もうひとつの不可思議セブン7
「……そうかな」
「そもそも、もし病院が開業していたとしても、これだけたくさんのネズミの餌がふんだんにあるとは思えない。つまり、こいつらの餌は物質的なものじゃないってことさ」
「物質的なものじゃないって、一体何が餌だっていうの?」
「そりゃあ、決まってるよ。こいつらはネズミじゃなくて、ネズミの妖怪で、しかも、存在しない四階の支配者っていうんだからさ」
オレはわざと檻の外にいるネズミに聞こえるような声で言った。
「ズバリ、恐怖。あるはずのない四階に対する人間たちの恐怖が、こいつらを生み出しているんだ。だからオレたちが怖がりさえしなければ、奴らの餌にはならない。むしろ楽しく過ごすことで、奴らを退治することができるはずだ。なぁ、違うか!」
オレの問いかけに、ネズミの妖怪たちはキーキーと歯ぎしりして叫んだ。
「人間の分際で、よく分かったな!」
「まぁ、伊達に普段から魑魅魍魎とつるんでないからね」
「だが、我らの糧が恐怖だとわかったところで、状況は変わらんぞ。この真っ暗な鉄格子の虜囚となり、恐怖を感じずに過ごすなど並みの人間にできようはずもないからな!」
たしかに、真っ暗な檻の中に二人きりなんて普通の人間には耐えられないだろう。しかし……
「えーっ、ボクは九郎ちゃんが一緒ならどこでも楽しいけど。なんだったら、ずっと檻の中に二人きりでも構わないし」
やっぱり、そうか。人間の常識は座敷童子には通用しなかったようだ。
透はしゃがみ込んでオレの太腿に頭をこすりつけてきた。
「なにやってんだよ」
「フフ、ジャレてるんだよ。ボクは九郎ちゃんの犬だからね」
「やめろ、気色悪い」
「犬だから言葉わかりませーん」
なんかヤバい。透がオレへの好意を臆面もなく口にするのはいつものことだ。けど狭い檻の中に二人っきりでいるせいか、今日のコイツの言動は妙に胸に来る。
てかその前に、太腿を頭で擦られると変な刺激が股間に来る。
透は、緑水寮に住む座敷童子だ。学園七十七不思議の一つとして現れた彼女は、どういうわけかオレのことが気に入ったらしく騒動が終わった後もオレの傍らを離れずくっついている。
きっとオレが頼めば、どんな(性的な)願いでも受け入れてくれるだろう。
しかし今はそんなことをしている場合じゃない。
無理やり透の頭を引きはがした。
「よぉし、じゃあ始めるぞ!」
「え、何?」
「パフパフ、第一回青嵐中央総合病院杯スベらない話大会!」
突然の宣言に、ネズミたちは目を丸くする。
「何をはじめるつもりだ!?」
「今からオレと透で、たっぷりスベらない話を聞かせてやる。恐怖がエネルギーのお前たちにとってはマイナスに働くはずだ。早いとこオレたちを開放しないとヒドい目をみるからな」
「人間風情が偉そうに、やれるもんならやってみろ!」
「よし、じゃぁまずは――透、おまえからだ!」
「そんな、九郎ちゃん無茶ブリだよぉ」
「うるさい、七不思議制覇のためだ。とっとと話しやがれ。だいたい、何百年も生きてるんだから、スベらない話の一つや二つくらいあるだろ!」
オレに促されて、透はしぶしぶ語り始めた。




