もうひとつの不可思議セブン2
* * *
クインティーの言葉通り、エレベーターは地下一階を過ぎても止まることなくさらに降下し続ける。そしてあるはずのないB2という記号を表示して止まった。
エレベーターの扉が開くと、何か見えないものの手でオレと透は薄暗い廊下に放り出される。
「うわっ」「きゃっ」
そのまま扉が閉まって、ボタンを押してもウンともスンとも言わなくなった。
「七不思議をクリアするまで戻れないってことか……」
病院地上階と比べて、この地下二階はぐっと狭くなっているらしい。
人っ子一人いない細長い廊下には扉が二つあるだけだ。
「ええと、この階で泣いている赤ちゃんを泣き止ませればいいんだよな」
耳を澄ませると、たしかにどこからか赤ん坊の泣き声が聞こえてくる。
透が悲鳴混じりの声を上げた。
「ねぇ、見てよ」
その指さす先には「霊安室」の文字がある。
「ここが霊安室ってことは、中にいる赤ちゃんもきっと幽霊だよ。ねぇ、危ないよ」
透は涙目になっていた。
「あのなぁ、おまえ一体何者だ? 座敷童子だろ。おまえが幽霊を怖がってどうすんだよ!」
「あ、そうか、テヘペロ」
頭に握りこぶしを乗っけて舌を出し片目を閉じる。どうやら、怖がっているのもフリだったらしい。それが可愛いからタチが悪い。
「ペロまで口で言ったらおかしいだろ!」
オレはマジの拳骨を透の頭に落とした。こいつが可愛いと調子が狂う。
「それに、そもそも七不思議なんだから赤ん坊が魑魅魍魎なのは当たり前だろ。まさかおまえ、本当に赤ちゃんを泣き止ませるベビーシッター勝負だとでも思ってたんじゃあるまいな」
ためらわず霊安室の扉を開けて中に入った。
中央にパイプ製のベッドが置かれただけの、狭い室内。
見上げると、天井の隅に赤ん坊の幽霊がいた。
生後数か月といったところか。産着にくるまれた赤ちゃんだ。ぱっと見、普通の人間の赤ちゃんと変りないけれど、明らかに宙に浮いていたし、よくみると身体が透けている。
「うー、九郎ちゃん、ホントに幽霊だよぉ」
「だから、当たり前だって言ってるだろ。この子を泣き止ませればいいわけか……」
さっきからその赤ちゃん幽霊は全力で泣き続けていた。
「なんだか、見てるこっちが疲れてきちゃうね」
「普通の赤ん坊ならそのうち疲れて寝ちゃいそうなモンだけどな」
「ほっといて寝ちゃうんなら七不思議にならないよね。泣き止ませるって、どうするの?」
「うーん、普通の赤ちゃんなら抱っこしたり、おっぱいをあげたりするんだろうけどな」
「九郎ちゃんのエッチ。ボクがおっぱいあげるところ見たいんでしょ」
「あのなぁ、おまえじゃ母乳でないし、そもそも咥えるトコもないだろ」
「失礼な! 咥えるトコくらいあるよ!」
そういうと、透は着ていたコートの前をはだけて胸をそらした。
薄手のブラウスから、たしかに二つの突起が透けて見える。しかし、ベイカー嬢や玲子先生の胸とくらべると悲しいほどの戦力差だった。
「……つらくても、頑張って生きるんだぞ!」
「なに慰めてるんだよ! やめてよ!」
「まあ、おっぱいはともかく抱っこくらいしてみるか。座敷童子の透ならできるんじゃないのか?」
「うん、やってみる」
透が手を伸ばすと、思った以上にあっさり空中に浮かんでいた赤ん坊をつかまえることができた。そっと胸に抱き寄せる。
「よし、そのままあやして機嫌を取るんだ。おまえの母性の見せどころだぞ」
「わかったよ。ボクだっていずれはお母さんになるんだからね。ベロベロバー、イナイイナイバー」
透は、笑ったり、変顔をしたり、百面相を試みる。コイツ自体赤ん坊みたいなものだと思っていたけれど、なかなかのお母さんっぷりだった。
しかし、赤ん坊が泣き止む気配はない。
「うーん、ボクじゃだめなのかなぁ?」
「まあ、そりゃそうだよな。あやしたくらいで泣き止むようじゃ、七不思議にはならないだろうし」
「じゃあなんでボクにやらせたのさ!?」
透はふくれっ面になる。まぁ、コイツが赤ちゃんをあやすところを見たかったからなんだけど、それは黙っておこう。
「まず、この赤ちゃんは何かこの世に恨みとか未練があって成仏できずにいるんだよな。赤ちゃんの恨みって一体なんなんだろ?」
「そんなのわかんないよ。児童虐待があったとか、医療ミスがあったとかじゃないの? 赤ちゃんに聞いたって答えてくれるわけがないし」
「そうだな。じゃあ、別の人に聞いてみるか」
「別の人?」
「ここは霊安室だぞ。よぉく見てみろ、他にも一杯いらっしゃるじゃないか」
真白な蛍光灯の灯りに照らされた室内には、よくみるといくつもの黒い影がゆらめいていた。
「ひぃっ、幽霊!」
「だから、おまえが驚くなって」
「えー、でも、なんで九郎ちゃんは平気なの?」
「オレを誰だと思ってる。こちとらは学園七十七不思議を制覇した魑魅魍魎マスターだぞ」




