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お嬢様たちの恋のバトルが過熱して、結果として色気が出てしまう  作者: 藤守 友


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一話・5

 超能力なんか無くてもコントローラー云々って言えば大抵の奴はゲームしてたって勘付くだろうに、どこまでボケてるんだ、この事務員。


 わざわざ種明かしをするような内容でもないので呆れた視線を注いでやると、都はさらに落ち着きを無くして、


「あわわわ、まさかまさか、やっていたゲームが『どきドキ・はいすくーる!』だってことまでバレてますかっ?!

 せ、先生が片桐クンを落とそうとしている最中に新城クンもいいかなあとか思い始めたことまでっ!?」


「……いやんなこと知るか」


「そ、そうですかー……良かったぁ」


 胸に手を当てて「はあー」と息を吐く事務員に、春輝はもうなんというか、かけるべき言葉が見つからない。


 少し遅れたくらいで文句を言う気は更々無いけど、せめて嘘でもいいからそれらしい言い訳を考えないのだろーか。


 しかもプレイしていたゲームってのが、地味に噂になっている男子校恋愛シミュレーションだし。


 男装した主人公が女だとバレないように気を張りながら友人達とただならない関係になっていくという内容だったはずだ。


 んなもんやってていいのか、仮にも教育者だろうに。


 まあ、小学生レベルの遅刻理由に怒る気も無くす、という意味ならば確かに作戦成功なのだろうけども。


 でも絶対、そんな作戦とかじゃないよな、この場合。


「……あのー、やっぱり怒ってたりします?」


「……いや、別に」


 単に呆れているだけなのでそう返すと、都はホッとしたのかあからさまに頬を緩めた。


 ただでさえ頼りないイメージがさらに強化されて、最早スーツの効力も及ばずどこからどう見ても社会人には見えない。


 背伸びして失敗した高校生、くらいがいいところだ。


 まあ、ただの事務員というのが唯一の救いだな。


 これで真っ当な教員職だとしたら、誰も授業を聞かない学級崩壊が起こっても何ら不思議じゃない。


「えーと、それでですね、今日は入寮と学院内の見学ということなんですけど。

 電話でお伝えした通り、上育科の生徒である彼女に案内を頼むことになりました」


 都の言葉に、やや後ろに控えていた女生徒がおずおずと一歩、前に出た。


 その仕草にさっきまでの美しさは感じられず、むしろ少しぎこちない。


 顔色もやや青ざめているし、どういう訳かちょっと突いたら倒れそうなくらい『人生終わった』という表情をしているような気がする。


 やっぱり何かおかしいと、春輝は警戒度を上げる


 なのに都はそれに気付いていないらしく、吞気な笑顔で女生徒を手で示して、


「この子が上育科一年生の藤條朱音さんです。

 中等部を首席で卒業した優秀な生徒さんで、しかも見ての通りの美人さんなので、春輝さんもドキドキですよ?」


「いやドキドキとか、んなことはどうでもいいんだが……」


 そう、そんなことは本当にどうでもいい。


 問題は紹介された彼女……藤條、朱音。


 春輝には藤條という名字に覚えは無いが朱音という名前は知っているような気がする。


 ありふれた音の名前、といえばそうなんだけども。


 それに、何かに怯えているような目をしつつ、隙あらば食い殺そうという圧力は確実にどこかで経験している。


 間違いない。


 檻の中で可将らしいパンダと向かい合つているようなジリジリとした恐怖は、初めてじゃない。


 ああ見えてパンダは食肉目だから興奮している繁殖期はかなり危険らしい。


 今の危険度は、それに匹敵するような気がする。


 いっそのこと、このまま回れ右をして帰ってしまいたい。


『上は銃弾、下は地雷原』みたいな死地に足を踏み入れるのとそう変わらない、誰もいない静かな深夜に墓場の前に立っているような悪寒が、全身を包み込んでいるし。


 ヤバイ。


 よく分からないが、彼女はヤバイ。


 本能か理性かは知らないが、とにかく体が逃げたがっている。


 ああもうさっさとこの場から消えてしまいたいと全身で思っている。


 けど、そうもいかないよなぁ。


 このまま何もかもを謎にしたまま逃げるのは気持ち悪いし、何より意味不明な理由を挙げて案内を中止に持って行くことなど出来るわけがないし。


 正直、仮病を使ってでもおさらばしたいけどもままならない。


 一呼吸置いて、春輝は決意を固めた。


 逃げ回っても仕方ないし蟠り解消しようと、『藤條朱音』を真っ直ぐに見る。


 彼女の頬がピクンと引き吊ったような気がしたが、とりあえずそこは無視して、


「……あんた、もしかして、」


 俺とどこかで会ったことないか?


 そう、訊こうとした瞬間、


「ちょ、ちょっと失礼します!」


 叫ぶように言うと同時に藤條朱音が素早く近寄って来て、そのまま春輝は手首を掴まれた。


 なんだ、と驚く暇もない。


 意外なくらい強い力で引っ張られ、正門の方へと強引に連れて行かれそうになる。


「っおい!?」


「あの、藤條さんー?」


 慌てての抗議の声にも都の間の延びた声にも無反応。


 この急展開に、春輝は思考がまとまらない。


 手を振り払うことも足を踏ん張って止まることも出来るだろうけど、そうしてしまっていいんだろうか?


 握られた手の強さからは必死の雰囲気が伝わってくるし、肩の辺りで揺れる黒髪と背中は有無を言わさぬ迫力があるし、どうにもやりずらい。


 結局、どうすりゃいいんだと躊躇っている内に、春輝はどでかい正門と一体になっている灰白色の塀のすぐ傍まで引っ張られてしまった。


 まるで状況に付いていけない。


 どうなってるんだ、これは。


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