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お嬢様たちの恋のバトルが過熱して、結果として色気が出てしまう  作者: 藤守 友


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一話・3

「せっかく編入出来たんだし、これ以上を望むのは贅沢だしな」


 自分の中で折り合いがついたところで、春輝は右肩に背負っていたデイバッグを下ろし、再度周囲を見渡した。


 これから適当に学内の見学をしてから職員室に向かい、その後寮へ行って荷物の整理。


 ただ、その前に待ち合わせている人物と合流する予定だった。


 昨日の夕方に事務員から電話連絡で伝えられた内容は、


『同じ一年の女生徒に案内を頼んだので、その子と一緒に学院探索をしちゃってください!』


 という、お気楽すぎてむしろ不安になるものだった。


 待ち合わせは午後の二時に、正門前。


『門を抜けてすぐの所で待っているように』


 と言われていた通り忠実に待機しているものの……なんかファンタジーどっぷりなこの雰囲気に、どんどん体力が削られていくような感じがする。


 毒の沼地を歩いてしHPが減っていくゲ-ムキャラってこんな風かもしれない。


 徐々に頭がふらついてきたような気がして、さっさと解放されたいと思い腕時計を見れば、もうそろそろ二時になるところだった。


 まだ到着してから数分と経っていないけども、見通しがいいにも関わらずこちらに向かっている女生徒の姿は見えない。


 一応ベンチや木陰も確認するが、やっぱり人影は無い。


 ……ま、しばらく待てば来るだろうけど。


 編入試験の時に案内をしてくれた事務員は……何というか、パジャマのまま外出したり財布を忘れたことにレジで気付いたりするような行動を絶対したことがあると思ってしまうくらいとぼけた上にそそっかしい人だったので、平気で遅刻くらいしそうな気がする。


 でもまあ、流石にすっぽかしたりはしないだろ。


 あんな、満腹状態のペンギンより平和そうな雰囲気をしていても、一応は大人だし。


 そう思って、春輝は体をここに馴染ませるように深呼吸をした。


 肺の空気を入れ換えると、少しだけ頭がさっぱりする。


 視界に広がる光景はともかく、都内にも関わらず山間にあるラベールブロンシュの空気は澄んでいて、甘酸っぱい匂いもない。


 まあそんなの当たり前だろうけど、つい数ヶ月前まで女子校だったことを考えると、思春期の男子としてはそんな空気なんじゃないかと思ってしまったりもするのだ。


 たぶん、きっと、仕方がないことなんだろう。


 と、そんな益体もない考えをして自嘲していると、


「ん……来た、か?」


 校舎側から誰かが歩いて来る影がぼんやりと見えた。


 まだ距離は大分あるが、こちらへ向かって来る影が一つではなく二つなのは見て取ることが出来た。


 どうやらあれが待ち人らしい。


 遠目とはいえ姿が見えて、正直ホッとする。


「……しかし……やっぱ遠いな」


 目視出来る距離に人影が現れたとはいえ、その輪郭はなかなか大きくならない。


 ここに辿り着くまではまだ数分かかりそうだった。


 小学校以来裸眼で2・0以下に落ちたことがないという視力は春輝の数少ない自慢なので、接近する二人の服装や顔も徐々に明確になってくる。


 前を歩いているのは思った通り、編入試験の際に案内してくれた事務員だ。


 確か真宮院都という名前の彼女は白っぽい水色のスーツを着てタイトスカートを穿いているらしく、せかせかと足を動かしているように見えるのに全然速くない。


 むしろ遅い。


 ちっとも距離が縮まらない気がするのはあの事務員が原因なんじゃないのだろうか。


 それでも少しずつ近付いて来ると、以前同様に授業参観か何かと勘違いしているような服装のキメ具合で、学生かと思ってしまう幼い……というか、むしろ頼りない顔まで見えた。


 やっぱりあれは、例の駄目な感じの事務員だ。


 あれでも初対面の印象は、割と美人で親しみやすそうな人だと思いはした。


 ついうっかり思っちゃったりはした。


 けど、自分を見た瞬間に『ふひゃぅっ!?』と変な悲鳴をあげて飛び跳ねるという奇行に及んで、それでも第一印象を引きずるのは、流石に無理だ。


 何もかもぶち壊しだっての。


 ほんの一秒程度だろうが、その僅かすぎる間にときめいてしまったことが恥ずかしい。


 可愛さ余って憎さ百倍というが、今はもうかなりどうでもよくなった。


 大体にして奇声の理由が、


『えぇと、その……お顔が、写真で見たより怖かったので……』


 って何だ。


 そりゃあ緊張してやや表情が強張っていたかもしれないけど。


 そうだとしても、あんまりだ。


 というわけで、ドジで無礼な大人と認定した事務員がいて、その少し後ろをラベールブロンシュの制服を着た少女が速度を合わせて歩いていた。


 胸元にリボンを添えた、シンプルながら流石は名門という感じで上品な趣のある高等部の制服を着ているから、あれが例の『案内をしてくれる一年生』で間違いないはずだ。


 まだ顔はよく見えないが何というか、ハッとするくらい綺麗な歩き方をしている。


 背筋が真っ直ぐだからか、手足の動かし方に秘密があるのか、そこら辺は門外漢なので分からない。


 ただ、やたらと存在感を出そうとしているデモ行進やモデルのやるキャットウォークとは違いアピールは控えめの自然な感じの歩き方なのにやたらと目を惹く。


 前に来た時は編入試験ということもあって学院の生徒に会うことも無かったけど……こうして目の前に現れると、流石は元お嬢様学校だなー、と感心してしまう。


 佇まいや歩き方一つに雰囲気を感じるなんて、今までになかったことだ。


 新発見という程でもないけど、ちょっと面白い。


 前を歩く都が焦り気味だから、余計に。


「そういや、ここって女子校だったんだよな」


 編入しようと決めてから今日に至るまでが急展開のダイジェスト版みたいな勢いだったので、そんな肝心なことを今まであまり意識していなかったけどそうだ、女子校だったんだよ。


 今は共学だけど、高二以上は女生徒オンリーなわけだ。


 そう思うと、なんだか自然と頬が緩む。


 これからの学院生活、ちょっとは期待してもいいのかもしれない。


 やいや、勿論桃色ムード漂うような過度な期待はしていないけど。


 でもまあ、もしかして、こう、勢いも手伝って、間違ってしまうこともあるかもしれないし。


 けどそれはあくまで間違いだから、期待はしない、していない。


 だってそんな、ラブコメ漫画じゃあるまいし。


 ありえない、ありえない。


「っと、アホなこと考えてる場合じゃないか」


 理想化しまくりで妄想の域に達しかねない未来予想から我に返れば、事務員と生徒の二人組はもう大分近付いていた。


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