↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
46/123

人形がノゾんだことは2

 陶器のような白い顔が真っ赤に染まる。その瞳から大粒の涙が溢れ出していた。


 美少女人形の涙は、やっぱり絵のように美しい。


「そうよ。ずっと会いたかった。二十年間ずっと。最初はとても心配して、それから、裏切られたんだと思って彼のことを恨んだわ。でも、そのうちにそんなことはどうでも良くなって……会いたかったの。一目でいいからもう一度会いたかったの」


「……素敵な人だったんですか」


「素敵でもなんでもないわよ。人間でも妖怪でも関係ないとかキザなことを平気で言う、サイテーな男だった。いまのキミみたいにね」


「でも、好きだったんでしょう」


「ええ、好きだった。違うわ。今でも好きなの。好きで好きでしょうがないの。だから、もう一度会うくらいいいでしょう。二十年、ずっとそれだけを願ってきたんだから」


 けれどオレはかぶりを振った。


「すみません。でも、聖玉の願いは別のことに使わせて欲しいんです。オレにも叶えたい願いがある。オレは世界を守りたい。人間の世界じゃなくて、この世界を。それに残念だけど、聖玉に先輩の願いを叶えることはできません」


「どういうこと?」


「その彼氏の名前は、神楽坂和夫じゃありませんか」


「キミ、なんでそれを?」


「やっぱりそうか。聖玉との契約では、死んだ人間を生き返らせることはできないんですよね。先輩の彼氏、二十年前に青嵐高校一年生だった神楽坂和夫は、もう死んでいます」


「……うそ」


「彼は今年の三月に交通事故で死亡しました。十五年前に婿養子になって姓が変わっているけど、彼はオレの父親です」


 透がいなくなってから、座敷童子の能力で封じられていたオレの記憶は少しずつ戻っていた。


 そしてその中には、交通事故当日の記憶もあった。


 オレが救急病院に到着したとき、母さんはすでに息を引き取っていた。父さんの方はまだかすかに意識があって、そこで少しだけ言葉を交わしたんだ。


 愛する妻の死を知った父さんは、自分の命が尽きようとしていることも悟っていたらしい。すでに視力もないようでオレが手を握るとギュッと握り返してきた。


「おまえが車にいなくてよかった。友達に感謝してもしきれないな」


 なんのことかと思ったけど、父さんは「友達と約束があるから墓参りにいかない」というオレのウソを信じていたようだ。


「父さん、」


 泣きながら手を握り締める。すると彼は最後の力を振り絞るようにこう言った。


「一つ頼みがあるんだ。おまえは春から高校生になるだろう。青嵐学園は、父さんの母校でもある。あの頃、父さんには好きなひとがいてな。彼女とある約束をしたんだが、とうとうそれを果たすことができなかった。ひょっとしたら、彼女はまだ父さんを待っているかもしれない。だから彼女にあったら、すまないと代わりに詫びてくれないか」


 父さんが青嵐学園にいたのは二十年前だ。


 その当時好きだった女性が今も在学しているわけがない。頭を打ったせいで父さんの意識は錯乱してるんだろう、あの時はそう思ったっけ。


 でも、違った。


『学園七不思議その28、「保健室の美少女人形」

 長い年月を経て、人間同様の心を持った美しい人形。あるとき彼女は一人の男子生徒と恋に落ちた。二人は人間と妖怪の垣根を越えて永遠に愛することを誓い合う。しかし、ある日突然男子生徒は姿を消し、二度と保健室を訪れることはなかった。面長で色白の男子は気をつけて。保健室の美少女人形は、かつての恋人に面影の似た生徒を誘い込むと今度こそ逃げられないよう異次元へ連れて行ってしまうから』


 父さんこそ、美少女人形と永遠の愛を誓い合った男子生徒だったんだ。


 そういえば、昔から口癖のように言ってたっけ。 


「自分は昔、幽霊に会ったことがある。彼女はまるで人形のように美しく、でもそれ以上に心の優しい幽霊だった」って。


 当時のオレはぜんぜん信じてなくて、そのせいで人間不信になったくらいだった。まさかあの言葉が事実だなんて……


「父さんが、なぜ白神先輩との約束を破ったのかまでは聞けなかった。でも、父さんは高校のときに結核にかかったことがあるんです。いきなり強制入院させられて、何カ月も隔離病棟から出ることができず、せっかく入った高校も退学したって聞いてます。だから、決して先輩の事を裏切ったとか、そういうつもりじゃなかったんです。許してくれとは言いません。けど、ごめんなさい。父さんに代わって謝らせてください」


 そう言ってオレは深々と頭を下げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。