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お化け屋敷ハーレム2

 五分後――


「準備できたよぉ」


「お、おう」


 オレと透は脱衣場で服を脱いで、湯気の立ち込める大浴場に足を踏み入れた。


 チラリと横目で透の姿を盗み見る。決していやらしい気持ちじゃなく、純粋に入浴の準備がちゃんと出来ているかをチェックするためだ。


(あ、あー)


 透はバスタオルを巻いて身体を完全ガードしていた。風呂に入るのにそれはどうなの?という落胆と、まあそんなもんだろうという安堵が交差する。


「よし、入ろうぜ」


「うん」


 人造大理石でできた大きな浴槽からはお湯があふれ出し、真っ白い湯気が立ち込めていた。湯船の縁まで来たところで、透は巻きつけたタオルをスルスルと外しはじめる。


「な、何するんだ!」


「えっ、でも、湯船に入るときはちゃんとタオル取らないと」


「ああ、そ、そうだな。もちろん、取らなきゃダメだよな。でも、ちょっと待て」


 オレは、慌てて透と反対側の湯船に飛び込んだ。


「よし、もういいぞ」


 湯船の端と端に向かい合って座る。


 この距離なら、湯気のおかげで透の身体はぼんやりしか見えなかった。


「あー、いい気持ち。まさか、ボクがこの大浴場に入れるなんて思わなかったよ」


「よかったな。でも、こんなに人がいなくなるなんて偶然にも程がある、奇跡的だよな」


 そう言ってから、ふと思った。こんな偶然、あるはずがない。ひょっとして……


「まさか九郎ちゃん、聖玉にこんなこと願ったわけじゃないよね」


 透も同じ事を思ったらしい。違う、とは言えなかった。聖玉に何を願ったのかは、まったく覚えていないんだ。


「たった一つだけ、何でも願いが叶うんだよ。鬼神を封印するとか人間の世界を守るとか大事なことは一杯あったのに、それをボクがお風呂に入るために使うなんて信じられないよ」


 責めるような口調で、湯船の中をにじり寄ってくる。


「いや、あの、それは……まあ、とにかく落ち着け」


「コレが落ち着いていられますか、だって、だって、だって、そんなの――嬉しすぎるんだもん!」


 そう言うと、透はいきなりオレの胸に飛び込んできた。


 柔らかくて熱い裸体の感触に、鼻から熱い物が噴きだしそうになる。


「それって、九郎ちゃんがボクを選んでくれたってことだよね。次郎丸会長よりも、白神先輩よりも」


「おいおい、そんなノンキなこと言ってる場合じゃないだろ。こうしてる間にも鬼神が暴れてるかもしれないんだぞ」


「もう世界がどうなったって知らないよ。今こそ、ボクのこの想いを受け止めて!」


 眼前に透の顔が迫ってきた。目を閉じて頬を染めてキスをせがむその表情に、オレの心臓は爆発寸前だ。


(コイツ、こんなに可愛かったっけ)


 ピンクの唇に吸い込まれそうになる、オレも目を閉じてそっと唇を寄せた、その時だった。



「ダメ! 絶対ダメ!」



 唇に、何か冷たい物の感触が……。


 目を開けるとそれは、クダリ刀の刀身だった。おそるおそる横を見る。そこには、素裸にタオルを巻いただけの次郎丸真紅生徒会長の姿があった。


「寮内での不純異性交遊は許しませんよ。特に姫雪君は絶対です」


「会長、なんでここに?」


「私は、新しい理事長として寮内の施設を巡回しているんです」


「おかしいでしょ、そんなの。ここは男子寮だよ」


 透の抗議に、会長は憮然として答えた。


「そりゃ私だっておかしいと思うけど、急に男子寮の大浴場の巡視が決まったんだもの、しょうがないでしょ」


 なにがなんだかわからないことだらけだった。


「てゆうか、それより、会長は封印が解けて鬼神になったんじゃあ?」


 オレが尋ねると、会長も首をかしげる。


「それは、姫雪君が聖玉にお願いしてくれたんじゃないの? だから私、人間の姿に戻れたんだと思ってたけど」


 思わず頭を抱えた。オレは一体聖玉に何を願ったんだ?


「姫雪クンが清らかな乙女じゃなくなったら、私も鬼神に戻ってしまう。だから、絶対に不純異性交遊は禁止です」


「失礼な、九郎ちゃんとボクは不純じゃないよ。純粋異性交尾だよ」


「交尾って何よ、このエロ童子!」


 すると今度は天井から、白神先輩が落ちてきた。お湯の中で関節がバラバラになりながらも、強引に立ち上がる。彼女もまた、一糸纏わぬ全裸だった。


「いいコト聞いちゃった。じゃあ姫雪クンが清らかでなくなれば、また封印帳を制覇して聖玉と契約できるのね」


 そう言いながら、オレの身体にまとわりついてくる。


「付喪神、あなたが好きなのは姫雪君のお父さんなんでしょ。それなのに姫雪君と不純な行為を行おうだなんて、いくら魑魅魍魎でも外道がすぎるってものだわ」


「フン、いつあたしがヤるって言ったの? あたしは、座敷童子を応援することにしたから。二人が結ばれて、お宝はあたしがいただく」


「付喪神ちゃん……ありがとぉぉ、ボク、頑張るよぉ」


「二対一とは卑怯よ!」


「あんた鬼神なんだから、そのくらいのハンデでちょうどいいでしょ」


 白神先輩は、いつもどおりセクシーでミスエリアスな表情を浮かべている。でもこんなに早く、恋人が死んだショックから立ち直れるとは思えなかった。


「先輩、オレずっと考えていたんです。先輩が掛けた魅了の呪い、全然効いてなかったじゃないですか。あれ、どうしてなんだろうって。で、わかったんです」


「へー、どうしてだったの?」


「最初に先輩が空から落ちてきたときから、オレ、先輩に一目惚れしてました。だから、あらためて魅了なんて意味がなかったんです」


 それを聞いた会長と透からブーイングの嵐が巻き起こる。


「えーっ!? 姫雪君、私にも惚れてるって言ったわよね!」


「ボクのことも好きって……言ってないか。でも九郎ちゃんはボクのだもん!」


 同じ湯船の中に、全裸のボクっ子幼馴染と美少女生徒会長と巨乳お姉さん。


 考えてみれば、なんて豪華なハーレムなんだ。まあ、三人とも正体は魑魅魍魎なんだけど、この際そんなことはどうでもいい。


 取っ組み合いのけんかを始める三人をみつめながら、オレはようやく思い出していた。


 オレが聖玉に頼んだのはなんだったか、それは――



「みんなが、ありのままの姿でずっと仲良く暮らしていけますように」

ぽつぽつと後日譚などを書こうと思いますが、とりあえずいったん終了です。

お付き合いありがとうございました。

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