もうひとつの不可思議セブン3
さっそく、影の一つに話しかけてみた。
「あの、この赤ちゃんについてお伺いしたいんですけど」
ぼんやりとしていた影がしだいに人の形を作り、恰幅のいい初老の男性になった。
「あー、あの赤ん坊か。まったく朝から晩まで泣きわめきやがってうるさいったらありゃしない。はやくなんとかしてくれよ」
すると、しわくちゃの老婆が現れて口をはさんだ。
「そんな言いかたするもんじゃないよ! この子の方がアンタよりずっと先輩なんだからね!」
「チィッ」
男性は舌打ちを一つして、すぅっと消えて行った。
「あの、お婆さん」
老婆の霊に話しかけると、不服そうにオウム返しされた。
「お婆さん?」
どうやら呼び方に不満があるらしい。
「あ、いや……ええと」
御婆様? おばば様? 思い切って、奥様とか? 悩んでいると、老婆の霊が口を開いた。
「お姉さん」
「お姉さん!? それはいくらなんでも」
「何か問題でも?」
老婆は断固たる口調を変えようとしない。結局オレが折れるしかなかった。
「い、いえ、問題ないです。で、その、『お姉さん』はこの赤ちゃんのことをご存じなんですか?」
「この子より前からここにいるのはアタシだけだからねぇ」
老婆の霊は、思い出したものを言葉にするように語り始めた。
「病院ができたばかりの頃さ。この赤ん坊は生まれると同時に死んでしまったんだ。一度でいいから母親の乳を吸いたかった。その一念で、何十年も泣き続けておるんじゃよ」
「じゃあ、赤ん坊を泣き止まさせるためには?」
「むう。誰かに憑依して実体化し願いを叶えれば、満足して成仏するじゃろうなぁ」
乳を吸いたい? 憑依して願いを叶えれば満足する?
オレは老婆と赤ちゃんの顔を交互に見比べた。
ふと気がつくと、隣にいた透が顔を真っ赤にしてブルブル震えている。
「ちょっと待ってよ。憑依して願いを叶えるって、そんなの、ここにはボクとと九郎ちゃんしかいないじゃん! どっちかに赤ちゃんの霊を乗り移らせて、どっちかの胸を吸うってこと?」
「まあ、そうするしかないよな。七不思議をクリアしなきゃ外には出れなさそうだし」
「待って待って、そんなの、心の準備がまだできてないよ!」
いつもなんだかんだとオレのことを挑発してくるくせに、いざとなったら頭から湯気が出そうなくらい緊張してやがる。
しょうがない。
「じゃあ、おまえに赤ちゃん霊を憑依させるからオレがお母さん役な」
「はぁっ!? ボクそっち!?」
「さすがに逆はマズイだろ。ほら、オレ一応純潔を守らなきゃいけない立場だしな」
「そーですよねぇ……ボクノムネジャクロウチャントタイシテカワリナイシ」
透は、ホッとしたようなガッカリしたような複雑な表情で肩を落とした。




