四話・9
「それでお前、犯人を捕まえるとか言ってたよな?」
「ええ、勿論ですわ。
誰かさん達があまりに使えないので、この私が直々に、」
「いやそれはいいけど……その格好で?」
ドレスにパンプスと、相変わらず余所行きの服装。
ファッションショーに出向くならいざ知らず、捕り物劇をしようっていう人間がする格好じゃないはずだ。
なのにオレリアは不思議そうに首を傾げ、
「そうですわよ。
何かおかしくて?」
「おかしい。
全てが。
その髪も」
「なっ……レディとして着飾り髪型を整えるのは当然ですわっ!」
「その意見だけなら頷けるんだけどな……あと、どうしてこんな時間にのこのこ出てきたんだ?
やる気あんならもっと早くから見回るなり張り込むなりすりゃーいいのに」
「うっ……」
素朴な疑問を口にすると、オレリアはあからさまに言葉に詰まってそっぽを向いた。
訊かれたくないことを訊かれた、と強張った横顔が言っている。
なんて分かりやすい奴なのか。
何を隠しているか……まあ、突っ込まなくてもいいか。
あと一時間弱、それで今日の仕事は終了なんだから、とりあえずそれをこなせれば。
問題は、この女の扱いだけど……
「なあ、そこのドリル」
「……貴方、盗撮犯の前に処刑されたいんですの?」
「いやいやまさか。
俺は見回りに行くけど、お前はどうする?
ここで見張りやるか?」
従育科じゃないから深閑の指示に従う必要はないけど、下手に動かれると邪魔だ。
出来ればさっさと寮に戻って欲しい。
けども、そんなこと言って聞くタマじゃないのはもう知っている。
なら、行動をこっちでコントロールしつつ、一時間だけ希望に沿ってやればいいか。
そう考えての質問だったんだけど……
珍しく何か迷うように視線を落とすオレリアの様子に、春輝は思わず眉を顰めた。
憂慮するようなことでもあるのかとこっちが心配しそうになるくらい、わがままオーラというか女王様オーラというか、そーいった勢いが消え失せてしまっている。
だからつい、
「それとも、寮に戻るか?
それなら一応送ってやるけど」
「帰りませんわっ。
何の為に私が出て来たと思っていますの?
薄汚い変質者をこの手で、一刻も早く捕まえる為ですのよ!」
余計なことを言っちまったなー、とすぐさま後悔。
オレリアの奴はこっちを睨み上げて、今にも噛みついてきそうな雰囲気だ。
流石に歯をカチガチ鳴らすような真似はしてないけど、やってても全然違和感がないくらいのど迫力。
本当に噛まれたら嫌だなー、と思いながら、春輝はどうどうと暴れ馬を落ち着かせるように手で制してみる。
「それは分かったけどそこまで熱くなることないだろ?
多少は時間が掛かるだろうけど、いずれ犯人は捕まるぞ。
俺らや理事長はともかく、あの深閑先生が本気になって捕まらないとは思えないだろ?」
「それはっ……そう、ですけど」
口惜しそうに歯を噛むその姿は、やっぱりどこかオレリアらしくない。
傲慢な態度で自信過剰で、君臨することが当たり前のように振る舞うのがこいつのはずだ。
だからムカっと来るし、そこまで自分を誇れることがほんの少しだけ羨ましくも感じる。
良くも悪くも普通とは違う、突き抜けた個性だからだ。
なのに、今のオレリアはまるで年頃の、普通の女の子みたいに……
まさか。
「もしかして、お前……」
「な、何ですのっ?」
「怖い、のか?」
「なっ?!
ななな何を根拠にそのような妄言をっ!?」
当てずっぽうで訊いてみたら、どうも見事にビンゴのようだった。
眉と頬を吊り上げて、勢い込んでいるのに目を逸らすオレリアを見れば、否定の言葉なんてまるで意味がないというか、むしろ肯定にしか聞こえない。
……そーかそーか、そういうことか。
納得して、春輝はにやりと笑ってみせた。
「こんな時間まで起きていて、わざわざ下りて来たのはそういうことか」
「どっ……どういうことだといいたいんですのっ?」
「いやー?
犯人を見つけたいっていうのに、早足で明かりの下を歩くなんておかしいなー、とは思ったんだけどな?
それに珍しく素直に俺の言うことを聞くし?
妙にそわそわしていやがるし?」
こっちが言いたいことを察しているのか、オレリアは額に薄らと汗を浮かべて、視線をキョロキョロと彷徨わせる。
動揺しまくっているのが見え見えだ。
楽しすぎる。
まあそれも仕方ないか。
こんな威張りまくりの我が儘娘が、息巻いて出てきた理由が、安心して眠ることが出来なかったから、なんて知られたら恥ずかしいよなぁ。
「しかしあれだな。
どれだけ偉そうでも、お前も年頃の女ってことか」
「……何が言いたいんですの?」
「いや、お前にも随分と可愛らしいところがあるんだなー、と」
「かわりゅっ!?」
春輝としてはそこそこ素直に感想を述べたつもりだが、オレリアの反応は酷かった。
がつんと殴られたように身を引いて、自らの肩を抱いて薄暗くても分かるくらい見る見るうちに顔を赤く染めて……おお。
面白い反応だ。
滅多に見られないだろうオレリアの様子に、春輝はつい笑みを深めて、
「あれか、鬼の霍乱ってヤツか。
それとも強がっているけど、実はお前、怪談や肝試しも駄目なクチか?」
「……」
からかうように軽口を叩いて、春輝は、『あれ?』と首を傾げた。
ピクッ、と肩を震わせたと思ったオレリアの体が、強張ったように見えた。
それだけでなく、気のせいか辺りの空気が重くなったようにも感じられる。
そして何でだろう、首の後ろが疼いて背筋に冷たいものが走っている。
自分の体に起こっている異常に春輝が笑みを引きつらせていると、オレリアは俯き加減だった顔を上げ……
もう殺意が籠もっているとしか思えない双眸が露わになった。
「……フ、フフ……そう、そういうことですのね。
褒めちぎるなんて珍しい真似をしてくると思ったら嬲るつもりでしたのね?」
ぞっとするような低い声に、春輝は無意識に首を横に振っていた。
そんな、嬲るって。
ちょっと出来心はあったかもしれないというか確実にあったけど、ほんの少しからかおうと思っただけで……しかも褒めちぎるって全然褒めちぎって無いし……
褒めちぎって機嫌が直るなら今すぐにでも言うべきか?




