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お嬢様たちの恋のバトルが過熱して、結果として色気が出てしまう  作者: 藤守 友


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三話・14

 あっさりと突き放すような言葉だったが、朱音の言うことは正しい。


 ある程度はこっちの、心配をしての忠告だと思うから、腹も立たないし。


 けど、こっちにはこっちで、退けない理由もある。


「無理だな。

 そんな金、どこにもねえし」


「……え?

 お金って、そんな……」


「けちの親、とっくに死んじまったから。

 まあ、今年で十六なんだからバイトで学費と生活費を稼ぐって手もあるが……現実的とは言い難いな」


 公立の高校に行くとして、それでも家賃を含む生活費を考えれば、最低でも月に十万以上稼がないといけない。


 毎日のように働いて、それで学校で勉強して……


 ラベールブロンシュで三年過ごすより、ずっとハードな生活になるのは間違いない。


 どうしても全てを自分でやらなきゃいけないって訳じゃない。


 けど、一人でどうにかすると覚悟をして決めたことだ。


 事情を知っている人間には、特に大人連中には笑われそうだけど、意地の問題だし。


「……えっと、それじゃ……ここに来る前は、どうしてたの?」


「一応、親戚に養って貰っていたことになる。

 けど、あんまり世話になりたく無い」


「驚いた。

 随分と大変な状況なのね……」


 どこかしみじみとしたその口調に、同情は感じられない。


 ただし、それはあくまでも驚きすぎて上手く感情が動かないからだろう。


 朱音はこれでも弁えている奴だから。


 だから、目を見れば好奇心が蠢きだしているのは明確なのに、それ以上突っ込んだ質問はしてこなかった。


 その距離感が少しだけありがたくて、つい笑みが溢れた。


「まあ、そんなわけで俺はここを辞める気はねえよ。

 執事っつーか、そういう仕事も悪くないと思ってるし」


「うーん……それなら、いっか」


 朱音の視線は、膝の上で組んでいる手の辺りに落とされていた。


 何故だか知らないが、口元は少し笑っているっぽい。


 そのまま沈黙。


 なんか妙な空気になってしまい、春輝は眉間に皺を寄せてそわそわとベッドの回りを見渡す。


 この居心地の悪さはなんだ。


 シリアスな話に持って行ったのが良くなかったのか?


 挽回するために、ここは無理にでもボケた方がいいのか?


 いやでも嫌な滑り方したらもう救いようのないことになるし、というかただでさえ半裸で気まずいってのに。


 しかも同級生の女の前で……って、ああ、そうか、さっきから妙に心拍数が上がって体が熱く感じていたのは、自覚無かったけど恥ずかしかったからか。


 別に、決して、この性悪女が珍しく優しい笑みを浮かべているのを見たせいとか、そんなんじゃなくて


「ん、よし。

 おっけー、もうこうなったら仕方ないよね、うん」


「は?」


 突然何やら言い出した朱音に、脳内で様々な弁解を述べていた春輝は思考を中断する羽目になった。


 一人で勝手に納得したように頷いて、楽しそうに目元を緩めている幼馴染みの行動が、これっぽっちも理解出来ない。


 ついでにいうと、朱音が楽しげにしているのを見るとなんだか胸の辺りがざわつく。


 何か妙なことに巻き込まれるんじゃないかと心配になって、さっきまでのあやふやな感情はどこかへ吹っ飛んでいた。


 せめて被害は最小で済みますようにと、負け犬確定の祈りを捧げてから。


 春輝は、朱音の意図を訊ねようと息を吞んで……




「特別に、色々と協力してあげるわ。

 勿論、 わたしに出来る範囲だけどね」



 なんだか物凄く予想外の言葉を聞いてしまった。


 今のは、えーと?


 どういう意味だ?


 協力?


 何を?


 春輝は混乱する頭を軽く手で押さえ、一度頭を振る。


 それから再度朱音の顔を見た。


 いつもの、純粋そうに見えながらも何か企んでいそうな笑顔じゃなかった。


 ややはにかんで、まるで照れ隠しにそうしているような笑顔だった。


「……もしもし、朱音さん?

 どういうことでしょう?」


 思わず下手に出て訊ねるとこれまた意外なことに、ふて腐れるように頬を膨らませ、


「だから、春輝がちゃんとここに馴染めるように、卒業出来るように協力してあげるって言ってるの。

 あっ、当然だけどこっちも色々と手伝って貰うよ?

 でも、メリットはそっちの方が大きいと思うから。

 もう、わたしってば気前いいんだからー」


「どう、して?」


 荒んだ都会の生活に汚染されて善意を信じられなくなった悪徳ブローカーのように、疑いまくりの目で問い質す。


 それに対し、朱音はあっさりと言い切った。


「だって、放って置けそうにないから」


「……それは、あー……えっと……」


「ん?

 あれ?

 もしかして春輝、照れてる?」


「だっ……照れてなんかねぇっ!」


 春輝はキレ気味に言い返し、小さく舌打ちする。


 自分のことだ、よく分かっている。


 きっと顔は赤くなりつつあるし、今の発言はちっとも信じられないだろうってことも。


 実際、照れてしまっているんだから、その上図星を指されてしまったんだから、上手く誤魔化せるはずがないっての。


 大体にして、反則だろ。


 どうして腹芸が得意な癖に、ストレートなこと言ってくるんだよ。


 それで意表を突かれなければ、もう少しマシな反応が出来ただろうに。


 いや嬉しいけど!


 嬉しいけど、でも、こう、下手に弱み握られるよりも、なんか精神的に来る。


 さっき以上に落ち着かなくなって、春輝はそわそわと視線を彷徨わせ……


「……ぁ?」


 保健室のドア。


 その磨りガラスに、人影のようなものが映っているのに気がついた。


「誰か、 そこにいんのか?」


『っ……!』


 ドアの向こうで、確かに誰かが動く気配がした。


 よく見ればドアが少し開いているし、そこからスカートの裾らしきものも覗いている。


 明らかに不審者だけど、正直助かった。


 このもやっとした空気を散らせるならそれに越したことはない。


 春輝は胸を撫で下ろし、不審者の存在に感謝する。


 不意打ち気味に勢いよくドアがスライドし、人影の正体が露わになった。


 そこにいた意外な人物に、春輝は目を瞬かせ惚けたように呟く。


「……オレリア?

 なんで、お前……?」


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