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図書館デート1

* * *


 翌日は、クインティー・ベイカー嬢の選挙活動日だ。


 放課後、待ち合わせ場所の公園に現れた金髪美少女は今日はおとなしめのワンピース姿で、大きめのバッグを抱えていた。


「今日はキマツシケンに備えて、図書館デートをするデス」


「学校の図書室じゃなくて、わざわざ市立図書館に行くの?」


 青嵐学園には自習室を兼ねた大きめの図書室があって、生徒の大半は試験前になるとそこで勉強をするんだけど……


「ハイ、周りに知ってる人がいないほうがヒニチジョウ性がアップしてシンミツ度が上昇しやすいってレイコ先生が言ってたデス」


「非日常性とか親密度とか……相変わらず日本語詳しいね」


 真紅さんとくらべて、クインティー・ベイカー嬢には選挙活動をしようって気はないらしい。あくまで、一般的なデートをしてオレと仲良くなるのが目的のようだ。まあ、生まれてこのかたオレはデートというものをしたことがないので、何をもって一般的とするかはあんまりよくわからないんだけどな。


 とにかくオレとクインティーはバスに乗って市内にある市立図書館へと向かった。


 青嵐学園は県庁所在地であるN市のはずれにあり、図書館まではバスで20分ほどの距離。途中の町並みは、ごく普通の市街地だ。ただ、今日はどういうわけか何度も信号にひっかかった。


「なんだか、今日はアンラッキーだな」


「そんなことないです。姫雪クンの隣にいられる時間が長いから、ワタシ的にはラッキーデス!」


 そういうと青い瞳の美少女はニッコリと微笑んだ。

 

 窓から差し込む陽の光を反射して、金色の髪がキラキラと輝く。まるで飴細工のような金色の毛並みは、真紅さんとも白神先輩とも違う美しさだった。


「もしかして、見とれてマス?」


「あ、いや、そんなことは……ないけど」


 図星を突かれて、窓の外に顔を向ける。ガラスに写ったオレの顔は真っ赤に染まっていた。


(どうしたんだ、オレ?)


 とりあえず気持ちを落ち着かせるために深呼吸をして、窓の外を眺めた。


 そこに広がっているのは見慣れた町並みだ。


 ふと、思った。


「そういえば、この間大きな地震があったのに大した被害も出てなさそうだな」


 たしか震度6くらいあったはずなんだけど、町の様子はいたって平常運転だった。そういえば、大地震につきものの余震もほとんど起こっていない。


「そういえば、クインティーさんのウチは地震大丈夫だった? イギリスには地震なんてないって聞くから、びっくりしたでしょ」


 それを聞いた彼女は、不思議そうに目を丸くした。青い瞳が落ちそうだ。


「地震? そんなのありましたっけ?」


「日曜日の夜だよ。震度6だったから、かなりの揺れだったと思うけど」


「はぁ?」


 きょとんとした顔をしている。よっぽど耐震性の高い建物に住んでるんだろうか? 首をかしげていると、


「さぁ、着きましたよ」


 ちょうどバスが市立図書館前に到着して、クインティーはオレの腕を取る。彼女が着ているのはおとなしめのワンピースなのに、その胸に隠れた膨らみはちっともおとなしくなかった。


 オレの肘が二つの山にずっぽり挟まれる。


「ちょ、ちょっとクインティーさん!」


「姫雪クン……エッチデス」


 エッチって、キミからやったことなんですけど! 


 金髪美少女の淫猥な声に、周囲の乗客たちの咎めるような視線が集中する。オレは、あわてて彼女の手を握り返してバスを降りた。



 平日夕方の市立図書館は、思った以上に閑散としていた。


 正面玄関を入ると目の前に貸出カウンターがあり、その向こうの閲覧室には6人掛けのテーブルが10台ほど並んでいる。休日になると勉強する学生や読書に来た親子連れでそれなりに席が埋まるのだけど、今日はどういうわけか人っ子一人いなかった。


 奥の書棚には数人の人影があるみたいだけど、閲覧室の方に出てくる気配はない。


 ちょっとだけ、ほっとした。


 なにしろクインティーのような白人の美少女を連れていると否応なしに人目を引いてしまう。


 一昨日一緒に街を歩いたときもそうだったんふだけど、さらにそこから発展して――


「なんでこんな可愛い子が、こんな冴えない男と一緒に?」

「もしかして、日本語とかよくわからないのをいいことに騙してるんじゃないだろうな?」

「それとも、なにか弱みでも握られて言うこと聞かされてる?」


 などというあらぬ疑いを受けることになってしまうのだ。


「よし、じゃあこの辺に座ってやりますか」


 オレは、大きなガラス窓から中庭が見える見晴らしのいい場所に陣を取った。向かい合って座るかと思ったら、ベイカー嬢はオレの隣の席について、椅子ごと身体を寄せてきた。


「日本の高校の授業、ムズかしい。わからないところがいっぱいありマス」


「何がわかんないの?」


「コブンなんデスけど」


「ああ、そりゃベイカーさんには難しいだろうね。何でも聞いていいよ」


 いくら日本語が達者とはいえ、海外から日本に来たばかりのベイカー嬢に古文をやれっていうのがそもそも無理な話だ。


「ありがとうございマス。わからないのはヘイケモノガタリの『木曽殿最期』のトコロなんデス。イマイカネヒラがキソヨシナカに『ヨロイを重く感じるなんてヨワキになってる』って言うじゃないデスか。あれ、シュクンをバカにしてるデス。ニホンのブシってもっとシュクンにチュージツだと思ってたデス」


「わからないトコのレベル高っけえな!」


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