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お嬢様たちの恋のバトルが過熱して、結果として色気が出てしまう  作者: 藤守 友


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一話・4

 手をぶんぶん振っている都が、現実の虚しさを教えてくれて、一気に醒める。


 しかしアレ、ちっとも速くない早歩きをしながらそんなことをしたらこけるんじゃないだろうか、と思わず心配になる。


 というか、大人っぽいキチッとしたスーツを着ているのに、遅刻はするわ行動は子供っぽいわで、少しも年上の気がしない。


 やや垂れ目ではあるもののそれほど童顔でもないのに、下手をすると年下なんじゃないかと勘繰ってしまうくらいだ。


 それに比べると、後ろを歩く女生徒は自分の目の前で教員が手を振って、しかも春輝の危惧通りにバランスを崩して転びかけたのを見ても、慌てず騒がず。


 子供か小動物を見るかのように微笑み、バランスを崩して両手をばたつかせる都の右腕をそっと胸に抱くようにして支えて助けるという落ち着きっぷりだ。


 素晴らしい。


 なんというか、同じ一年生とは思えない風格があった。


 彼女にぺこぺこと頭を下げているあの都がとっくに成人しているという事実もなかなかに埒外だけども。


「さて、と」


 呟いて、春輝はデイバッグを担ぎ直す。


 いい加減、ぼんやりしているのにも飽きた。


 すぐ近くにまで来ているんだから、もうこっちだって動いても大丈夫だろ。


 さてと、なんて挨拶をすればいいだろう?


 とりあえず自己紹介するとして、その後に案内をして貰うんだから『宜しく頼む』とか言っておくべきか?


 あー、でもそれだとちょっと上から物を言っているような感じがしなくもないから、もうちょい下手に出て、『今日はよろしくお願いするね』とか?


 それはなんかキャラが違うか。


 挨拶一つでも今後のことを考えると意外に難しく、どうしたもんかと悩みながら春輝は歩を進め、二人との距離を詰める。


 と、そそっかしい都を励ますように笑いかけていた女生徒が、足音に反応したのか、微笑みのままこっちへと視線を向けて、


 ……目が、合った。


 そして、微笑は見事に凍り付いた。


 アーモンド型の大きな瞳がくわっと見開かれ、自分を凝視している。


 その異様な迫力に思わずびびり、春輝は足を止めてしまった。


 思いきり強張った顔は、それでもかなり美人に見えた。


 綺麗に鼻筋が通っているし、小さな顎と小さな唇も震えていなければ可憐に見えたはずだ。


 肩まで伸びた薄墨色の髪は艶やかで癖もないし、中背のスレンダー体型に清楚なラベールブロンシュの制服はよく似合っている。


 男が十人いれば一目惚れする奴が数人は出てもおかしくない容姿で、春輝の体温もそれなりに上がったような気が、する、のだが……


 何故か、違和感がある。


 春輝は胸にもやっとした蟠りを感じ、眉を顰めた。


 違和感の原因がさっぱり分からない。


 テレビや雑誌で見かける綺麗なタレントと比べても遜色無いハイレベルな外見で、むしろこうして実際に目の前にしているのだから画面や紙面で見る芸能人よりも、こう、くるものがある。


 その上学院の案内をしてくれるというんだから、それなりにドキドキしてもいいはずだし、これからの学院生活に淡い希望を抱くくらいしてもいいはずだ。


 それが普通の青少年だろうし、普段ならそうなっていると思う。


 だというのに、今感じているのは、吞み込めない、消化出来ない不純物が胸の中に残っているような、イヤな予感。


 ただ漠然と背筋がざわつくような感覚があって、それが無性に気になる。


 絶対に忘れてはいけないものを忘れてしまっているような、それとも逆に忘れていなければならないことを思い出してしまいそうな、妙な疼きが皮膚の下で走り回っている気がする。


 ……まあ、ただの気のせいなのかもしれない。


 その可能性が強いと思う。


 虫の知らせなんて今まであったことがないし。


 ……だけど。


 ならどうしてあの女生徒は、自分を見て驚いているんだ?


 それが分からなくて、とんでもなく居心地の悪い、落ち着かない気分になる。


 とはいえ精神感応能力も驚異的な洞察力も持ち合わせていない身なので、答えが出るわけがない。


 驚いている理由って、んなもん分かるか。


 まだ挨拶すらしてないってのに。


 考えても分からないがしかし、どーにも気に掛かる。


 ジレンマに近い苛立ちに春輝が唸りたくなって眉間に皺を寄せていると、呑気な事務員の都が小首を傾げるのが目に映った。


「……藤條さん?

 あの、どうかしました?」


「えっ!?

 ……いえ、何でもないです」


 不思議そうに尋ねられ、女生徒は少し慌てた様子でそう応じた。


 その返答に都はお気楽な感じで「それならいっかぁ」と呟いたので、便乗して質問する雰囲気ではなくなってしまった。


 ちっとも何でもないようには見えないというのに。


 あの事務員、どこまで使えない大人なのか、計り知れない。


 けど『本当はなんかあるんだろ?』と訊くのも、なあ。


 失礼な上に、ちょっとした度胸がいるし。


 いや髪を染めて耳に安ピン刺して目の上に傷跡まである癖に何をぬかす、と言われそうだが、初対面の女の子相手に難癖つけるのは無理だって。


 優柔不断でも気弱でも無いつもりだけど、基本的には受け身の性格だし。


 まあでも、どうせすぐに学内を案内して貰うために二人きりになるから、その時に訊けばいいか。


 もし訊けなくてもこれから三年弱同じ敷地内で過ごすんだから機会はいくらでもあるだろうし。


 気持ちの切り替えに成功したところで、タイミング良く都が目の前まで来て、見るからに慌てて頭を下げた。


「春輝さん、遅れてしまってごめんなさいっ。

 ちょっとその、一昨日買ったあれが、ね?

 なんだかとっても心を揺さぶる展開になってしまってですね?

 コントローラーを握る手にも力が入って、ついつい時間がー……」


「まさか、ゲームでもしてたのか?」


「ふあっ……い、一発で的中された!?

 まさかっ、春輝さんは超能力者で先生の頭の中が丸見えですか!?」


 驚愕してあわあわと口を開閉させる都に対し、春輝はどう反応していいのか迷ってしまう。


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