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お嬢様たちの恋のバトルが過熱して、結果として色気が出てしまう  作者: 神泉 朱之介


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番外編・8

 倉木皐月が男子生徒としてラベールブロンシュ従育科に入学し、はや半年が経過した。


 書類は偽造。


 寮にも男子として入寮して、メイド服ではなくモーニングコートを着ての学校生活。


 初めのうちはいつ女だとバレるんじゃないかとドキドキしたり、ちょっとしたことで男女の違いを認識させられたりして居心地の悪い日々を過ごすことになったものの、今ではすっかり慣れた。


 同時にラベールブロンシュという金持ち学校の馬鹿馬鹿しさにも慣れて、ちょっとくらい突飛な事が起きても、もうあまり気にならない。


 ただ流石に、いきなりコース料理を作れだなんて試験が組まれた時は驚いた。


 実習もせずにやれだなんて、普通じゃない。


 不幸中の幸いと言えるのは、ルームメイトの兵頭春輝が同じ班に組み込まれたことくらいかな、と、皐月は密かに思った。


 同じ男でもこれが香取だったら最悪としか言えなかった。


 あいつの料理技能の有無は間題じゃない、あのネジが三本ぐらい外れた脳天気さが性に合わない。


 壬卦の方なら、まだ妥協は出来るけど……男の癖に下手な女生徒より可愛いから、やっぱり落ち着かなくなるかもしれない。


 だから兵頭と組めたのは、僥倖とまでは言えないだろうけどそれなりの幸運なんだろう。


 たった三人だけの班とはいえ、その幸運に、班分けをした深閑先生に感謝したい。


 こっちはそう、思っているというのに。


 目の前にいる兵頭はやる気が見えないというか納得がいっていないというか……とにかく、喜びを噛み締めているようには見えない表情だ。


 だから皐月はつい、


「……兵頭は、僕と同じ班が嫌なのか?」


 不満を漏らしてしまう。


 ちょっと大人気ないとは思うけど、もう言ってしまった後だ。


 これ以上みっともない真似はしないようなるべく表情を殺して、それでも少しやさぐれ気分で兵頭を睨み付けて、


「いや、そーいう訳じゃないけど。

 むしろお前と一緒なのは心強いし」


 返ってきたのは、実に兵頭らしい言葉で、咄嗟に胸を押さえたくなる衝動に駆られて、皐月はそれを何とかやり過ごす。


 こんな、ちょっと上手いことを言われたくらいで感動してどうするんだ。


 もう少しで顔に出るところだった。


 ポーカーフェイスだ、ポーカーフェイス……


 自分に言い聞かせてから、皐月は務めて冷静を装い、話を続け……


「で、あそこにいる、どう考えてもプラスになるどころかマイナスにしかなりそうもない不安要素はどーすんだ?」


 兵頭の親指が示す先にいる鳳凰寺早苗の存在に……皐月はその時、ようやくで気が付いた。


 三人の班で、そこに鳳凰寺も組み込まれているのはちゃんと理解していた。


 けど、どうやら脳は認識をしたがらなかったらしい。


 だってあれは、敵だ。


 いや、敵という表現はおかしいかもしれない。


 これは一方的な嫉妬に近い。


 憎いわけじゃないけど、寛容な気持ちではいられない。


 あんな風に女らしい可愛げのある表情が出来て、フリルやエプロンドレスがとても良く似合って、見せびらかしているんじゃないかと思うような大きな胸で……ああもう、やっぱり腹立たしくて仕方ない。


 最近、皐月は思う。


 世の中は結構不公平なものだったんだ、と。


 そうでなければ、こんなに差が出るはずがない。


 鳳凰寺と、自分。


 同じ女なのに、どうしてこうも違うんだ。


 女らしい肉付きだったら今のように男のフリなんて出来なくなるから困るかもしれないけど、そうなったら諦めもつく。


 諦められない気持ちがまとわりついているのは腹立たしくて、気持ち悪い。


 考えるだけでムカムカしてくるけど、あくまでもポーカーフェイス。


 兵頭が何か言ってきたり、目で訴えて来たけど、こっちは集中しているから何のことだかさっぱりだ。


 だから皐月はそれっぽい言葉を返したり『任せた』という意味合いで頷いたりしておいた。


 そうしているうちに、段々と自分の中で折り合いがついてくる。


 そうだ、別に他人は他人で自分とは同じ境遇に置けないんだから、気にすることはない。


 外見だけが全てってわけじゃないし、自分の顔や体がそこまで気に入らないわけでもないんだ。


 現実から目を背けるのは良くないし、これから試験だ。


 変な蟠りは捨てないと。


 よし、いける。


 自分の中で区切りをつけることに、どうやら成功したらしい。


 皐月は晴れ晴れした気持ちで、何やら兵頭と言い合っている鳳凰寺の言葉にも耳を傾けて、


「こういう場合って、女の子が先陣を切るものじゃないですか!

 私、こんなフリフリのエプロンドレスまで着ているんですよ?」


 ……聞くんじゃなかったと、大後悔。


 どうしようもなくピンポイントで癇に障ることを言ってくれた鳳凰寺にうらみつらみをぶちまけてしまいたくなって、皐月は必死に自分を抑えつける。


 落ち着け、彼女に悪気はない。


 自分が女だって事は誰も知らないんだから、あの発言は別に思い上がっている訳じゃなくて、ただ単に女だってことを自己主張しているだけで……自己主張し過ぎだ、くそう。


 全く、何だっていうんだ、鳳凰寺め。


 ちょっとばかり女らしい体つきしているからって、胸が大きいからって、エプロンが似合うからって、それがどうしたっていうんだ、この……ああもう、ちっとも落ち着けない。


 クールにならないと、ポーカーフェイスを保たないと。


 皐月はそうと悟られないように深呼吸をして、出来る限り冷徹なフリをしなから黙っていると、兵頭が小さく愚痴るように吐いた声が聞こえた。


「不安だなあ、おい」


 ああ全くだ、と皐月は心中で同意した。


 たぶん、その感想に至る筋道は大きく違うんだろうけど。


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