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お嬢様たちの恋のバトルが過熱して、結果として色気が出てしまう  作者: 神泉 朱之介


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五話・7

「……よし、ちゃんと行った」


 朱音は小さく呟いて、続いて吐息を漏らした。


 最大で千五百人収容出来る会場が売りという、生徒総数の数倍も客が入る無駄に大きな多目的ホールの陰に隠れていたが、どうやらこっそり見ていたことはバレずに済んだようだった。


 春輝のことだからそれなりに上手くやるだろうとは思っていたものの、やっぱり不安はある。


 相手は『あの』七瀬ななみ。


 他のお嬢様方とはまた違う意味で一筋縄じゃいかない人だ。


 だからこそ幼馴染みには期待したい。


 折角の面白い機会を放棄したんだから、ここは是非とも頑張って欲しい。


「……さて、二人はカフェに行ったのかな?

 尾行、尾行っと……」


 ラベールブロンシュには建物が多いし石像やモニュメントも点在しているものの、見通しが良すぎるので身を隠せる場所は少ない。


 上手くつけないと簡単に見つかってしまうはずだ。


 だから朱音は二人の姿が完全に消えて、それからさらに一分程待った後で、ようやく動き出した。


 ホールの陰から舗道へと身を晒し、カフェのある講堂の方へと……


「……貴女、何をしてますの?」


「っ?!

 な、ぁ……ふ、グランヴィルさん!?」


 突然背後から声を掛けられて、心臓が止まりそうなくらい驚きながら振り向いてみれば、そこには訝しげに眉を顰めたオレリア・紫苑・グランヴィルの姿があった。


 朱音はバクバクと嫌な鼓動の心臓を押さえるように胸に手を当てて、


「わたしは、その……グランヴィルさんこそ、日曜の朝からどうしてこんなに所に?」


 出来る限り平静を装うととしたけど失敗し、取り繕うように質問返し。


 するとオレリアは予想外に狼狽して、あたふたと縦ロールの毛先を弄りだした。


「わっ、私は……用、は……無いのですけれど……」


 自分以上に慌てているその態度に、朱音はふと違和感を覚えた。


 なのでまじまじと、上から下まで凝視してみる。


 サテン地のドレスという彼女にしては地味で似合わない格好で、何故だかサングラスまで掛けていた。


 そっちの方はとても似合っているけど、流石に散歩するのにサングラスっていうのはおかしい。


 そこに気付くと、冷えてきた頭は高速回転。


 オレリアは今、校舎側から歩いて来た。


 寮とは別方向だ。


 おまけに、この妙な格好は……もしかしてもしかすると、変装のつもりなのかもしれない。


 僅か五秒足らずである可能性を導き出すと、朱音はもういつもどおりに笑えていた。


 そうかそうか、そういうことか。


「わたしは従育科の試験中です。

 春輝くんに、ちょっとした命令をしましたのでそれを見守ろうと思っていたんですよ」


「……命令?

 見守る、ですって?」


「ええ、そうです」


 オレリアは小首を傾げ、要領が掴めない様子でいる。


 まあそれも当然というか、自分がわざとそうなる言い方をしたんだから、或いは計算通りというべきかもしれない。


 思わぬ楽しみが転がり込んできたことに朱音は屈託のない微笑みを浮かべて、魅力的な誘い文句を口にした。


「そうだ、よろしければグランヴィルさんも付き合って貰えませんか?

 わたしだけですと、春輝くんに甘い採点を付けてしまいそうなので」


 ピクン、と彼女の眉が跳ねたのを、朱音が見逃すことは無かった。


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