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お嬢様たちの恋のバトルが過熱して、結果として色気が出てしまう  作者: 藤守 友


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四話・3

「貴方はラベールブロンシュを脅かす不逞の輩について、何か情報を持っていますか?」


「……はぁ?」


 理事長室で待ち受けていた深閑の言葉に、春輝は思わず眉を顰めた。


 メイド服を着た知的で冷たい印象バリバリの従育科専任教師は細いフレームの眼鏡越しにこっちを見ているけど、その目を見るに冗談の類ではなさそうだ。


 しかし、唐突に質間がきたってだけで意表を突かれたっていうのに……何だ、不逞の輩の情報って。


 あやふやだし、それは折角の初ウエイター業務の最中に呼び出すような内容なのか?


 失敗気味だったとはいえちょっと不愉快なので、その分ややキツめの声で、


「良く分からないんで、もっと分かりやすく言ってくれ」


 でかいマホガニーっぽい机の前に立っている深閑にそう要求し、春輝は腕を組んで体重をやや後ろに傾けた。


 ちょっと偉そうな態度に見えるかもしれないけど、気にしたことか。


 ちなみにこの場で一番偉い理事長の真宮院は、座っている椅子にしがみつくようなマンガちっくなビビリ様を見せていた。


 そりゃあちょっと不機嫌さを表に出してはいたけど……どういうことだ。


 そのDVに怯える幼気な子供みたいな目は。


 そこまで怖いか、怖く見えるかこの顔は。


 ショック混じりに都から視線を外して横を見れば、三メートル近く離れて立っているオレリアは、腕を組み誰よりも遥かに偉そうに佇んでいた。


 部屋にいる四人の中で、一番肩身が狭そうなのが理事長っていうのは……どうなんだ。


 これでいいのか、ラベールブロンシュ。


 春輝がそんなことを思っている内に、どうやら思考を纏めていたらしい深閑は小さく頷いて眼鏡のレンズを鈍く光らせ、


「そうですね、いずれ説明をする事です。

 隠していても意味はありません。

 いいでしょう、初めから説明します」


「そうしてくれると助かるな」


「事の発端は一ヶ月程前から報告されるようになった、不審な人物の目撃や盗撮疑惑です」


「ほ、ほら、春輝さんも見たっていうテレビ番組ですよ。

 あれ以来、ちょっとガード緩いと思われちゃったらしくってですね、物好きさん達が、こう、わらわらと……あの、そんなに睨まないで……」


 睨んでねえよ。


 全力でそう突っ込みたいのを春輝はぐっと堪え、再びオレリアを見る。


 そういえばここに来た初日、あの金髪ドリルに不審者と間違えられた。


 あれは実際にその手の人間がいると噂でもされていたからピリピリしていてあーなったのか。


 尤も、思い込みの激しい暴走掘削機のオレリア以外ならすぐに誤解も解けたんだろうけど。


 そんな風に考えているのを電波受信でもしたかのように、オレリアはジロリと春輝へと睨みを効かせてきた。


「……何ですの?」


「いや、何でも。

 それで、その変態共がどうしたって?」


 ここで揉めるのも馬鹿馬鹿しいので受け流して深閑へ話を振ると、彼女はデスクの上に載っていた一冊の本を手に取り、春輝の方へと近付いて来た。


「これは一咋日に発売された雑誌です。

 由々しきことに、これに我が校の内部を映した写真が載っていました」


「へえ?」


 興味があったので差し出された雑誌を受け取った春輝は、それを捲ろうとして……しかし表紙を捲ろうとした指は、誌面に触れたところでピタリと止まった。


「……なあ、これ」


「察しの通り、編集部と読者の手によって淫猥な類の写真を掲載している本です。

 俗に言うエロ本です」


 知的美人なメイドさんの口から出たまさかの『エロ本』発言に軽くどぎまぎしつつ、春輝は覚悟を決めて雑誌を捲る。


 幸か不幸か付箋があったのて、注目すべきページはすぐに開いた。


「『ついに激写成功! 今話題の名門お嬢様学院にて、可慌な蕾が花開く瞬間をとくと見よ!』

 ……って、なんだこれ?」


 なんだか物凄いキャッチコピーが踊る誌面は、何枚かの写真と短い文章が見開きで載っていた。


 顔が映っている写真は無いが、制服は確かにラベールブロンシュのそれだとすぐに分かる。


 こうして改めて見てみると、外国か映画のスクリーンの中を思わせる背景で特徴に溢れていた。


 写真はどれもローアングルで撮られていて、スカートの中で下着がちらりと覗いているのが精一杯で、激写というにはちょっと遠い画だ。


 本当に、幸運なんだか不幸なんだか。


 とりあえず……素晴らしい。


 この場で口に出せば殺されそうだけど。


 しかし、凄いなこれは……下からの角度で同年代の異性の足を、それも内腿とかを見る機会なんて全然無かったけど……こうして写真で見ると……白さが目立つというか……足に注目することって無かったような気がするけど、これは意外に、


「すっかり魅入って。

 これだから粗野な男は好きませんわ」


 横から突き刺さった声に、春輝は我に返って顔を跳ね上げる。


 オレリアの目が、毎度のようにこっちを見下している目が、いつもと若干違う色でもって見下していた。


「全く嫌らしいですわね」


「いやっ、これは違うぞ?!

 これが本当にラベールブロンシュで、そうだとしたらどのポイントで撮られたものなのかを分析しようとして、だなっ」


「フン、どうでしょうね」


 まるで信じていやしない口振りだ。


 なんて酷いドリルだろう、人をそんな、えろえろしい男みたいに。


 そんな濡れ衣……濡れ衣だよな、うん。


 濡れ衣じゃなかったらあれだ、神秘の力だ。


 男をその気にさせる魔力があるんだからこれはもう仕方ないな……って、そもそもどうしてこんなに自己弁護しているんだ?


 見ろと言われたものを見ただけなんだから、別に悪くは無いはず。


 何だか居たたまれないけど。


 気を紛らわそうと春輝はややわざとらしく咳払いして、深閑へと向き直った。


「構内が構内が盗撮されたのは分かったけど、どうして俺を呼んだんだ?」


「生徒、教師を含めラベールブロンシュ内にいる人間で、一番世俗に近い存在がつい先日まで外の世界で暮らしていた貴方です。

 ここに来る前、何かそれらしい情報を耳にしていませんか?」


 なるほど、それで最初の質問と繋がるわけか。


 納得した。


「……あの、春輝さん。

 私、もう大人ですから殿方の気持ちや衝動についても理解しているんで、起こってしまったことは仕方ないと済ませる心の準備は出来てますからね?

 生徒さんから犯罪者が出てしまうのは悲しいことですが、自首をしてくれるなら情状酌量ということで、胸の内に秘めようかとも……」


「とりあえずそこのボンクラ理事長は黙れ」


 勝手に人を犯人と決めつけやがった理事長は、「ひぃっ!?」と小さな悲鳴をあげてまだ縮こまった。


 うっわ、好き放題言った挙げ句にそれか。


 本気で生徒を泣かせたいのかこの理事長様は。


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