五話・14
けど、『直々に保護』って。
どこの天然記念物だよ。
いや、こーいう場合は人間国宝か?
どうにしろ仰々しすぎるぞ、その対応は。
「それで、絵を見てなくて前情報も知らなかった俺を使ったのか?」
「そういうこと。
春輝って、動物や年下の子に好かれるタイプだったでしょ?
外見はともかく根っこの部分は昔と変わってないから、安心して任せられたなぁ」
「……お前も昔と変わらない策士っぷりだな。
猫被りはレベルアップしてるし」
「ふふ、お褒めの言葉、どうもありがとう」
いや褒めてない。
ちっとも褒めてない。
これっぽっちも褒めてない。
全力でそう思っているのは伝わっているはずなのに、朱音は上機嫌の笑みを崩さない。
それを見て、理解する。
こいつはこいつなりに、本当に感謝しているんだと。
ああくそ、分かってしまった以上もう愚痴れないし。
これはこれで卑怯だ。
仕方ないからため息を吐いて、春輝はベンチから立ち上がった。
丁度遠くから鐘が鳴る音が聞こえてきたので、これにて試験終了だ。
「さてと俺は一旦教室に戻る。
お前はどうするよ?」
「わたしはレポート提出するから、寮に戻ろうかな。
七瀬さんの様子も見に行きたいし」
「そんじゃ、お疲れ。
あー、あと、尾行は程々にしとけよ。
ドリルを巻き込むのもな」
「あ、バレてたんだ?
うーん、やっぱり単独じゃないと悟られちゃうのねー」
まるで反省の色が見えない言い方をして、朱音も立ち上がる。
軽く背伸びをして、それからふわりとスカートを翻して……それだけでがらりと、フランクに話せる幼馴染みから、純正培養の令嬢にも負けない、上品な優等生へ印象を変える。
何も知らない奴が見たら狐に化かされたと思うくらい、それはもう見事な変化だ。
ちょっとしたイリュージョン並みに雰囲気を一変させた朱音は、そのまま折り目正しくお辞儀をして、
「今日は本当にお疲れさまでした。
試験結果は期待してくださいね?」
何も知らないヤツか見たら一目惚れしそうなくらい、破壊力抜群の微笑みを浮かべた。
「んじゃ、宜しく頼む」
春輝はぶっきらぼうに応え、さっさと背を向けて歩き出す。
少しでも早くこの場を離れたかった。
具体的には、ちょっとでもいいから朱音と距離を開けたい。
……あー、くそ、ヤバイ。
あいつの本性は十二分に知ってるっていうのに、うっかり見惚れそうになったよちくしょう。
まだまだ修行が足りないというか、男は単純だって思い知らされるというか……
蟠りのように胸の中に悶々としたものを感じつつ、さっさとそれを霧散させるべく、春輝はペースを上げて走り出した。




