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お嬢様たちの恋のバトルが過熱して、結果として色気が出てしまう  作者: 藤守 友


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三話・13

 目を覚ました春輝は、一瞬、自分がどこにいるのか分からなかった。


 だから当然のように椅子に腰掛け、文庫本を捲っている幼馴染みの姿を見て、素朴な疑問を口にした。


「ここ、は……?」


「あ、目が覚めたの?

 どこか痛むところは?」


「無い、けど……」


「なら良かった。

 ちなみにここは保健室ね」


 そう言われ、ようやく自分の身に何が起きたのかを思い出す。


 つまりあの後、溺れたところを救出されて、ここに運び込まれたというわけか。


 すぐに理解出来なかったのは、寝惚けていたせいだけじゃないはずだ。


 だって、ふかふかで寝心地がいいベッドと天井に吊るされているシャンデリアを見て一発で保健室を連想出来たら、それはむしろどうかしている。


 しかもベッドはアラビア風の天蓋付きだし。


 本当に金が余っている学校だなと呆れつつ、春輝は上半身を起こして腕を上にやって背筋を伸ばす。


「くっ……あー、くそ、怠い……」


「よっぽど疲れていたのね。

 気絶は切っ掛けで、今まで寝ていたのは疲労が原因らしいわよ」


 朱音の言う通り、体の節々、特に足がかなり怠い。


 昨日今日で心身共にボロボロになったせいだろう。


 ぼんやりする頭を振り、それから隣のベッドを確認。


 誰もいないのを見て、


「鳳凰寺は?

 あいつは無事がだったのか?」


「うん、無事よ。

 心配して泣きじゃくる彼女を落ち着かせるの、ちょっと大変だったんだから。

 後で顔を見せておきなさいね?」


「……ああ、そうする。

 それと、あー……なんっつーか」


 春輝は言葉を選ぼうとして、しかしなかなか思いつかない。


 自分が今服を着ていないというアクロバティックな件に関して、どう訊けばいいんだ。


 直球で『なんで俺、服着てないの?』と言えばいいのかもしれないが、とんでもなく抵抗がある。


 もし聞きたくない事実を教えられたらどうすればいいのか。


 知らない方が幸せということもあるし、でも知らないと気になるし……


 そんな葛藤で悶々としていると、不意にクスクスと朱音が笑い出した。


 何がおかしいのだろうと思い春輝が視線をやると、


「安心なさいな。

 あなたの服を脱がせたのは、従育科の男子達だから。

 それに、素っ裸じゃないはずよ。

 誰のかは知らないけど、トランクス穿いているから」


「……それは何より……って、何でお前が知ってる!?」


「ふふー、何でしょう?」


 悪戯っぽく笑う朱音に対し、今すぐ掴みかかりたい衝動に駆られ何とか、制する。


 落ち着け。


 ここで何かしたら、それこそ『襲われた』とか言われかねない。


 思わせぶりなことを言うのはこいつの特技というか、性分だ。


 わざわざ乗って、さらなるピンチに自分を叩き落とすようなことをしてどうする。


 体力的にも精神的にもごっそりと削り取られた後だっていうのに、これ以上の消耗はごめんだ。


 玩具にされるのはせめて元気な時にしたい。


 どうにしろ嫌なのは変わりないけど。


 はぁ……、と春輝は大きくため息をついて、それからがしがしと頭を掻く。


 まだ湿っているのを指の腹で感じながら、まだにまにましている朱音を見やった。


「……で、何か用かよ?

 わざわざ起きるまで待ってたんだ、何かあるんだろ?」


「うん、ちょっとね。

 昔のよしみで朱音さんからありがたーい忠告と、聞きそびれていたことを訊こうと思って」


 それだけだと要領が掴めず、春輝は眉間に皺を寄せる。


 朱音はそんな反応すらも楽しむように目元を緩め、


「春輝さ、ちょっと目立ち過ぎ。

 まあ、わたしと一緒にいるから、っていうのも少なからず影響しているんだろうけど、それにしても、よ。

 編入したばかりなのに、上育科一年で一、二を争う有名人に目を付けられてどうするのよ?」


「誰だその奇人は。

 ……ああいや、何となく見当はつくけどよ」


 脳裏に浮かぶのは金色のドリルと、紅薔薇勘違いダンサー。


 それを肯定するように朱音は頷いた。


「オレリア・紫苑・グランヴィル。

 本籍はイギリスのクォーターで、大した血筋のお嬢様よ。

 わたしやあなたとは生まれも育ちも違うわ。

 資産規模はかなりのものだし、寄付金も相当の額だったらしいわよ。

 成績もトップクラスだし、文句の付け所はあの髪型くらい?

 ま、似合っているけどね」


「ふぅん……で、あのナルシスト野郎は?」


「羽柴大吉。

 自称・羽柴清司郎。

 ただの頭がハイビスカスなナルシストってだけならいいんだけどねー……実家は医療業界でワールドクラスの知名度を誇るし、親戚には衆議院議員もいるし、おまけにあんな風なのに頭もいいのよ。

 色々と過剰な男だけど、美形だし、才能豊かだし、かなりの人気者よ」


「世も末だ」


 確かに目立つ奴等だとは思っていた。


 どっちもTV画面やファッション雑誌の向こうにいても違和感のない容姿で、その仕種は一つ一つに華がある。


 ただし、分からないこともある。


 それは考えてもどうしようもない種類のものなので、春輝は素直に朱音へ訊くことにする。


「オレリアの方は分かるけどよ。

 あの馬鹿ボンに突っ掛かられるようなことなんて、した覚えないぞ?」


「だからね、ナルシストなの。

 自分以上に目立つ人間はいちゃ駄目らしいの。

 スポットライトは常に自分に、中心点は常に自分に、っていうのがあいつの主張。

 だから、編入早々目立ちまくっている春輝に対抗意識を燃やしているのよ」


「迷惑だなおい!」


 春輝は思わず叫んでしまった。


 服や薔薇の花びらといった準備を整えてプールに来ていたのは、そんな最低に奇妙な理由だったのか。


 さっきまでしなかった頭痛の気配に、親指でこめかみを揉む。


 どうして面倒な奴等に絡まれる展開になっているのか、さっぱり分からない。


 いっそ無視してくれれば清々しい気分になれそうなものなのに。


 互いの為にもそれがいい気がするのに。


 もしかして奴等は暇なのか。


 暇潰しに付き合わされているだけなのか。


 益体もない考えに、再度ため息が漏れてしまった。


「けど、一々気にしてられっかよ。

 俺は俺でやることやるだけだ」


「ま、そうなんだけどね。

 でもそうそう上手くはいかないわよ。

 上育科の協力が不可欠な試験だってあるんだから」


 小さい子供を諭すような朱音の言葉に、春輝はむっつりと口を閉ざした。


 分かってはいる。


 自分次第、とか思っていても、結局は学校の集団生活をしなくてはならない。


 要らぬ波風を立てたり孤立したりすれば、それだけ過ごし難くなる。


 負担もかかることになる。


 上手く迎合する自信も無い……というのが正直なところだ。


「本気で妙な所だな、ここは」


「あなたが来たのは、そんな所なの。

 合わないのなら、早い内に転校した方がいいわよ」


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