ビョウインに行こう7
「シャルウィーダンス?」
「い、イエスッス!」
陶器のように真っ白い手を取ると、それまでダンスしていた魑魅魍魎たちがさっと退いてフロア中央に大きなスペースができた。
先輩はさも当然のように、オレの手を引いてフロアの真ん中に歩み出る。
大音量の音楽とミラーボールが食堂をダンスホールに変えた。
あわてて耳打ちした。
「でもオレ、ダンスとかできないですけど……」
「大丈夫。ダンスっていうのはベッドと同じなの。ときに女性に主導権を渡すっていうのも楽しいわよ」
「いや、そのベッドも経験ないんですど」
「なあに? おねだりなの? 欲しがりクンね。でも、まずはこっちを楽しんで」
妖しい笑みを浮かべ、手を取って腰を押し付けてくる。
なんというジャンルのダンスなのかも全然わからないけれど、リードされるままに手足を動かすと、いつしかオレの身体はリズムに乗っていた。
汗が飛ぶ。
光が走る。
笑顔がはじける。
「なかなかやるじゃない」
「玲子先生のリードのおかげです」
「これだけ踊れば十分よね」
「十分って、どういうことです?」
「青嵐中央総合病院七不思議その4『食堂の大ダンスパーティー』を無事体験したってことよ」
曲が終わって離れようとする美少女人形の手をギュッと握りしめる。
「なぁに、まだ一緒にいたいの?」
「白い烏の尾羽をオレのバッグに入れてくれたのは、もしかして先生ですか」
「何の話?」
やっぱり、彼女は素直には答えない。
女の子にストレートな質問をしてはダメなんだよな。特にベッドの上では(ベッドじゃないけど)。
「手術室ではその羽根のおかげで命拾いしたんです。ありがとうございました」
そうだ。ロリナースとのシリトリ合戦に勝つことができたのは、ラッキーの産物。つまり、この幸運のアイテムのおかげってことだ。
「そう? なんのことかわからないけど、良かったわね」
そう言って妖艶な笑みを浮かべる。
本気なのか、フェイクなのか、その笑みの真意は経験値の低いオレにはさっぱり読み取れなかった。
彼女を前にするといつもこうだ。自分の未熟さを思い知らされる。
そしてそれが不思議と嫌じゃなかった。
もちろん、白神先輩が実はいい人だってことはわかっている。オレを助けるために大事な烏の羽根をくれたって不思議じゃない。
でもそれなら、わざわざ危ない病院の七不思議なんかに巻き込まなくてもいいんじゃないだろうか?
これじゃあ先輩はオレをわざと七不思議に巻き込んで、その上でさらにオレの身に危険がないように守っていることになる。
なんでそんな面倒くさいことをしてるんだろう?
……いや、待てよ。同じようなことが数カ月くらい前にあったばかりじゃないか!
「もしかして先輩、オレにこの病院の七不思議を制覇させようとしてるんですか?」
オレに青嵐学園の七十七不思議を制覇させようとしたのは、白神先輩その人だった。もしかして、先輩はまたオレに同じことをさせるつもりなのか?
「いったい、何を企んでいるんです!」
すると、整った美しい顔から微笑みが消えた。
「じゃあ逆に聞くけど、キミはこのままでいいと思ってるの?」
「……どういうことです?」
「キミは聖玉にこのままでいたいって願ったのよね。それってどういうことだかわかる? キミはずっとこのまま、緑水寮で鬼神や座敷童子や付喪神と一緒にループした世界で生きることになるの。次郎丸真紅理事長がそうであるように、何年たっても卒業することもできない。学園七不思議の一つとして、時間の流れから切り離された存在になってしまう」
みんなでずっとこのまま終わらない日常を過ごす。
きっとそれは、まるでアニメや漫画のように楽しい日々だろう。でも本当にずっと高校生のままでいいんだろうか。
「たしかに、それはちょっと困るな」
「でしょ。つまり、キミの願いは間違っていたのよ」
そう断言されて、オレはすこしだけムッとした。
あの時、状況をめんどくさくしたのは他ならぬ貴女だったくせに。
「じゃあどうしろっていうんです? 契約を破棄したら会長は鬼神に戻ってしまうんですよ。それに、もう一度封印帳を制覇して聖玉と契約し直したとしても、聖玉が叶えるのは心の奥底にある願いなんですから、うまいこと丸く収まるようなことを願えるとは限らないですよね」
すると、玲子先生は再び妖しい笑みを浮かべた。
「学園の七不思議はそうよね。でもこの病院の七不思議は違う。普通に七個しかないんだけど、制覇するためには一晩で七不思議の全てを体験しなきゃいけないの。そして七不思議を制覇すると、封印が解けてこの地に眠る青嵐の主が姿を現す」
「青嵐の主?」
そんなの、会長がみせてくれたスライドにもなかったぞ。
首をかしげていると、玲子先生はオレの手を握ってきた。
「鬼神なんかよりずっと優しくて知的な存在よ。主に願えば、学園の聖玉の願いだって打ち消すことができるはず。そうすればキミも純潔なんかを気にせずに、ちゃんと誰かを選んで恋人になることができるでしょ」
甘い匂いが広がった。
「誰かって?」
「誰でもいいじゃない。美人の生徒会長でも、可愛いルームメイトでも。新しい金髪巨乳ちゃんってのもアリだわ」
その中に、先輩は含まれるんだろうか?
オレは二つ返事で答えた。
「わかりました。やります!」
もちろん、すべて納得できるわけじゃないけど。いままでだって無我夢中でやってきたんだ。それに、白神先輩がオレを裏切るようなことをするわけがない。
「じゃあ決まりね。これから、残りあと3個の不思議にチャレンジしてもらうわよ」




