お化け屋敷ハーレム 1
(10)
気がつくと、オレは緑水寮の玄関ホールに倒れていた。
頭がぼーっとする。
頭上にあるホールの大時計が示す時刻は、六時。大浴場の入り口を寮生たちが行き交っているから、きっと午後六時なんだろう。
いつもの夕方の光景だ。
(オレ、なんでこんなトコに……てゆうか、鬼神は!? 透は!? 白神先輩は!?)
慌てて飛び起きた。
手にしていたはずの聖玉は影も形も無い。
傍らで、透が倒れていた。さっきまでの座敷童子の姿じゃない。いつもの、ジャージ上下におかっぱ頭という人間の格好だ。
「おい、しっかりしろ、透!」
すると、透は寝ぼけまなこを擦りながら起き上がった。
「九郎ちゃん、大きな声出さないでよ」
「バカ、何寝ぼけてんだ! しっかりしろ、一体何がどうなったんだ?」
「ええ? 何がどうなったって……あ、そういえば……白神先輩は? 九郎ちゃん、聖玉に何をお願いしたのさ!」
どうやら、今までのことは全部夢ってわけじゃないらしい。
封印帳が完成し、鬼神の封印が解けてしまった。そこでオレは白神先輩から聖玉を奪って、代わりに契約を結んだ……はずなんだけど、
オレは一体何を願ったんだろう? そして、あの至彼岸者ってヤツはそれを聞き入れてくれたのか?
なにがなんだか、さっぱりわからなかった。
ただ、気がついたことが一つ。
透の手には、洗面器が握られていた。
「おまえ、何持ってるんだ?」
「あ、お風呂の道具だ。ボク、なんでこんなもの持ってるんだろ」
すると突然、大浴場から寮生の集団が現れた。
――校舎で映画の撮影やってるんだって、ナキピョンが来てるってよ!
――ナキピョンって、アイドルの高原夏樹? すげー、見に行こうぜ!
――野球部の練習試合がスゲーって、甲子園常連高相手に七回まで2対2だってよ!
――今年は甲子園狙えるメンバーだもんな。よし、応援に行こうぜ!
――今晩の食堂のメニュー、A定食がオバちゃん特製の唐揚げ丼だって!
――アレ、寮食で唯一美味いんだよなあ、いそがねえとなくなっちゃうぞ!
あっという間に、辺りにはオレと透以外人っ子一人いなくなった。
ふと、思いついた。
「もしかして、透、おまえ今なら大浴場に入れるんじゃねえ?」
透がずっと入りたがっていた大浴場からは、完全に人の気配がなくなっている。
「ええっ? そりゃあ、今は誰もいないみたいだけど……」
ためらう透の頭上に、水の入ったバケツが落ちてきた。たちまち、体中が汚水まみれになる。これじゃあ、風呂にはいらないわけにはいかない。
「あちゃー、ほらほら、さっさと風呂に入って来い」
そう言って背中を押すオレの腕を、透が掴んだ。
「それなら、九郎ちゃんも一緒に」
「なな、なに言ってんだ?」
「でも、もし誰かが入ってきたときに、一人じゃ心細いし……」
なるほど、たしかにそうかもしれない。
「……じゃあ、遠慮なく」




