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お嬢様たちの恋のバトルが過熱して、結果として色気が出てしまう  作者: 藤守 友


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二話・9

「いや待てその着地はどう考えてもおかしいだろっ!?」


 叫んで、焦燥感に駆られるままに説得の言葉を探す。


 しかしアンサーが見つかる前に、メイド服の鳳凰寺は恥ずかしそうに俯き加減になりながらもシャワー室に入ってきた。


 まずい。


 ぺたぺたぺたという足音が、割と美人な同級生がメイド服で体を洗おうとするこのシチュエーションが、バクバクと心臓の鼓動を加速させる。


 全裸でほぼ初対面の女性と急接近するような度胸なんてこれっぽっちもないので、必死に股間を手で防御。


 追い込まれた草食動物のようにあわあわと狼狽えて、


「おい、待てっ、落ち着いてよく考えろよ!?

 俺はもういいって言ってんだから、それでいいじゃんかよっ。

 つーか背中を流すって、そんな服で、しかも誰もいないっつーのに、背中流すって!」


「平気です、これでも母と姉の体を洗って褒められた経験がありますから!

 一応、自信があるんですよっ」


「俺が懸念してんのはそこじゃねぇぇぇぇぇっ?!」


 まるで話が通じないまま、足音はすぐ傍まで迫っていた。


 落ち着きなく足踏みしながら、春輝はどこかから逃げられないかと必死になって探す。


 シャワー室から出るには更衣室と繋がっているドアを使う以外にはなく、そこへ辿り着く為の通路は中央。


 今正に鳳凰寺早苗が歩いているやや狭い一本しかない。


 それでも足掻くように、何かないか、どこかないかと視線を走らせ、ハッとする。


 スペースを区切る、仕切り板。


 目隠しの要素が強いのか、それな肩から膝くらいまての高さしか存在しない。


 この下を潜って隣、もしくはもう一つ隣のスペースまで移動することで背中を流すことを使命と感じている節のあるメイド少女をかわせば、更衣室に逃げられる。


 その過程で色々と……尻とか見られてしまうかもしれないが、それくらいで済むならまだマシだ。


 もっと見られたくない部分があるし、それ以上に本当に背中を流す展開になったらヤバすぎる。


 だって背中を流すってことはつまり、スポンジ越しだろうけど触られるってことで、『気持ちいいですかー?』とか『痒いところとか、あります?』とか訊かれるかもしれないわけで、背中だけで終わらずに違う場所まで洗ってしまう展開になる可能性も、ほら、無くは無いわけだし、そうなると自分の理性を信じたいところだが、この状況下に置ける男の忍耐力が如何に頼りないものかを残念ながら知っている以上は、信じきることが出来ない。


「は、恥ずかしいですけど……観念してくださいっ!」


「無理だっっ!?」


 もう迷っている時間は無かった。


 春輝は身を屈め、タイルへと視線を落とし、


「ぁ」


 あることに気づき、顔を青ざめさせる。


 隣のスペースのタイルは、濡れていなかった。


 水が流れて濡れているのは、シャワーを使ったこのスペースだけだ。


 その証拠に、迫る足音は丸みを帯びたものではあっても水気を感じさせるものじゃない。


 複数人がシャワーを使用していたならば満遍なく濡れていたかもしれないが、残念ながらここを使ったのは自分一人。


 さて、持っていた料理に意識を集中させていたとはいえ何もないところで豪快に転んだ彼女が、突然変わる足裏の感触と、水によって滑りがよくなった床に際して、どうなるか?


 春輝の脳内では、満場一致で同じ結論に達した。


 即ち……


「か、観念してくれたんですねっ」


 思考に意識を奪われている僅かな間に、ついに鳳凰寺早苗が正面に現れてしまった。


 動かずにいたことを勘違いしたらしく、彼女はほんの少し嬉しそうに、しかし大袈裟なくらい頬も耳も真っ赤に染める。


「ちっ……」


 違う、と言う間もなかった。


 頬を赤く、しかしやる気十分と言わんぱかりに一歩踏み出した彼女は、


「それでは、早速ご奉仕を……っきゃぅぁ!?」


 見事に、ずるっと足を滑らせた。


「やっぱりそうなんのかよ?!」


 その展開を予測していた春輝だっだが、次の展開までは読めていなかった。


 足を滑らせて転ぶなら後ろ向きに、尻餅をつくような形でと、勝手に思っていた。


 だが鳳凰寺は、何故か前向きに倒れ込んだ。


 ちなみに倒れ必む方向には春輝がいて、その前には目隠しの意味を強く持つ仕切り板があり、どんな星の巡りなんだか、鳳凰寺早苗はそこに頭から突っ込んだ。


「ふぎゅのっ!?」


 間抜けな悲鳴に、春輝は顔を引きつらせる。


 同情とは違う。


 何しろ、鳳凰寺が強烈な頭突きをカマした仕切り板は、蝶番を支点に勢いよく動いて、


「ぇ、ぐおぁっ?!」


 見事に、中腰になっていた春輝の側頭部を打ちつけた。


 スピードの乗った一撃は本気で痛くて、おまけに不充分な体勢で食らってしまったので、もろに体がぐらついた。


 ヤバイ、と思った時には既に視界は急速に上へと流れ、左足が宙を泳いでいた。


 予想だにしなかった一撃に対応出来ずに大袈裟なくらい足が滑り、後ろ向きに傾く。


 それでも最後の足掻きで、何とか倒れずに済むよう無我夢中で右手を伸ばして、掌に触れたものを掴む。


 細い何かを掴んで、それを支えに倒れるのを防ごうとして……


 そこでようやく、春輝は自分の手が何を掴んだのかを見て取った。


 そして瞬時に後悔する。


 なんつー余計なことをしてしまったんだと、心底から。


 咄嗟に掴み、体勢を立て直すべく力を入れて引っ張ったのは……同じく倒れそうになっていた鳳凰寺の左手首だった。


「ふぇぇっ!?」


 悲鳴をあげ驚愕に目をまん丸くした鳳凰寺は、春輝に向かって勢いよく倒れ込んで来た。


 ああもう最悪だこん畜生、と世界を呪いながら、春輝は目を瞑る。


 そして見事に、重なるようにして倒れ込んだ。


 衝撃は思ったよりも軽く、それでも尾てい骨を打ってしまったので痺れるような痛みが走る。


 おまけに上から覆い被さるようにして鳳凰寺早苗の体が乗っかると、肺から空気が絞り出されて情けない声を漏らすことになってしまった。


 しかし次の瞬間、


「っ……!?」


 口、というか顔面を丸ごと包み込むように、ふにゅっとした何かに押し潰された。


 謎の攻撃だか現象だかのせいで、声どころか息を吐くことすら出来なくなる。


 いったい何が、と思った時、上の方から声が聞こえてきた。


「いたた……肘と膝、打っちゃったみたい……」


「っ?!」


 そのどこか抜けた声で、春輝は事態を把握した。


 自分の呼吸を阻害しているものが何なのか、ということを。


 柔っこくて、布地越しに熱と弾力が伝わって来て、頭の中にEとかFのアルファベットが浮かぶ。


 どれくらいあれなのかは分からないけど、とにかく大きくてなんかいい匂いがして……いやそんなことより塞がれている鼻と口が、息が、


「っ、っ、っ!」


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