コドクの二人2
「ハハハハ、まさかぁ」
魅了の呪いって、ゲームとかでよくある、敵のことを好きになってそいつに操られちゃうってヤツか? それがいつのまにかオレに掛けられてたわけか? フィクションの世界にしかないことだと思ってたけど、正直もう驚く気にもなれなかった。
それにまったく心当たりがないわけじゃない。
夕方の弓道場で白神先輩に触られて以来、オレの額は妙に火照っていた。それが今、冷水で顔を洗ったようにスッキリしている。
きっと額に触られたときにその魅了の呪いとやらをかけられたんだろう。
「でも、白神先輩はなんでオレに呪いなんかを?」
でも魅了の呪いというワリに、オレの理性は保たれていた気がする。RPGなんかでは、魅了に掛かったやつは味方を攻撃して大迷惑ってカンジなのに。
小首をかしげていると、生徒会長の大きな目がすうっと細くなった。
「白神? あなた今、白神って言ったわね」
しまった。また口がすべった。慌てて口を押さえたけど、もう遅い。
「うっ、言ってない……こともないです」
「ってことは封印帳を盗んだのは、あの『白神が歩いた後は、マツタケがエリンギになって、最後にはエノキに変わる』って噂の白神一子なのね」
「どんな噂ですか。それに会長、意味わかって言ってるんですか」
「チィッ、あのビチ子め」
「ビチ子って会長様がそんな下品な言葉使っちゃダメですよ」
祖母の形見を盗んだ犯人がわかって頭に血が上ったのか、生徒会長は普段からは想像できない下品な言葉をつぶやいた。焦ったオレがたしなめると、キッとなって睨み返してくる。
「うるさいわねぇ。あなたそんなこと言える立場だと思ってるの? 魅了の呪いが解けた今ならわかるでしょ。あなたはあの白神ビチ子に騙されて、犯罪の片棒を担がされていたの。大方、あのホルスタインみたいな巨乳でエッチなことをしてあげるとか言われて、いいなりになってたんでしょ」
あまりの迫力に、オレは思わずあとずさった。
「ち、違いますよ」違わないけど。
「別にあなたを責めているわけじゃないのよ。呪いを掛けられてたわけだものね。それにあなたくらいの高校生男子が性欲の塊みたいなモンだってのは理解してるから。どうせ今だって、この私と二人きりでムラムラしてるんでしょ」
これが完全無欠の美少女生徒会長、次郎丸真紅の真の姿なのか?
怖い、怖すぎる。
「そんなワケないじゃないですか!」
「ウソつくんじゃないわよ! ホントは今にも私に襲いかかりたいって欲望で股間をギンギンにさせて――ないわね」
オレの股間を覗き込んだ会長は、そこにあるやや萎縮気味の○○をみてムッとした顔になった。
「これはこれでムカツクわ。あなた、女に興味がないの? ……あ、思い出した。もしや姫雪九郎ってあの有名なホモカップル!」
「ホモじゃないです! オレは真性の女好き、女の子が大好きなんです!」
今日二度目の魂の叫びに、会長はニヤリとほくそえんだ。
「フン、なに恥ずかしいことを大声で。大丈夫、あなたがホモじゃないことくらいわかってます。だって、さっきから私の太腿ばかりチラチラ盗み見てるでしょ。ホント、いやらしい」
そう罵られて、オレの頬は真っ赤に染まった。たしかにさっきからオレは会長の太腿を気にしていた。なぜなら穴に落ちたときにひっかかったらしく、彼女のスカートは深いスリットが入ったみたいに引き裂かれていたんだ。でも、チラチラ見ていたのはそれを彼女に教えようか悩んでいたからで、決していやらしい気持ちからじゃない。
「ち、違います」
「違うモンですか。しかもまるっきり肉欲獣の様な、いやらしい目つきで」
「違いますよ!」
とにかくオレはこの場をごまかそうと大声を上げた。
「たしかにオレはホモじゃないです。でもだからって、魅了の呪いにひっかかったとか、エロいご褒美に釣られたとか、そんなことで白神先輩から封印帳を預かったわけじゃありません!」
だが、それが失敗だった。
「預かった? それじゃあ、封印帳はあなたが持っているってこと?」
またまた口が滑った。オレの口はスケートリンクか、大人のローションでも塗ってあるのか?
「い、いえ、あの」
「なによ、はっきり言いなさい」
会長は再びクダリ刀を突きつけてきた。それが身体を傷つけないとわかっても、目の前で白刃がきらめくのは恐ろしい。しぶしぶ白状した。
「……オレが預かって、ある場所に隠してあります」
嘘のないギリギリの線だ。
「ふうん、で、あなたは魅了の呪いが解けても封印帳を私に返す気はない、ってわけ?」
「そんなことないです。会長の言うことが真実なら、もちろんお返しします。でも、まだよくわからないっていうか、なんか今日はいろんなことがありすぎて」
会長の氷のような視線が突き刺さる。
しばしの沈黙。
すると会長は、この話はおしまいと言わんばかりに刀をしまって立ち上がった。
「まあいいわ。どうやらあなたは本当にビチ子の手先ってわけじゃないみたいね。それがわかっただけでもとりあえず良しとしてあげる。今は何より、ここから出る事の方が先だもの」
「は、はい」
ほっと一息をついて、オレは今いる空間を見回した。落とし穴は底が四畳半ほどの広さで、高さは3メートル以上ある。上を塞いでいるものは特にないらしく、空には無数の星が瞬いていた。
たしかに、ここを抜け出すのは少々難儀かもしれない。
「この壁は泥ばっかで掴むトコないですね。よじ登るのは難しそうだな」
「うーん、でも登る意外に外に出る方法はなさそうよ」
「妖怪の仕業なんだったら、会長のクダリ刀でズバッと退治とかできないんですか?」
「無茶言わないで。篭り鼠を退治するのは簡単だけど、この穴はもう現実に掘られたものだから、御神刀の力ではどうすることもできないわ」
「じゃあ、どうするんです? 携帯電話はさっき音楽室に落としたままだし」
「仮にあったとしても電波が届かない可能性が高いけどね。まあいいわ、こんなときこそ二人で協力し合いましょ」
「は、はい」
「じゃあ、早速頼んだわよ」
そういうと、会長は指でチョイチョイと地面を示した。




