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お嬢様たちの恋のバトルが過熱して、結果として色気が出てしまう  作者: 藤守 友


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三話・9

 ぽたぽたとオールバックにした髪の毛から滴が落ちているものの、まるでダメージが無いように見えた。


 馬鹿って思いの外強いんだなあ……、と感慨深く思い、納得する。


「ってことは、あれか。

 基礎体力作り以外はしてないのか?」


「ちゃうよ。

 入学前に二週間合宿があってな、そこでしごかれたんや。

 そう、メイドさんにしごかれたんよ!」


「うざいぞセクエロボケの関西もどき」


「セクエロ?!

 しかももどき?!

 なんやその新ジャンル!?」


「合宿ではね、歩き方や食事の運び方、それに礼とご用聞きの仕方だけしか習わなかったんだ。

 それをひたすら、二週間。

 軍隊の新兵訓練ってこんな感じなのかな……って思ったくらい、厳しかったよ」


「なるほどなそれで、後はひたすら体作りか」


「そう、体作りや。

 本当にしたかったのは、まあ燃えたぎるような青春の発露っちゅーか、健全なオトコノコのミッドナイトトライアルなんやけど、同じ寮に住んでいても夜這いのチャンスが……」


「だからね、こんな僕でも体力だけはついたんだ。

 頑張れば、春輝君もすぐに追いつくと思うよ。

 僕よりも背が高いし」


「だといいんだけど、な。

 まあ、頑張るしかない訳か」


「な、なあミケ?

 ハルハル?

 無視って深刻ないじめとして思春期のトラウマになるっちゅう話なんやけど、そこんとこどう思う?」


 何故かぷるぷると指先を震わせる香取は蚊帳の外に放っておいて、春輝は考える。


 やはりというか、二ヶ月の遅れというのは小さくないらしい。


 高校から野球を始めて甲子園を狙う、というのに比べれば全然マシだが、きっとここにいる奴等は、昨日やった拷問のような走り込みを二ヶ月の間耐えて残った面子なんだろう。


 その成果が見事に出ているわけだ。


 しかし鉄ゲタに米俵に、着衣水泳。


 どこまで本気なのかいまいち分かりづらいメニューなのに、それでも立派に成果が出ているのがかなり不思議だ。


 これが世に知れたら、真面目に科学論拠に基づいたトレーニングをしているアスリートがふて腐れかねないな。


 そんなことを、我関せずと一人黙々と泳いでいる倉木を見ながら思っていると、


「ん……あれ?」


「どないしたんや、ミケ。

 ようやくジフンのやっとることが幼気な心を剣山で刺しとるっちゅうことが理解出来たんか?」


「そうじゃなくて……あれ、見てよ」


「んなどうでもええような反応を……って、おおっ?!」


 二人のやり取りに、春輝も遅ればせながら気がついた。


 香取と壬卦が見ている方向を、他の女生徙達も何人か注目している。


 それはプールへの出入り口で、そこから知った顔がこちらへ向かって歩いている、ということに。


「朱音に、ドリル女……」


 他に数人、どこか落ち着きのない様子で後を付いて来ている上育科の女生徒がいるが、とりあえずそれは無視しても良さそうだ。


 問題は、どうしてここに朱音が来たのか。


 しかもオレリアと一緒に。


 その点に尽きる。


 なんだかまた妙な厄介事に巻き込まれるんじゃないかと、背筋が震える。


 香取の奴は軽々しく言っていたが、トラウマっていうのはこういうことを言うんだ。


 特に嫌な予兆はないのに、朱音が近付いて来ただけで体が怯えている。


 昔とは違って男女の体格差が出た今でも尚、牙を剥かれたら敗北必至という妙な確信があるくらい、心と体に負け犬っぷりが染みついているのがよく分かる。


 どうにかならないものかと思いながら、春輝はとりあえず無条件で萎縮しそうになる心を反骨精神で奮い立たせ、朱音達の様子を見守る。


 彼女等は監視台の近くまで来ると、頭上で座る深閑へと向けて、代表をしてかオレリアが口を開いた。


「私達、授業の様子を見学に来ましたの。

 別に、構いませんでしょう?」


「勿論です、グランヴィルさん。

 他の方々も、どうぞ気を楽に。

 私は監視の役目がありますので案内等は出来ませんが、ご自由になさって備いませんので」


 それまでと変わらない無表情と丁寧な言葉遣いの深閑だが、春輝は少し不思議に思った。


 堅い印象が強いこの教師なら、上育科のお嬢様方が相手だろうと、授業の邪魔になりそうなのでお引き取り願うものだとばかり思っていたのだが、実際には寛容に許可を出した。


 どうしたんだろうと首を捻り……割とすぐに理解に至った。


 スポンサーの娘で、しかも将来的には雇用主になるかもしれない彼女達なら、授業を見て成果を知るのも当然の権利なわけだ。


 さっき戯れ混じりに香取が言っていたのはこういう事態もあるからか。


 しかしまあ、こっちの心情からすれば鬱陶しいだけだけど。


 真面目に取り組んでいるように見える内容ならともかく、服を着たままプールで泳いでいる姿を見られても、なあ。


 からかわれるネタが増えるだけの気がする。


 現に、朱音の奴は微笑を崩していないものの、こっちを向いたオレリアの顔には嘲笑うよな色が浮かんでいやがるし。


 プールの中にいる以上仕方ないとはいえ、文字通り見下されてるのが腹立たしい。


「……なんや、気にくわんな」


 まるで同調するように香取がそう言ったので、春輝は思わず隣を見てしまった。


 ちょっと意外な発言だ。


 何となく、相手が美人なら多少性格が悪かろうがへらへら笑っているタイプだとばかり思っていたのに。


 しかし、おかげで少し頭が冷えた。


 自分以外の人間が気分を害しているのを見たのが良かったらしい。


 こういう場合、ちょっとでも冷静な方が宥める役回りにならないと。


「まあ落ち着けよ、香取。

 お前の気持ちは分かるが……」


「落ち着いてなんていられへんわっ!

 こんな口惜しいことがあるかいな!?」


 そう言って、香取は忌々しげに朱音やオレリア達を見上げる。


 春輝はそんな香取に共感しつつ、落ち着かせようと肩を軽く叩こうと、


「なんで水着とちゃうねん!?

 上育科のお嬢なんやから、こう、隠す気があるのか無いのか分からんギリギリ感漂う水着での登場ちゃうんぐほはぁっ?!」


 全部を言い終わる前に、今度は鞭のように撓ったコースロープが飛んできて、なんだか魂の叫びっぽい妄言を垂れ流す馬鹿の頭を殴り倒した。


 見るまでもないが、黄と青のカラフルなコースロープを辿ってみると、監視台に座る深閑の手元に行き着いた。


 まあうん、そうだろうと思ったけど。


 それにしても、まるっきりちっとも共感していなかった。


 少しでもこの似非関西人に仲間意識を覚えた自分が恥ずかしい。


 それはまあ確かに、オレリアなら際どい水着も似合うだろうし、そんな格好で登場されたら今まで蓄積していたイメージ負責を帳消しにしてしまっていただろうけど……違う、そういうことじゃない。


 危険なことに、どうやら香取のエロ思想に毒されかけているっぽい。


 由々しき事態だ。


 香取め、なんて迷惑な奴だ。


 あとで絞めておこう。


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