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15.悪役令嬢は、ヒロインに提案があるらしい






「レベッカ。一つ、提案がありますの」

「――――提案?」

それは、突然やってきた。





それは、秋休みまでちょうどあと一週間を切った日曜日の午後。

午前中の礼拝を済ませたし、宿題も何もないしと、のんびりとロレーナの部屋でお茶を飲んでいた時のことだった。

カチリ、ともったいぶった所作でティーカップを下ろしたロレーナが、口火を切った。

「レベッカ、もうあと一週間で秋休みが始まりますわ。次の金曜日をして、私達の王立アリシア学園で過ごす一年間は終わりを告げることになります」

「その通りです」

特に異論はないため、同意する。

「全ての生徒は次の日曜日までに荷物を纏め、寮を出なければなりません」

「その通りです」

「ある程度近いところに住んでいる生徒は馬車で家まで向かい、遅くても月曜日までには家に着くことになりますわ。それよりも遠い位置にいる生徒は、特例により無償で風属性の先生の空間魔法によって瞬間移動することができます」

「その通りです」

「そして、全ての生徒は日曜日までに学園を出ないといけません」

「‥その通りですよ?」

「もう、レベッカ!」

よく質問の意図が見えずに首を傾げると、ロレーナがむっとしたように唇を尖らせた。美人だから尚更、その仕草をすると滅茶苦茶可愛い。

「レベッカは、秋休みどうするんですの?学校に残れないなら、コールウェル伯爵領へ行くんですの?」

「ああ…」

やっとロレーナが言いたいことが分かった。

というか、それが聞きたいなら最初からそう言えばよかったのに。

「私は、学園に残るつもりです。コールウェル伯爵家からは、絶対に帰ってくるなと言われたので」

コールウェル伯爵家はそれはそれはご丁寧に、「死んでも帰ってくるんじゃねえ!お前の顔なんて見たくねえ!」ということを二枚も使って手紙で説明してくださった。

というか、誰が帰るか!

私だって、わざわざこき使われるために伯爵家に帰ろうなんて思わない。それくらいなら、野宿する。

「え、でも学園には、」

「はい、普通は残れません。でも、私の状況を説明したら特例で許可をいただけたんです。明後日には氷属性の先生も戻ってくるので、私の部屋も使えるようになります。それに、食事は寮の掃除のお代代わりに寮長が作ってくださるそうです」

「…それ、大丈夫かしら?」

「…最悪材料さえあれば私が作るので。まあ、なんとかなりますよ」

ロレーナと揃って私達の寮長を頭に思い浮かべる。非常に大雑把な人だから、料理を作れるか心配だ。それに、一緒に同じ食卓を囲んで食べれるかも心配だ。なんせ、部屋を使えなくなって一緒に泊まらせてもらっていた私を「集団生活できないから」と追い出した人なんだから。

まあ、そんなことは今心配してもどうにもならない。なるようになるだろう。




そう思っていると、何故だかロレーナが残念そうな表情を作った。

「そうですか、レベッカは学園に残るのですね。残念ですわ」

「何か、予定でもあったんですか?」

「予定というほどではないのですが」

「はい」

「一つ、提案がありましたの」

「提案?」

「はい。私達、折角仲良くなれたんですから一緒に秋休みを過ごそうと誘おうと思っていたんですの」

「一緒に、ですか?」

「ええ」

「それって、私がロレーナとマッケンジー公爵領にご一緒するということですか?」

「そうですわ」

「…」

うわー。それ、最悪だ。

外に出る形で顔をしかめたりはしないけれど、心の中ではそうしたい思いで一杯だった。

公爵領に行くなんて、冗談じゃない。

最近のロレーナがあまりにも優しくて天然ボケしているから忘れそうになるけれど、前のロレーナは庶民は無条件で貴族に平伏すべき!という考えの持ち主だった。そのロレーナの人格を形成させたロレーナの両親だって、娘と同じ考えを持っているはずだ。

というか、それよりひどいということを噂で聞いたことがある。

別に、それは今の社会の現状で基本的な考え方だから今更ぐちぐち言ったってどうしようもないことだ。でも私は、わざわざ自ら猛獣の檻に飛び込んでいくような自分を虐める精神は持ち合わせていない。

絶ッ対に行きたくない。

「今からでも、考えが変わったりしませんの?」

「ええっと、そうですね、」

しません!

曖昧に言葉を濁す私の前で、ロレーナは本物の宝石をも陰らせるまでに目を輝かせている。よほど楽しみにしていたらしい。

そんな顔のロレーナは非常に綺麗なんだが、それはぞわっと私の背筋に冷気を走らせるものだった。

最悪だ。これじゃあ、罪悪感で断れない。

「お願いしますわ。レベッカがいるととても秋休みを楽しめますの。今までで初めて!私、今まで友達なんて一人もいなかったから、今回はとても楽しみにしていたんですのよ」

「も、勿論、私も一緒に秋休みを過ごしたいですよ。で、でも、」

「なら、良いではないですか。レベッカも確実に楽しめますわ。マッケンジー公爵家領は、ラーザという地方にありますの。自然が豊かで、馬で駆けまわるととても気持ち良いんですのよ。もっとも、今まで私は馬にのるなんて服が汚れると思っていてやらなかったんですけど。ですから、今回が初体験になりますわ!」

「‥そ、そうだったんですね」

「そして、ラーザといえばブドウ!ラーザ地方はブドウの名産地なんですわ。生で食べても美味しいんですけれど、特に、葡萄酒がおすすめですのよ。私達ももう十六歳になったんですから、もうお酒を飲めますわ」

「そういえば、そうでしたね」

「ブドウだけじゃなく、小麦も美味しいものが取れますわ!食事も最高級で美味しいんですのよ。ね?レベッカ。学園なんかに残るよりも、絶対楽しいですわ」

「ええっと、」

なんかすごいグイグイ来るなあ。

お願いお願いお願いお願い!というような表情のロレーナを見ていると、ここで断るのも忍びない。

でも、折角色々なことから離れられて少し心が休まるだろう秋休みを、ストレスで胃を潰すような結果にはしたくない。

「あの、私も行きたいのは山々なんですけど。でも、さすがに私を連れて行ったら、公爵様も公爵夫人も反対すると思います。それに、私貴族のマナーにはまだ疎いのでたくさん迷惑をかけてしまいます」

「私も貴族のマナーには疎いので大丈夫ですわ!それに、あのボンクラ夫妻が私が連れてくる人に反対するはずがありません」

「ぼ、ボンクラ夫妻‥」

「それに、レベッカは普通とは違う魔法属性の持ち主なんですのよ。父と母は勿論、あの馬鹿で屑な兄と弟もレベッカに興味深々ですわ」

「そ、そうですか、」

全然安心できる要素が見つからない。

それ、もしかして私解剖されるの?マッケンジー一族は、魔法力が高いことで有名だけど、その中でも特に氷魔法の扱いが上手いのだ。

私、今度こそ氷漬けにされるんだろうか…。

想像だけでも震えが止まらない。




「まあ、確かに、レベッカからすればマッケンジー公爵領に泊まるのは勇気がいることかもしれませんわ」

「はい、それはもう、かなり」

「それは分かりますわ。でも、レベッカの安全的な意味合いでもレベッカは私の家にいらっしゃったほうがよろしいと思いますの」

「それはどうして‥?」

「どうしてって、レベッカがこの学園に残る選択肢を選んだ場合はもれなく全攻略対象が学園に残ることになるからですわ」

「よろこんでロレーナの家にお邪魔させていただきます。一ヵ月間、迷惑をかけますが雑用でもなんでもこなしますのでどうかよろしくおねがいします!」

即決だった。

‥‥‥‥というか、それを先に言ってよ!!










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