幼馴染のヒミツ7
「まず一つ目の作戦。これがもっとも簡単なやりかたよ。いまこの時点で、鬼神はこの学園のどこかに封印されているわけ。だから復活の前に、鬼神を封印している依り代をみつけてそれを破壊することができれば、今度こそ完全に息の根を止めることができるんじゃないかしら」
なるほど、力を封印されて眠っている鬼神の寝込みを襲うってわけだ。たしかにそれは現実的なアイディアかもしれない。オレは即答した。
「それはダメ、却下します」
「どうして?」
「理由の一つは、もしそれで上手くいくのなら亡くなった理事長がとっくにやっているはずでしょう。彼女がそうしなかったのには何か理由があるはずです」
理事長は、鬼神の封印を維持するためにわざわざ90年間も貞操を守っていたんだ。つまり、封印中の鬼神には手を出せないと考えた方がいい。
でも、それだけじゃなかった。
「それにそもそも、封印が解ける前の鬼神は何も悪いことしてないじゃないですか。それを問答無用で退治するのはダメです。前にも言いましたけど、オレは自分が人間だからってだけの理由で人間の味方をしたりしません」
それを聞いて、会長はニヤリと笑った。
「まあ、姫雪君ならそういうと思ったわ。じゃあ、作戦の二つ目。まず、私たちは座敷童子と引き換えに封印帳の欠片を付喪神に渡す。すると封印帳が完成して、聖玉が現れるでしょう。同時に古い契約が破棄されて鬼神が復活するわ。そのドサクサにまぎれて、こっちが聖玉と新しい契約を結んで再び鬼神を封印するの。90年前に理事長がそうしたように」
ふと、思いついた。
「ええと、聖玉ってホントに何でも願いを叶えてくれるんですか? それなら……」
「いいえ、何でもというのは白神ビチ子が勝手に言っているだけで、当然ながら限度や制約があるわ。たとえば、この青嵐の地をはるかに越えるような社会の改変はできない。世界中から戦争をなくしたい、なんていうのは無理ってことね。さらに、命に関わる願いは叶えられない。誰かを生き返らせたり、逆に殺したりもできない。理事長が鬼神を殺さずに封印したのはそのためよ。したがって――」
それから会長は、咳払いをして続けた。
「残念だけど、姫雪君のご両親を生き返らせてあげることはできないわ」
会長に言われて、オレははじめてそういう願いもあるのかと気がついた。
でも、もし仮に聖玉に両親を生き返らせる力があったとしても、きっとオレはそれを願わないだろう。もちろん、両親のことが嫌いなわけじゃない。有名な猿の手の怪談を例に出すまでもなく、死者を復活させるって願いは不自然なんだ。きっとロクな結末にはならない。
「やだなあ、そんなことを考えていたんじゃないんです。そうじゃなくて、お願いの仕方によっては鬼神を封印しなくてもいいんじゃないかって。例えば、鬼神の破壊の本能だけなくなるように願うとか」
オレの質問に、会長はやや考えて答えた。
「たぶん、それはいけると思うわ。そのくらいは聖玉と契約する人の裁量だと思う」
「よし、それなら二つ目の方法で行きましょう。そんでオレが、鬼神を平和主義な神様に変えてみせます」
任せておけとばかりに胸を叩いてみせる。すると、会長は不安げな口調で尋ねてきた。
「でも、わかってる? 契約には清らかな身体の持ち主が必要なの。そして、それは今だけってわけじゃない。祖母は契約を維持するために一生純潔を貫き通さなければならなかったわ。姫雪君も、それでいいの? せっかくビチ子から幼馴染ちゃんを取り戻しても、彼女を、その……『愛する』ことはできなくなるのよ」
持って回った言い方に、オレは焦って両手を振った。
「愛するって、別にオレはそんなつもりで透を助けたいわけじゃないですから、全然オッケーです。一生童貞上等ですから」
「本来なら祖母に代わって私が果たすべき役目なんだろうけど、諸々の事情で私は聖玉とは契約できないの。あっ、変な想像をしちゃダメよ。前に言ったとおり、私はまっさらの新品で、純潔に疑う所は一切ないんだから」
「わかってます。オレにどーんと任せてください」
「姫雪君がそこまで言うんなら……じゃあ細かい作戦を立てるわよ」
そうして、会長の立てた作戦はこうだった。
まずオレが一人で校庭に行き、白神一子の注意をひきつける。その隙をついて会長が白神を襲い、透と封印帳の両方を奪って聖玉を出現させる。聖玉の出現と同時に復活する鬼神は会長が相手をし、その間にオレが聖玉と再契約を果たす。
どうせ封印帳を完成させるなら白神先輩と戦うのは聖玉が出現してからでも良かったんだけど、会長がどうしても「あのビチ子に一泡吹かせたい」というので、オレたちの手で封印帳を完成させる計画にした。
「そういえば、白神一子が聖玉を出現させるには呪文が必要だと言ってました。あと、聖玉と契約する場所も決まってるって」
「復活の呪文は、理事長に聞いたことがあるから紙に書いておいてあげるわ。でも契約の場所は青嵐の地でもっとも清らかな場所、としか伝えられていないの。たぶん、実際に聖玉を手にすれば自然にわかるんじゃないかしら」
清らかな場所か。
ちょっと考えると礼拝堂だろうか? 他には、この理事長邸も昔の礼拝堂だから候補かもしれない。
いずれにしても、聖玉を手にしてから考えればいいだろう。
すると突然、会長が思いつめたような口調で言った。
「さっき、鬼神をなんとかする作戦が三つあるって言ったでしょ。万が一、聖玉の奪取に失敗した時のために、最後の作戦も聞いておいて欲しいの」
「はい」
「三つ目は一番シンプルに、復活した鬼神を倒す、それだけの作戦よ。平和主義の姫雪君はイヤかも知れないけど、どうしてもって時はこれでいくしかないわ」
「倒すって、そんなこと出来るんですか」
「さっきも言ったように鬼神は、破壊本能で生きる魑魅魍魎の王。鬼族っていうのは強靭な肉体を持ったバケモノだけど、ゾンビのような不老不死ってわけじゃない。脳があって心臓があって、身体の構造は人間と似たようなものなの」
「そうなんですか」
会長は、鬼神の写真を指差しながら続けた。
「それに、ヤツには一つ弱点がある。ここを見て。鬼の皮膚は硬くて刀も銃弾も通さないんだけど、この脇の部分だけは柔らかいの。左のわきから一気にクダリ刀で突き刺せば、姫雪君でも心臓を貫くことができると思うわ」
「姫雪君でもって、オレがやるんですか? さすがにそれは会長やってくださいよ」
驚くオレに、完全無欠の美少女はニッコリ微笑んでみせた。
「まあ、万が一の時の話よ。でも忘れないで、弱点は左のわき。大丈夫よ。鬼神は90年間封印され続けてきたわけだから、しばらくは動きも鈍いはずだわ。姫雪君なら、きっとやれるから」




