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お嬢様たちの恋のバトルが過熱して、結果として色気が出てしまう  作者: 藤守 友


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四話・13

 耳を疑うようなことを言ってくれた。


 今何だって?


 盗撮犯を?


 捕まえる?


 春輝は目を擦って、それから軽く首周りを解すように頭を回す。


 よし、少し目か覚めた。


 これで聞き間違いは無いはずだ。


「わんもありぴーと、ぷり一ず」


「だから、盗撮犯を捕まえるの。

 わたしと、あなたで」


 やっぱり、聞き間違いじゃないみたいだった。


 いきなりそんなことを言われても、意味が分からない。


 深夜の見張りじゃなくて、こんな朝っぱらに捕まえるという、その発想が。


「説明しろよ。

 何か掴んだのか?」


「基本的には深閑先生と同意見よ。

 犯人は単独犯だろうし、外部の人間が怪しいな。

 でも……なんだかんだで深閑先生も育ちがいいから、発想が庶民的じゃないのよね」


「どういうことだ?」


「もう少しレベルを落として考えれば、簡単に犯人候補は割り出せるのよ。

 密室殺人と一緒ね。

 毒殺とか時限装置とかを除いて密室殺人を行うなら、トリックが必ずあるでしょ?

 それを行える人間は限られているし、案外簡単な方法だったりもするし」


「御託はいいから、もう少し簡潔に頼む。

 眠くて頭が回らないんだよ」


「オッケー。

 つまり、ラベールブロンシュのセキュリティレベルを考えれば、ある種の密室に近いってこと。

 入るのも出るのも難しい。

 なら、それを簡単に行える限られた人間が犯人、って可能性が高いでしょ?」


 朱音の説明に、春輝はフリーズしかけている脳を働かせ、考えを纏める。


 ラベールブロンシュに入り込める人間が、犯人。


 でもそれは、


「けど、あの先生は出入りしている業者関係は無いだろうって……」


「そう、だからそれがお嬢様の発想」


 言って、朱音は意味ありげに口元を綻ばせた。


 ますます意味が分からない。


 というか、深閑がお嬢様って、それさえも初耳だ。


 まあ育ちがいいと言われれは納得するしかない。


 佇まいといいちょっとした動作といい、あれはちょっと訓練を積んだだけじゃ辿り着けない域にあるから。


 けど、突っ込むべきポイントは別にある。


 朱音が何らかの核心を持っている、そこが一番重要なところだ。


「……お前、何を、」


「しっ。

 来たわ」


 声を潜め、モニュメントの陰で縮こまる朱音の様子に、何が何やらと思いながらも春輝は同じように身を潜ませた。


『地を舞う翼』は大きな八枚の翼のモニュメントだから、羽根の隙間から向こうが見える。


 ただし向こうからは暗くて、こんなところから見られているとは思わないはずだ。


 だから春輝は遠慮無く覗き、朱音が言うところの『犯人』を見た。


 山吹色の制服らしいツナギを着たその男は小走りで女子寮の方へ近付いて、周囲を確認。


 誰もいないことを、念入りに確かめているように見えた。


 けどそれは、初めから彼を不審者かもしれないと疑っているからそう分かることで、たぶん何も知らずにいたら珍しげに周囲を見渡しているようにしか見えないはずだ。


「……つまりね。

 会社単位では、絶対にラベールブロンシュを敵に回そうなんて馬鹿な考えはしないの。

 でもね、責任なんて薄紙程度も持ち合わせていないバイトならどうかしら?

 もしくは、初めから盗撮目的で潜り込む人間がいたとしたらどうかしら?」


 そこまで言われれば、眠くてだるだるな頭でも理解出来た。


 既にラベールブロンシュへ入り込める立場にある会社の、バイトや社員が魔が差して犯行に及んだと思う方が、リスクの高い完全外部からの侵入者を犯人とするより、確率は全然高いわけか。


 深閑を含めてラベールブロンシュの大人達は上流階級の大人だからこそ、末端の捨て鉢な思考、或いは計画的に個人の趣味意識を満たす為の行動まで、考えが至らなかった、と。


 そうか、ちょっと犯人像に違和感があったのはそこか。


 そもそも盗撮なんてバレた瞬間に社会的に終わることをしている人間が、会社の利益がどうとかなんて考える訳がないんだ。


 個人の破滅が先にあるのに、そっちまで考えるはずがない。


 そう考えればスッキリする。


 同時に、視界に映るあの男が犯人だという確信も生まれた気がした。


 そうこう考えている内に、男はゆっくりとした足取りで歩いて、歩道の脇にある花壇へと近付いて……


 ポケットに手を突っ込んで、何かを出した。


 その瞬間を、朱音はいつの間にか手にしていたデジカメで撮る。


 連続して聞こえる小さなシャッター音からして、チャンスを逃したということは無さそうだ。


 そして朱音は手の中に収まるサイズのデジカメを、ポケットに仕舞い、にこりと笑った。


「行くわよ」


 短く呟いた言葉と共に、朱音は颯爽とモニュメントの向こうへと躍り出た。


 見とれたくなるような機敏な動きにつられて、春輝も飛び出す。


 ただ、寝不足だからちょっと体が重いけど、それでも朱音に遅れたりはしない。


 足音に気付いたのか、作業服の男は慌てた風に立ち上がる。


 けど、もう遅い。


 小さなレンズの付いた何かをポケットに隠す瞬間は、バッチリこの目で見た。


 デジカメにも納められている。


 陰険大王の朱音から言い逃れることなんて出来やしない。


 被害者代表の保証付きだ。


 それでもって、肉体労働担当の自分は、悲しいことに、体調最悪。


 今すぐにでも倒れて眠りたいくらいだ。


 さて、ここでシンキングタイムです。


 こんなに眠い思いをしなくちゃならなくなった元凶は、一体どこの変態様でしょうか?


 焦燥に駆られる二十歳過ぎらしい男の顔を見ながら、春輝は思う。


 あの顔をボコべチャに潰して這い蹲らせることが出来たら、すっっっごい気持ち良く眠れるんだろうなー、と。


 そして、思った通り。


 その日の午前中は保健室で、とても健やかな眠りにつくことが出来た。


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