もうひとつの不可思議セブン8
「ええと、これはもう千年以上も前。ボクが人間だったときの話なんだけどね……」
「えっ?」
おまえ、人間だったの? そう聞こうとして言葉を飲み込んだ。
そう言えば、昔なにかで読んだことがある。座敷童子というのは、間引きや口減らしのために殺された子供の霊だって。透が過去に人間だったことがあるとして、あまり幸せな人生を送っていたとは思えない。
簡単に聞いていい話じゃない気がする。
「あのぉ、大丈夫か? 一応スベらない話なんだから、ちゃんとオチとかあって、笑えるようになってるんだろうな」
「うん、たぶん大丈夫だと思う……ええと、当時この辺りの村には人を襲う妖怪がいっぱいいて、ボクの父さんと母さんも妖怪に殺されてしまったんだ」
「おいおい、のっけから全然笑えねぇぞ!」
「でね、ボクは村にあるお寺のお世話になることになったんだ。ボクの他にも同じような境遇の子供たちが何人もいたからね。仕事は大変だったけど、今の寮生活みたいでそれなりに楽しかったな」
「お、おう」
「ある日、山菜取りに裏山へ行ったんだけど、そこで傷だらけの男の子を見つけたんだ。とりあえず手当てしなきゃって近くの小屋に運んだところで気がついたの。彼のお尻に尻尾が生えてるって」
「尻尾?」
「妖怪だったんだよね。しかも、他所から流れてきたはぐれ妖怪。土地の妖怪とやりあって、寺のお坊さんたちともやりあって、傷だらけになって裏山に倒れてたみたい」
「みたいって?」
「記憶を失くしてて、言葉もロクに通じなかったの。本当は大人に知らせなきゃいけなかったんだろうけど、そうしたらこの子は殺されるなって思ったから隠してた。こっそり食べ物を運んだりして」
「おいおい、なんかイヤなフラグ立ってるぞ」
「まあ、そうかもね。そのうちにそれが寺のお坊さんたちにバレちゃって、メチャクチャ怒られて、ボクはお堂に閉じ込められたんだ。お坊さんたちは徒党を組んで、はぐれ妖怪を討伐しようって」
「で、どうなった?」
「お坊さんたちが討伐の準備をしている間に、妖怪の大群が寺を襲撃してきたの。その頃は妖怪とお寺の間に一応の不可侵条約みたいなものがあったんだけど、人間たちがはぐれ妖怪をかくまっていると勘違いして怒ったみたい。寺を焼かれて、お坊さんや子供たちは必死で逃げ惑ってた。ボクは……ボクは忘れられて、鍵のかかったお堂の中で震えてた」
もしかして、そこで透は妖怪に殺されたのか? それが原因で座敷童子になったとか? もしそうなら、やっぱり全然笑えない。スベラないどころか、ひっかかるところがひとかけらもない。
「扉が壊されて、妖怪たちがボクを殺そうとお堂の中に雪崩れ込んできたその時、あの子が助けに来てくれたんだ」
「あの子って、はぐれ妖怪の?」
「うん、すごく強かったんだよ。犬神っていうのかな。あっという間に妖怪たちを叩きのめしてくれたんだ」
助かったのか。遥か昔に終わった出来事なのに、なぜだかホッとした。でも、それと同時に同じくらい胸がざわついた。
「そして全部の妖怪を倒した後、はぐれ妖怪は力尽きて倒れそうになったんだ。でね、ボクが駆け寄って助けようとしたら、今度はボクに襲い掛かってきて、ガブリって噛みつかれちゃった」
「噛みつかれたって……そいつは透を助けに来てくれたんだろ。いったいどういうことなんだ?」
「どうだろ? よくわかんないよ。興奮して見境が無くなってたのかな? 結局、お坊さんがはぐれ妖怪を退治してくれて、ボクは一命を取り止めたんだけどね」
なんとなくわかった。
はぐれ妖怪が助けに来たとなれば、透ははぐれ妖怪を匿い災厄を招いた張本人として糾弾され、人間たちのコミュニティーから放逐されてしまうかもしれない。
透に対して乱暴を働くことで、彼女が人間の仲間に戻れるようにした。
はぐれ妖怪は、文字通り命を懸けて透のことを助けようとしたんだ。




