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お嬢様たちの恋のバトルが過熱して、結果として色気が出てしまう  作者: 神泉 朱之介


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五話・6

 助けを求めようと横にいる朱音を見てみれば、何やら神妙な顔をしていた。


「……そっか、そういう手もあるかな……ちょっと勿体ないけど……」


 おまけにこっちを見ながらぶつぶつと呟いている。


 また何か企んでいるのか、この腹黒は。


 いや、それにしては陰が無いというか、嫌な雰囲気はないんだけど……どういうことだ?


 不穏じゃないのがむしろ不安で春輝が眉を顰めると、不意に朱音が「……よし」と呟いた。


 何だ、と疑問に思う間もなく、朱音はにこりと笑って春輝の用に手を載せた。


 そして……


「決めました。

 春輝くんは今日一日、七瀬さんの相手を立派に務めてください」


 唐突な上に意図の分からないことを言い放った。


「……は?」


「……ぇ、う……?

 言ってる意味が……」


 当然のように言われた側は混乱だ。


 それはそうだ、自分はともかく、試験のことを知らないこの先輩は余計に状況が掴めないはず。


 ……というか、事情を把握している自分ですら意味不明な展開だよ。


 この腹黒、横でにこにこ笑っていやがるけど……何考えてんだ?


 どんな悪戯を思いついたのかと問い質してやりたい……けど、いつもと違って目の奥が笑っていないような気がして、言葉に迷う。


 しかも……


「……七瀬さんのこと、任せたからね」


 判断に迷って硬直していた隙を突くようにしてそっと耳元で囁かれた朱音の言葉に、混乱が深まった。


 たぶん自分にしか聞こえなかったはずの声が、不思議と優しいものと感じてしまったからかもしれない。


 それに気を取られて……我に返ると、既に朱音は身を翻して距離を取り、笑顔のままでこちらへ手を振っていた。


「それでは、試験が終わる頃に会いに行きますから。

 頑張ってくださいね?」


「頑張るって……おいっ、朱音!?」


「あの、これ……えっ?

 どういう??」


 慌てて呼びかけるも、朱音は悠々とした歩みを止めないし振り返りもしない。


 巻き込まれた先輩の声にも無反応だ。


 追いかければすぐに追いつくけど、慌てず走らず堂々と歩いて遠くなっていく背中を見ていると、まるで追いかけるのが間違いのような気がしてしまって、足が動かない。


 それに、朱音の奴が何を考えているのかは分からないけど、命令されてしまった。


 あいつがマジだとしたら、撤回させようとした瞬間に赤点くらって試験終了かもしれない。


 結局、対応に迷っている間に朱音の姿はどでかい多目的ホールの向こうへと消えてしまい、春輝はため息を吐くことになった。


 ……困った。


 どうすりゃいいんだ、この状況は。


 やれやれと、同じく困っているはずのななみを見下ろした。


 向こうも丁度こっちを見上げたところで、バッチリ視線が噛み合う。


 一瞬で頬が赤く染まり、小さな先輩はパッと視線を逸らして、


「よっ……よく分からないけど、さよならっ」


「いや待て、ちょい待ってくれ」


 ぷいと向きを変えて慌ただしく歩きだそうとしたので、春輝は素早くななみの肩を掴んで制止を促した。


 それにしても小さな肩だ。


 ちょっと力を入れたら折れるか外れるかしてしまいそうな気がして、小鳥か何かを包み込むようにしか出来ないけどそれでも振り払えないらしい。


 見た目以上に非力っぽいな。


 どうやらそれでも本人的には必死なようで、ぶんぶんと首を横に振る。


「用っ、用があるの!

 これからななみは絵を描きに山へ芝刈りにっ、お婆さんと川へ鹿狩りに行くのっ!」


「落ち着け先輩。

 何をしたいのかさっぱり分からなくなってるから。

 あとお婆さん誰だ」


「はーなーしーてぇっ」


「分かった分かった……っておい?!」


 要望通り肩から手を放すと見事なまでにバランスを崩して転びそうになり、それを春輝は慌てて支えてやった。


 びっくりしたらしいななみは暴れるのを止めて、ちょっと息を荒げてこっちを見上げる。


「きゅ、急に放したらダメなんだよ!」


「みたいだな。

 了解したから、とりあえず話だけでも聞いてくれ」


 諭すというかあやすように言うと、ななみは迷うようにそわそわと視線を彷徨わせた。


 どうやらここが攻めどころらしい。


 春輝はちょっと腰を屈めて目線を合わせ、出来るだけゆっくりと心がけて話を始めた。


「俺は今、従育科の試験中なんだ。

 その試験内容が、主人の命令をとにかく聞けって感じのヤツで、最悪なことに俺の主人役のパートナーは、さっき消えた陰険腹黒……じゃない、優等生の藤條朱音なんだよ。

 だから俺はあいつの言うとおり、先輩の相手をしなくちゃいけないんだ」


「でも、それ、ななみには関係ないよ……」


「あー、分かってる。

 けど、悪いが協力してくれ。

 今度埋め合わせするから、出来れば付き合って貰えないか?」


「……うぅー」


 唇を尖らせて唸るななみは、どうみても思春期突入前の子供だけど……今そんなことを言ったら確実に気分を害して断られるな。


 本人も気にしているみたいだし、余計な真似はしない方がいいに決まってる。


 どうやら考慮してくれているらしい様子に、春輝はダメ押しに掛かる。


「当たり前だけど、先輩の邪魔はしない。

 用があるならそれを優先……っていうか、邪魔でなければ手伝うし。

 迷惑を掛けたら、そこで終了にしてもいい。

 それならどうだ?」


「うー……わ、分かった」


 おずおずと、ほんの少しだけ頭を動かして頷いてくれた。


 交歩成立だ。


 や、良かった良かった。


 腹黒幼馴染みや人の話を聞かないドリル女が相手だったら、絶対こうも上手く浮いかなかっただろうな。


 素直な先輩で本当に助かった。


 春輝はぐっと腰を伸ばして直立し、それから無害をアピールするべく笑みを見せる。


 ヤクザ屋さんのような怖い笑みにならないように注意しないといけないのが我ながら虚しすぎると思いながら、ななみへと手を差し伸べた。


「とりあえず移動するか。

 あ、時間はあるのか?」


「え……?

 ……うん、あるけど……」


「んじゃ、カフェで作戦会議しよう。

 スケッチブックとバッグ、持ってやるよ」


「カ、カフェに行くのはいいけど、これは持たせないから……!」


 警戒したのかギュッとスケッチブックを抱き締めるななみに、『オーケーオーケー』と手を上げて了解のサインを送る。


 これでようやく本当の意味での試験スタートが出来た。


 朱音に従っていた時よりかなり気楽な状況を嬉しく思いながら、ななみの横に付き従う形で、カフェを目指して春輝はゆっくりと歩き始めた。


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