ヨミガエる鬼神2
見つめ合うオレと透の間に、立ちふさがるものがあった。
「はいはいはいはい、感動の対面のところ悪いけど、ただ見はそこまでよ」
ギャル姿の白神一子だ。
軽口を叩いているけど、その目は全然笑っていない。
「ここから先はお代を払ってほしいな。破れた封印帳の一ページ。持ってきたんでしょ」
「……もちろん」
うなずいてからオレはサラシの巻かれた腹に手を当てた。しかし実は、そこには何もない。破れたページを持っているのは次郎丸生徒会長だ。オレの役目は白神一子の気をひきつけ、会長が封印帳を奪うための隙をつくることだった。
「でも、その前に聞かせてください。先輩は封印帳を完成させてどうするつもりなんです? 鬼神が復活して、人間の世界がメチャクチャになればいいと思ってるんですか?」
オレの質問に、白神一子はニヤリとほくそ笑んだ。
「そうねえ。それもいいんじゃない? 封印帳を完成させて聖玉が出現したら、鬼神の封印が解かれるのよね。そうすれば、影の存在として学園の隅に追いやられていた我々魑魅魍魎が、人間と対等か、それ以上の存在として誇りを持って生きられるようになるわけよねぇ」
突然、逆らうような叫び声があがった。
「そんなことないもん! 人間と対等の世界なんて、誰も望んでなんかいないもん! よく考えてよ。ボクたちが人間を脅かしたり怯えさせたりするのは、人間が憎いからじゃない。仲良くなりたいからだよ。仲良くなることと対等になることは全然違う。そんなことしたってボクたちも人間たちも、誰も幸せになんかなれないよ!」
透だった。座敷童子の少女が涙まじりに叫んでいた。
まわりを取り囲む魑魅魍魎たちにも困惑の表情が浮かぶ。白神一子は透を蹴りつけた。
「黙れ、裏切り者! 人間と妖怪とが仲良くなんてできるわけないでしょ。ああ、もう面倒くさい。こうなったら力づくね」
それから、誰に言うとも無く命じる。
「おまえたち、あの人間の持っている封印帳を奪って来い!」
すると、地面から次々にゾンビたちが湧き出してきた。
昨晩も見た「蘇るゾンビの群れ」だ。本来は礼拝堂の鐘が鳴らなきゃ出てこないはずなのに、封印帳が完成寸前で魑魅魍魎たちの法則も崩れてしまっているのだろう。
ゾンビの群れは映画さながらにフラつきながらこちらへ向ってにじり寄ってくる。
オレは手にした金属バットを振って、近寄るゾンビを殴り飛ばした。
「ふふん、ゾンビ相手に金属バット(そんなもの)が通用すると思ってるの?」
昨日の落ち武者軍団との戦いでは、ゾンビは刀で切られて身体が半分になっても攻撃をやめなかった。そのしつこさは折り紙つきだ。
でも、オレに殴られたゾンビは起き上がる気配を見せなかった。
「こいつはただのバットじゃない。特別製なんだ」
そう言って空に掲げた金属バットには、ガムテープで八曜鏡がグルグルに巻きつけられている。想像通り、魔除けの宝具で殴られた不死のバケモノはもう再生できないみたいだ。
オレは襲い掛かるゾンビたちを次々に叩き伏せた。
ゾンビ無双を続けていると、朝礼台の向こう、校舎二階の庇の上に潜む次郎丸生徒会長の姿が目に映った。会長はまるで忍者のように姿を隠しながら、白神一子の様子を伺っている。きっとあそこから飛び降りてイッキに封印帳を奪うつもりなんだろう。
肝心の封印帳はどこに? ――視点を白神一子に移すと、見覚えのある古びた本がその豊かな胸にしっかりと抱きかかえられていた。
このままじゃ、会長が封印帳を奪うことはできそうにない。
どうする? どうすれば、隙を作ることができるだろう? 何か話しかけてみるか? 軽妙なトークで先輩の気を引くとか? でも、女の子が喰いつく話題なんてオレにわかるわけがない。
ええい、こうなったら直球勝負だ。聞きたいことを聞いてやる。
「先輩が人間を憎むのは、昔の恋人に裏切られたからなんですか?」
透ノートによれば、「保健室の美少女人形」は人間との恋に破れたせいで、男子生徒たちを霊界に引きずり込むようになったという話だった。
「でも、そんなのおかしいですよ。例え別れても、かつて愛していた人を憎むなんて」
すると、白神一子はニッコリ微笑んだ。
「姫雪クン、よく知ってるわね。あたしのこと調べたの? そんなに興味がある?」
うまく彼女の気を引けたらしい。どうやら、直球勝負は大成功――
「でも、ムカつくのよね。人の秘密をコソコソ嗅ぎまわるこすっからいヤツはさぁ!」
――じゃない!?




