ヨミガエる鬼神5
人と鬼の身体が交差する。
そして――
「できるわけない、できるわけないじゃないですか……」
手からクダリ刀がこぼれ落ちる。オレは漆黒の空に向って叫んだ。
「会長を殺すなんて、んなの無理ですよぉ!」
次の瞬間、鬼神が動きを取り戻した。丸太のような太い腕が、オレの頭めがけて一気に振り下ろされる。
「危ない!」
透がオレを庇うようにタックルした。鬼の爪が背中をかすめる。それだけでも肌を切り裂かれたような衝撃が走った。
「うっ」
「九郎ちゃん、大丈夫?」
「透のおかげでな。そっちは大丈夫か?」
「うん、ボクは平気。でも、どうするの? 九郎ちゃんが二郎真君を倒せないんじゃ……」
透は不安げに瞳を潤ませている。
「大丈夫、まだ聖玉がある。白神一子から聖玉を取り返して、会長を元に戻すように願えばいいんだ」
おかっぱ頭を一撫ですると、オレは巨大な鬼の前に躍り出て叫んだ。
「会長! しっかりしてください!」
ふたたび、鬼神の動きが止まった。
「会長は、この世界が好きなんでしょう。世界を守りたいんでしょう。だったらもう少し頑張って、負けないで下さい。すぐにオレが聖玉との契約を結んできます。それまで、会長も戦ってください」
恐ろしい鬼の顔が、少しだけ穏やかになった気がする。
鬼神は、ゆっくりと口を開いた。
『……ヒメユキクン アナタハ ムチャバカリイウノネ』
「大丈夫です。会長ならできます。だって会長は、完全無欠の美少女生徒会長じゃないですか」
『ヤッテミルワ デモイソイデ ……キットナガクハモタナイ』
「はい! いってきます! 全部終わったら、また一緒にダンスしましょう! 透、ついて来い!」
オレと透は白神一子が飛び去った校舎裏へと走りだした。
ギュアルラアアアア!
背後から鬼神の雄叫びが聞こえてくる。
きっと、鬼神の中にある破壊の本能と生徒会長の世界を守りたいという心がせめぎあっているのだろう。
振り返ると、鬼神はたくましい両腕で頭を抱え、カッと両目を見開いていた。目の中で血走った眼球が上下左右に激しく振動している。その激しさがそのまんま彼女の中で起こっている戦いを物語っているような気がした。
「会長、頑張ってください!」
後ろ髪を引かれるオレの袖を透が引っぱった。
「九郎ちゃん、急がないと付喪神が先に願いを叶えちゃうよ」
そうだ。こうしている間にも、白神一子は聖玉との契約を行っているかもしれない。
だが、一つだけ疑問があった。
「なあ、でもさ、人間じゃない白神一子が本当に聖玉と契約できるのか?」
何か奥の手があるようなことを言っていたけれど、魑魅魍魎である彼女に聖玉との契約はできないから、オレに封印帳を完成させようとしたんじゃなかったのか?
「できるよ。封印帳を完成させるのは人間じゃなきゃ無理だけど、聖玉との契約はボクたち魑魅魍魎でもできる。ただね――」
そこまで言ってから、透は一度大きく息を吐いた。
「人間が契約するときの対価は純潔だけど、ボクらの場合は自分の命を差し出さなきゃならないんだ。あの子にそこまでの願いがあるとは思えないけど……」
オレの脳裏に、白神一子の淋しげな眼差しが浮かんだ。
彼女は本当に自分の命を懸けてまで何かを願おうとしているんだろうか?
もしそうだとしたら、いったい何を?
考えても、やっぱりわからなかった。
けどなんとしても、聖玉を奪い返してオレが契約を結ばなきゃ!
「とにかく、急ごう!」
「うん! でもゴメン。聖玉との契約を行う場所はボクも知らないんだ」
透がまた不安げな顔になる。
「大丈夫、オレにまかせろって」
白神一子は、どこへ行ったのか?
聖玉との契約は、青嵐学園でもっとも清らかな場所で行うとされている。
オレの頭の中に、イメージが浮かんだ。
学園で一番清らかな場所――
「……なら、あそこしかない!」




