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お嬢様たちの恋のバトルが過熱して、結果として色気が出てしまう  作者: 藤守 友


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二話・7

「……くぁー……悲鳴を上げたのなんていつ振りだろ……」


 シャワーで体の泡を流しながら、春輝はため息混じりに呟いた。


 食堂での騒動の後、朱音に連れられる形でよろよろのまま第二校舎にある男子更衣室に来てシャワーを浴びていたのだが、やっと落ち着いてきた。


 鼻の頭がヒリヒリと痛む。


 どうも軽い火傷になってしまっているようだった。


 まあ、この程度で済んだのは不幸の幸いかもしれない。


 なにしろ、熱かった。


 もうとにかく熱かった。


 しかも転げ回っているうちに椅子やらテーブルやらに手足をぶつけていたらしく、痣になっている箇所もある。


 朱音の指示ですぐさま消火活動の如く水がぶっかけられたらしいが、体感時間だと十分くらいは地獄を彷徨っていた。


 熱いだけでも充分なのに、カレーが口と鼻に入って粘膜がえらいことになったんだから、ちっとも大げさじゃない。


 一度ゲームに負けて辛子たっぷりのベビーシューを食べたことがあるが、あれはまだまだ緩い罰だったんだなぁ……と、しみじみと理解させられた。


 そんな理解したくなかったのに。


「あー……それにしても酷い目に遭った」


 まだ鼻の奥がジンジンする、声もちょっと枯れている。


 今日中に治るかどうか、不安なところだ。


 しかし多少の痛みや不自由は我慢しないと。


 きっと、そろそろ予鈴が鳴る頃合いだ。


 そうすれば午後の授業が、従育科の授業が始まるのだ。


 ラベールブロンシュは普通の高校よりも休み時間が長いので、まだ昼休みは終わっていない。


 なので今のところ、授業に遅刻せず参加出来そう……なん、だが……


「着替えもないしタオルもないし……どうしたもんか」


 コックを捻り、シャワーを止める。


 しかし呟いたとおり、体を拭く物はどこにもない。


 ここに連れて来てどこぞへと消えた朱音は、何らかの着替えを用意してくれるに違いない。


 とんでもなく悪趣味なヤツだが、非道ではないしお節介なところもある。


 その点は買ってもいいと思う。


 ただし、用意するのにどれくらいかかるのかは不明。


 せめてタオルだけでもあればいいんだけど、見当たらない。


 シャンプーとトリートメント、それにボディソープは常備されていたものの、スポンジやタオルの類はどこにもなかった。


 仕方ないのでボディソープを掌に垂らし、それを両手で擦り軽く泡立てて肌に塗るように体を洗ったので、今更現れてもがっくりくる。


 他に余計な設備も見当たらない。


 仕切りで左右五つずつ、計十個に区切られただけの狭いシャワー室なので、何かあるならすぐに分かる。


 ただし、ラベールブロンシュのカラーはここにも流れていた。


 何故だかコックは勇猛なライオンの顔を象っているし、シャワーノズルは金色だし、壁にはどこかの国の絵が描かれていた。


 確かヴェネチアだったか。


 有名な都市だから何とか分かるが、ここはシャワー室であって水の都じゃない。


 むしろ男が汚れを洗い流す所で、優雅さとは程遠い場所だ。


 とりあえず学院側は金をかけるポイントを考え直せ。


 本格的に色々と間違えすぎだ。


「ま、向こうにはあるだろ」


 繋がっている更衣室の方なら、タオルの一枚や二枚あるに違いない。


 運悪く朱音と鉢合わせにならないように祈って、さっさと向こうで物色を……


「……あのぉー」


 目隠しと仕切りを兼ねた板で覆われた個人スペースから出ようとした瞬間、その声は聞こえて来た。


 中央の通路に足を伸ばしかけていた春輝は、慌てて足を引っ込めて、さっと瞬時に手で胸と股間を隠す。


 そうしてから目隠しの板の存在を思い出して、恥ずかしさに頭から水を被りたくなった。


 どこの生娘だ、今の反応は。


 掌に心臓がバクバクいっている鼓動を感じながら、まあ落ち着けひとまず落ち着け、と自分に言い聞かせる。


 そうだ、落ち着け。


 別に悪いことをしていた訳じゃない。


 とりあえず、シャワー室は湿度が高く声が反響するけど、今の声は女の出したものだ。


 それは分かった。


 しかも朱音とは違う、知らない誰かの声だ。


 ……いや待てよ、朱音がわざと声を変えてこっちが慌てふためく様を見て楽しもうとしている可能性も、無くは……って、無いよそんなの。


 ああ駄目だ、本当に落ち着け。


 クールになれ、自分。


 頭がくらくらするくらい、とてつもなく居心地が悪い。


 素っ裸でいることが原因なんだろうが、疾しいところは塵一つとしてないはずなのに、追い詰められたような焦燥感が湧いてくる。


 こんなに追い込んでくれやがった奴は誰なんだろうと、仕切り板の横からそうっと頭だけ出し、更衣室へと繋がるドアを見てみる。


 案の定、ちゃんと閉めておいたはずのドアはほんの少しだけ開いていた。


 そこからこっちと同じような感じで、白いヘッドピースを付けた黒い頭が遠慮がちに覗いていた。


「……誰だ?」


 ヘッドピースから、従育科の女子だと見当はつく。


 けど、従育科の女子に知り合いはいないし、誰なんだかさっぱり分からない。


 不安が増大する中……おずおずと、ドアの向こうから顔まで出てきた。


 やや垂れ目気味で、その割に大きな瞳。


 小顔ではないがほっそりとした輪郭で、人によって綺麗系か可愛い系かの評価が分かれそうな、曖昧な美人だった。


 やっぱり見覚えのない顔に、疑念たっぷりに訊ねてみる。


「……誰だ?」


「あのお、先程は本当に……本当に、すみませんでした!」


 反響する声に、耳を押さえた春輝は顔を顰めつつ考える。


 先程は?


 すみませんでした?


 初対面のはずなのに謝られ、しかも接触済みらしい。


 となると、あれか。


「さっきの、カレーをぶちまけた?」


「そ、そうです。

 その 1ノA従育科の鳳凰寺早苗といいます。

 こ、この度は、何と言うか……お悔やみ申し上げます……」


「あ、いや、どうもご丁寧に……って、違う、それは主に通夜や葬式に使う言葉だ!」


 まだ心臓は飛び跳ねて冷静になれていなかったせいか、ノリ突っ込みみたいな形になってしまった。


 凄い恥ずべき行為をしてしまった気がして、濡れている体が汗ばむ。


 にしても、言葉に迷ったからといってそのチョイスはどうなんだ。


 下手をすれば、わざとカレーとナンの爆撃を食らわせたんじゃないかと勘繰られるかもしれない。


 テンパっているのは何となく分かるが、あのズッコケっぷりといい、この会話といい……


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