけど、泣き言を言ってるわけにもいかねェよなぁ」
あれから魔物たちは一度に大量に襲って来るというわけではなく、散発的な襲撃を繰り返していた。これは何も魔物たちにそういった知能があるわけではなく、魔物寄せの効果が広まるのに時間が掛かるからだ。
この魔道具は広範囲にいっぺんに効果を及ぼすものから、今回の物のように狭い範囲に限定的に作用し、複数併用することで効果を調整できるものまである。この魔道具の製作方法は魔術協会によって秘匿されており、国も厳重に管理している危険なのものだ。本来ならあいつの言ったように把握しないなんてことはあり得ないはずなのだが、非合法に作られた物なら国の目が届いていないのは仕方ないのかもしれない。
今更そんな関係のないことに思考を割く。すぐに頭から振り払う。今すべきことは魔物と魔物が襲って来るその時間差を利用して、少しでも身体を休ませ体力の回復を図ることだ。
所持していた低級の回復薬を使ったが血が止まり切った様子はない。恐らくはこの血が流れきるまでが俺の命の時間制限。
俺が生きている間だけは絶対に嬢ちゃんの所へ魔物は向かわせない。
そう決意する俺の前にギリアムのやつが姿を現した。
「お? やっぱりまだ生きていたか。流石にしぶといなお前は」
そう言う奴の方は抜剣済みの騎士剣を魔物の血で染めているが、見た目には負傷などはなく、俺よりもよっぽどマシな状態だった。腐っても侯爵家の騎士というわけか。
「へっ……いいのかよ、俺なんかの方に着いて来て? お前がこうして魔物どもと戯れてる間に、嬢ちゃんが森から抜け出しちまうかもしれないぜ?」
「ハッ、あのガキが森を抜けるまでには余裕で追いつけるさ。それに途中で一匹にでも魔物に遭遇したらそれでお終いだ。ああ、なんたることか! 魔物の群れを引き受け一人逃がした無力な少女は、逃げる最中無残にもその牙の餌食になってしまった! ってな。ハハハッ」
一人で寸劇を披露したギリアムは愉快そうに笑う。一体何がそんなに面白いのか、理解できない。こんな奴が同じ騎士であることに今まで組んでいて疑問に思わなかったとは。どうやら俺の頭も眼も本当に曇りに曇り切っていたようだ。
「お前に逃げられたらそれだけで俺の完璧な計画はおじゃんだからな。お前が無事魔物に殺されてくれるまで、俺はお前から目を離さないぜ」
「やめてくれよ。男からの、それもよりにもよってお前なんかからの気持ち悪い熱愛コールを受けたら、気持ち悪さで剣を取り落としちまいそうだ」
俺の皮肉にも余裕の態度を崩さず鼻で笑うギリアム。
だが予想通りのギリアムの行動に内心で安堵する。これで嬢ちゃんが狙われたらとぶっちゃけヒヤヒヤした。
「そんな傷で冗談まで言えるとは随分と余裕があるな。でもそれもここまでだぜ……見ろよあれを」
森の奥を指し示すギリアムの指を追ってその方向に目を向ける。
そこにはグレイウルフを数倍は大きな体格をした、全身が血のように赤い魔物がいた。
「ブラッディベアー、ランク8の魔物だ。お前でもその傷で相手できる魔物じゃないだろ?」
なぜか得意げに話すギリアムを無視して俺は新手を注視する。何かがおかしい。
すでに向こうもこちらを捉えているはずなのに、全く敵意がこちらに向かって来ない。
訝しげに見る俺の様子に、ギリアムもその異変に気付いたのか身体を強張らせていく。
ブラッディベアーはそのままこの場に向かってくる。そして、俺たちの十数歩先で突然崩れ落ちた。奴はたった今生き絶えたのだ。
見れば奴の血と思われるものが、奴の通った跡に線を引いている。
「……なんでブラッディベアーが死んでいる……? 一体何に殺された……?」
予想外の出来事に疑問が口から漏れるギリアムに、俺はその答えを教えてやる。
「知りたきゃ前を見てみろよギリアム。そいつをやった奴のお出ましだ……」
俺の言葉にギリアムはブラッディベアーの死体から視線を外し、奴が来た方を見る。
そしてその正体を確認したギリアムは驚愕に目を見開き、絶叫に近い悲鳴をあげた。
「うああああああああああ!? ななななんで森の悪魔がこんな所に出るんだよ!? あいつは森のもっと深部の魔物のはずだろ!?」
「そりゃお前があいつの餌を奪っちまったからじゃねえのか?」
ブラッディベアーの死体を剣で指しながら、ギリアムの悲鳴とともに吐き出された疑問に軽口混じりで答えてやる。まぁ、ギリアムの言った通りあの魔物の生息域を考えたら、確かに魔物寄せを使ったにしてもこんな所に出るのは異常だろうが。
「冗談じゃねえ!! こんな場所今すぐにべほ」
人生最後となる言葉を言い終わことも出来ないまま、ギリアムは頭部を半分潰され死んだ。いや、殺された。
俺はギリアムを殺したその魔物を見据える。
全身が黒い毛に覆われており、人のように二本の腕と足を持つ所謂亜人型の魔物だ。だがその手足は針金のように細く長い。顔の目がある部分には眼球はなく眼窩の奥には闇を覗かせている。
おそらく魔物狩りを生業とする者ならば誰でも知っているくらいには有名な魔物。
「……森の悪魔シルヴァヌディア。人生の最期にランク6の魔物に出くわすとはな……」
ランク6。それは一体で、数千人が暮らす街に壊滅的な被害を齎し得る力を持つとされる魔物に対して、当てられる脅威度である。
もちろん街ごとに防衛能力に差はあるし、そこそこの戦力で撃退に成功することも、たまたまその街に強者が滞在していただけで、被害を全く出さずに討伐されたという話もある。
それでもランク6の魔物は、世間一般では最も身近で恐ろしい脅威として知られている。なぜならランク6とは、人類の生存地域とされる大陸東側に存在する最もランクの高い魔物とされていて、たまに出現する災害級であるランク5の魔物は、ランク6の魔物が進化した結果だと考えられているからだ。進化の条件は明確に定まっているわけではないが、強力な魔物や人を殺し喰らうほど進化が早まるとの見解が通説となっている。
そのためランク6の魔物の存在が人類の生存地域で確認された場合には、直ちにその地域を治める領主や代官から、緊急で周囲の街や都市のハンターへと討伐要請が出され討伐隊が結成されるか、あるいは領軍か国軍が出動するほどの事態となる。そしてこの対応は決して大げさなものではなく、過去には初動の対応を誤った小国がランク5に進化した魔物に滅ぼされた例も存在する。
(シルヴァヌディアは過去に確認されたランク5の進化前とされる内の一体でもある。正直俺なんかが逆立ちしたって勝てる相手じゃないのは確かだ。万全の状態でも無理だ。……ギリアムもあっさり殺されちまったしな)
ギリアムは性格は最悪な奴だったが、それでも騎士としての最低限の戦闘能力はあった。そんな奴と大して変わらない実力しか持たない俺では、万全の状態であっても生き延びる時間を数分延長させるのがやっとだろう。
──だが、だからといって今更逃げるわけにもいかない。
俺の後ろにはあの少女がいる。年齢の割に大人びていて、怖がりのくせに勇気があって、そして何より、俺の剣を綺麗だと褒めてくれたあの少女が。
いつからこんなに騎士道精神溢れる奴だったかと自分に対して苦笑するが、子供の頃の俺がなりたかったのはきっとこういう騎士だったのだろうと、騎士になってから初めて抱いた充足感に感慨深くなった。
地面の上で物言わぬ死体となったギリアムを一瞥する。
一時とはいえ、相方を務めることになった同僚の死を短く悼むと、視線の先でに佇む自身の敵に剣を向ける。
「……行くぞ化け物。二十二年の剣技の研鑽、その身にしかと刻みこもう。カールストン侯爵麾下騎士団下級騎士にして、今だけは嬢ちゃんの一の騎士ハリス・バーナー!
────いざ参る!!」
人生最期となる強敵に向かって、その騎士は勇壮に駆け出した。




