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お嬢様たちの恋のバトルが過熱して、結果として色気が出てしまう  作者: 藤守 友


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三話・11

 それにしても、怒髪天を衝かんばかりの金髪ドリルの迫力は大したもんだ。


 気が弱そうな壬卦は言わずもがな、さっきまで脳がピンク思考で埋まっていた香取さえ怯えたように身を引いているし。


 大した剣幕だが……いい加減、もう慣れた。


 真っ直ぐに気持ちをぶつけて来られるのは嫌いじゃないし、いざとなればプールの真ん中辺りに避難すればいい。


 流石のドリル女も制服を濡らしてまで追っては来ないだろうし。


 そんな風に若干の余裕を持っていると、オレリアはわなわなとスカートを掴む両手を震わせて、臨界点突破の瞬間を迎えて口を開け、




 突然ひらひらと降って来た赤い薔薇の花びらに、出すはずの怒声を失った。




 春輝も目をパチクリさせて、頭上を見上げた。


 外なら分かるが、ここは温水プールの施設で、屋内だ。


 いくら突風に煽られても薔薇の花びらが舞うなんて事態が起こるはずがない。


 自然現象ならば。


 何となく、こんなことに覚えがある。


 このラベールブロンシュに来た初日、華美に、派乎すぎる演出で、無駄な登場をした男がいたことを。


「……これは……」


「まさか……」


「また彼が……でも、どこから……?」


 そしてどうやら他の生徒も思い当たる人物がいるようで、キョロキョロとあちこちへ視線を彷徨わせ……


「ふっ……君達が探し求めているのは、薔薇の如く咲き誇る夢かな?

 それとも、水際を謳う妖精かな?」


 プールに響く演技臭い声に、春輝は当て勘で振り向き、見上げ、


「それとも、薔薇よりも妖精よりも美しい、この、羽柴清司郎かな?」


 飛び込み台に立つ、意味不明なことを言っているハイクラスのナルシストを発見した。


 薔薇の花を指に挟み込み、それを地上へと差し出すように腕を伸ばして、何故か目を閉じ微笑を湛えている男が、一人。


 ちなみに上育科の男子制服は浅緑色のブレザーで、今あいつが着ているフラメンコでもやるのかと言いたくなるようなひらひら装飾の開襟シャツに白のベルボトムという勘違いファッションじゃない。


 つーか、あれを着こなしているっていうのはある意味凄い。


 見上げているこの角度じゃ靴を履いているかどうかは分からないけど、どちらにしても変人査定がこれ以上プラスされることはないくらい、もう完璧に出来上がっている。


 変態として。


 地上十メートルの飛び込み台からわざわざ薔薇の花びらを散らしたのも、この大吉野郎に間違いなかった。


 でも、ここに来る途中に薔薇の花なんて植えてなかったはずだ。


 プールサイドにも勿論無い。


 ということは、あれか。


 わざわざこの為に、自分を演出する為に摘んできたのか。


 それでもって、花びらを抱えたままひっそりと、誰にも見つからないように上ったと。


「……随分と突き抜けた馬鹿がいたもんだな」


「まあ、そやな。

 いつものことやから、オレはもう慣れたけども」


「……いつものことなのか?」


 つまり、前回現れたのも、偶然ではなくて狙ってやったということか。


 目立ちたがりなのは分かったけど、そこにかける努力が凄い。


 まるで尊敬は出来ないが、凄いことは認められる。


 ただし、絶対に友達にはなりたくないが。


 そんなことを思いながら、春輝は飛び込み台を見上げ続けていた。


 この後、どういう展開になるか……何の自慢にもならないけど、何となく想像はつく。


 たぶん他の生徒もそうだろう。


 幅数十センチの板の上にいる羽柴は、何故かその場でくるりとターンを決めて、


「落ち着きたまえよ、諸君。

 諍いは醜く、品格を貶める……それだけではないよ。

 怒りは、ストレスは、肌にも悪い。

 折角の美を無惨なものとするのは罪悪ですらある。

 だからこそ人生には余裕が必要なのさ」


 よく分からない演説を始め、


「学院生活に置いてどうしようもなく蓄積する鬱憤。

 それに対する最高の治療法は、心を洗い褪せた色彩を取り戻させるだけの力を持つ、美の結晶に目を注ぐことなのだよ。

 そして諸君は幸運にも、究極ともいえる美の結晶を、既に知っている……」


 ふわっ! と慈しみを込めたかのような動作で手に持っていた薔薇を前へ投げ、自らの体を掻き抱くようにして……


 次の瞬間、身に纏っていた衣装は両の手で剥ぎ取られた。


 どうやら仮縫いのように簡単に破れるようにしておいたらしく、下にはちゃんと水着を着ていた。


 ただしV字型のビキニ、しかも金色でラメ入りという、とんでもないセンスの水着だったが。


「そう、それは、この僕!

 羽柴清司郎!

 さあっ、精神を病み荒んだ今を生きる哀れな同胞諸君、この僕を見たまえ!

 この、美の女神すら嫉妬させる、果て無き宇宙を含めようとも頂点に立つのは変わろうはずもない、僕の姿を!!」


 叫ぶようにして言い終わると、羽柴は軽く膝を曲げて身を沈め、飛んだ。


 両腕を胸の前で交差させ、伸身のまま横に縦にと回り……綺麗に、頭から潜水した。


 春輝はぽかんと口を開けてそれを見ていることしか出来なかった。


 ナルシズム全開で突拍子もないことをやる癖に、体は鍛えているらしく見事な飛び込みだった。


 綺麗だった、と言ってやってもいい。


 けど、頭から突っ込んで、大丈夫だったのだろうか。


 それ以前にあいつの頭は大丈夫なんだろうか。


 色々と心配になる。


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