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ヨミガエる鬼神3

 次の瞬間、咽喉に衝撃が走った。


 白神一子がいつのまにか例のロケットパンチを放っていたのだ。白い指がオレの首にガッチリと食い込んでグイグイ締め上げてくる。


「……ぐ、ぐるし」


「冥土の土産に教えてあげる。あれは今から二十年前のことよ。保健室によく来る生徒がいてね。一度脅かしてやったら、バカなヤツ、すっかりあたしの魅力に参っちゃってさ。それから毎日保健室にやってきて、何を思ったか、あたしに告白しやがった。もちろん、あたしは断わったわよ。こっちは妖怪だし、人間と付き合えるはずがないでしょって。でも、それからも毎日毎日、ちょうど今のキミみたいに『人間でも妖怪でも関係ない』とか言っちゃってさ。とうとうあたしも根負けして、そいつと付き合ってやることにしたわけ」


 白神一子の顔が険しくなった。同時に、指の力も一段と強くなる。


「ところがね、その次の日から、アイツは学校に来なくなった。青嵐の地からもいなくなった。つまりアイツは、ビビったのよ。じゃなきゃ、最初からあたしをからかうつもりだったのか」


「そ、そんなの、何か事情があったのかもしれないじゃないですか」


「うるさいっ! キミに何がわかるっての! だからあたしは決めたの。魔王を復活させて人間たちの世界をメチャクチャにするってね」


 興奮した白神一子は、残る右腕を振り上げて叫んだ。


 腕の先には、封印帳が握られている。


 生じたその一瞬の隙を、完全無欠の生徒会長が見逃すはずは無かった。二階の窓から身を躍らせると、クダリ刀を一閃、見事に先輩の腕を一刀両断した――はずだった。


「甘いわね、そんなに殺気をプンプンさせて気づかれないとでも思ったの?」


 突如、土中から現れた植物のツタが会長の足をすくった。


「何っ!」


 バランスを失った会長は地面に倒れこむ。さらにその手足めがけて、緑色のツタが襲い掛かった。地面から次々に現れる緑の触手で、あっというまに会長の四肢はがんじがらめに縛られてしまった。


 七不思議その60の「怪奇、食人植物」だ。


 でも、こないだ見たのとは大きさがぜんぜん違っている。人間の体ほどのある太いツルは、テラテラと緑色に光ってまるで大蛇のようだ。これじゃあ、さすがの会長も身動きが取れないだろう。


「チッ、しまった」


「アンタさぁ、もう自分じゃ殺気を抑えられなくなってるんじゃない? オーケー、それなら心優しいあたしがラクにしてあ・げ・る」


 白神一子は次郎丸真紅に近寄ると、制服の胸元に手を差し込んだ。


「な、何をするの、やめなさい!」


 人形の細い腕が動けない会長の身体をまさぐるように這い回り、やがて何かを探り当てる。


「ビンゴ、やっぱりアンタが持ってたんだ」


 その手には、黄ばんだ古い和紙が握られていた。


「姫雪九郎! 約束の御褒美よ。特等席で九十年ぶりのスペクタクルショーを見せてあげる。我らが魑魅魍魎の王、鬼神の復活をね」


 白神一子は、会長から奪った紙片を封印帳に差し込んで天を仰いだ。


 美しい横顔が、筋肉丸出しのグロテスクな表情と重なる。


 その唇が聖玉を呼び出す呪文を紡ぎはじめた。



「聖玉よ、古の契約は終わりぬ。いまより、封印帳に集いし七十七の力を集めて、新しき時代の契約をなさん」



 カケマクモカシコキタカマハラノスメラカミニモウス

 イニシエノヤクジョウニシタガイアマノミタマヲサズケタマヘ


 驚くほど、澄んだ声だった。


 突然、黒雲が空を覆った。星明りは消え、ゴロゴロという地鳴りが響く。


 そして次の瞬間、一条の稲妻が校庭の真ん中を貫いた。閃光がほとばしり、ドンという轟音がこだまする。


「うっ」


 あまりの眩しさにオレは思わず目を閉じた。


 恐る恐るまぶたを開ける。視界に飛び込んできたのは、ツタに手足を縛られた宙に吊り上げられた次郎丸真紅会長の姿だ。


 そして、会長の胸には青く光るものがあった。


 ソフトボールほどもある、青く光る石。


 あれが、なんでも願いをかなえるという聖玉なんだろう。


 白神一子は会長の胸の上にある青い宝玉を手に取ると、高らかに叫んだ。


「聖玉、たしかに頂いたわ!」

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