青嵐のレキシ1
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翌日は、次郎丸真紅現生徒会長の選挙活動の番だ。
放課後、オレは生徒会執行部室に呼び出された。行ってみるとそこには真紅さんと座敷童子・透の姿もあった。
「私、次郎丸真紅はこのたび生徒会長に立候補させていただきました。つきましては、私が生徒会長に当選した暁に何をなしたいか、その選挙公約・マニフェストについてプレゼンしたいと思います」
あくまで事務的な口調。そして、なぜか二人とも眼鏡をかけている。
「ええと、なんでメガネ?」
オレの質問に、透が無邪気な笑顔で答えた。
「それはね、真紅ちゃんがその方が真面目に見えるからって」
その口を会長が抑え込む。
「しっ、透ちゃんは黙って」
なるほど、生徒会長候補として真面目さをアピールしたいのか。でも真面目イコール眼鏡ってどんだけ安直なんだ? これまでオレは会長のことを成績優秀で頭のキレる人物だと思っていたんだけど、少々認識を改めるべきかもしれない。
「ずいぶん普通の選挙活動なんですね。もっとお色気作戦で来るのかと思ってましたよ」
「それも考えたわ」
「……考えたんだ」
「でも、考えてたら余計にわからなくなったの。聖玉との契約があるから九郎の純潔を奪うわけには行けないんだけど、そもそも純潔っていったい何? エッチなことが全然ダメっていうんなら、もうとっくに契約切れになっているはずよね。じゃあ、ちょっとくらいならいいの? ちょっとくらいってどこまで? 手とか口とかならいいの? じゃあ思い切ってお尻はどうなの? 九郎はエロゲの選択肢では必ずお尻を選ぶって透ちゃんも言ってたし」
忘れられてたと思っていた性癖を蒸し返されてドッと汗が噴き出る。
でも、それってもしかして会長がオレのためそこまでしてくれるってこと? 童貞のオレにはいきなりハードルが高すぎる話だけど、もしそうなら――
「だから思い切って、私が九郎のお尻のバージンを奪ってあげようかと」
「お尻ってそっちかっ!!」
やっぱこの人、ダメ組だ。
「さんざん悩んでもうお尻しかないと心に決めてたんですけど、昨日のあの舶来娘のやり口を見て作戦変更することにしました」
「大賛成です! 絶対その方がいいです!」
選挙活動の一環で掘られちゃかなわない。オレは全力で首を縦に振った。
「あんな泥棒猫に負けるわけにはいきませんから」
その口調からは、クインティーへの敵意がビシバシ伝わってくる。どうやら真紅会長は、単なる対立候補という以上に彼女のことを嫌っているらしい。
「昨日の選挙活動では絶対乳牛みたいな巨乳を使ったお色気殺法でくるだろうから、二人がラブホにでもしけこんだところを動画に撮って、SNSに拡散炎上からの退学コンボでカタにハメようと思っていたんですけど……」
いやいや、それだとオレまで退学になっちゃいますよ。
「それなのにラーメン屋? 百円ショップ? あんなほのぼのラブコメ路線でくるなんて。本来、世間知らずキャラは私のものだったはずなのに……。そこで私は考えました。今日の選挙活動では、私がいかにこの学園の生徒会長、いえ、九郎のメインヒロインにふさわしいかを徹底的に再教育します」
「ははは」
苦笑いを浮かべるオレに、透が補足した。
「だからね、真紅ちゃんと相談してまずは九郎ちゃんの理性に訴えることにしたんだ。今回の選挙で有権者は九郎ちゃん1名。信頼できる機関の調査によると、有権者のうち上半身の割合が15%、下半身の割合85%。本来なら多数派の下半身に支持を訴えるべきだけど、選挙戦は始まったばかりで、まだ少数派を斬り捨てる時期じゃないからね」
「透はそこで何やってんの?」
「何やってるって、ボクは真紅ちゃんの選挙参謀ですけど、何か?」
透は、意味もなく眼鏡をクイとずり上げて得意げに言った。
「あのなぁ、選挙参謀だか何だか知らないけど上半身の割合すくなすぎるだろ! 信頼できる機関っていったいどこだよ!」
しかし、透は耳を貸さない。
「それでは、この動画をご覧ください」
そう言うと、急増眼鏡女子二人組は得意げにクィっと眼鏡をずりあげる。
「無視かよ! しかもそれウザいからやめて!」
オレの心の叫びを無視して、執行部室の壁面に映像が映し出された。




