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お嬢様たちの恋のバトルが過熱して、結果として色気が出てしまう  作者: 藤守 友


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二話・5

 春輝は軽く肩を竦ませて、


「……なんだよ」


「貴方、この私が中傷されているというのに、何をのんびり傍観しているんですの!?」


「いや、んなこと言われても」


「黙りなさい!

 藤條さんとは知己なのでしょう!?

 ならば連帯責任ですわっ」


「うっわ、物凄い無茶言うなお前……」


 なんか凄い暴論を吐かれてしまった。


 このドリルは外国製らしいから、やっぱりこれは文化の違いというやつなんだろうか?


 そんな独走をされてもついていけないのでぼんやり眺めていると、オレリアはぶるんぶるんと盛大に髪を揺らし詰め寄ってきた。


 キッ、と鷹のような目つきで春輝を見下ろし、


「従育科の生徒にお前呼ばわりされる程、私は気安い存在ではありませんわ!

 オレリア様と呼びなさい!」


「うっわ様付けかよ。

 それはお前、いくらお嬢だからつっても痛々しいって」


「なっ、私のどこが痛々しいというんですの?!

 それにお前と呼ぶなと言ったばかりですのに、何ですの、その態度は!」


「あー、はいはい……ったく、うるさいドリルだな」


「誰がドリルですって!?

 言わせておけば、粗野な下人の分際で……!」


「……あぁ?

 誰が下人だ?」


 そんな言い方をされると、流石に少しむっとくる。


 春輝は険悪に目を細め、座ったままの低い位置からオレリアを睨み上げた。


 それなりに迫力があるはずなのは、街中で正真正銘の不良共の相手をしていた時の経験で知っている。


 それに、昨日は特に睨んだわけでもないのに数人に卒倒されたし。


 だだ、昨日のことを言うならば。


 目の前にいるドリル女は盛大に人のことを不審者扱いして 、おませに襲いかかってきた。


 そして今日も、全く怯むことなく、たっぷりと量感のある胸を押し上げるように腕を組んで、春輝のことを視線で射抜かんばかりに睨み返してきた。


「下人は下人、従育科の生徒には、特に貴方にはピッタリの呼称ですわ。

 私達上育科の生徒達が支払っている膨大な金額の寄付金で養われ、教育を受けている従育科の生徒はそれ相応の身分を弁えるべきですもの。

 身の程を知りなさい」


 その言葉に、春輝は表情を変えずに内心で『やっぱりか』と納得する。


 従育科の生徒はタダで学院に通え、寮費までラベールブロンシュ持ちだ。


 当然ながらどこからか金が回されているし、それはきっと寄付金だろうと予測はしていたが、これで確定した。


 疑問を解く手助けに感謝。


 けど、まあ、それはそれ、これはこれ。


「身の程を知れ、だあ?

 お前こそ分かってんのか?

 寄付金を払ってんのはお前個人じゃなくて親だろうが」


 勘違いで増長されてたまるか、という想いがあった。


 従育科の生徒は確かにタダで授業を受けられるし寮にも住めるが、その代わりに数々の奉仕活動が義務付けられている。


 働いて返す、というには全然足りないだろうが、それでも労働して権利を守ることには変わりない。


 上育科の生徒は、確かに学費も寮費も払って、おまけに寄付金まで払っている。


 ただし、それは親が払っていることで、本人が自腹切っているわけじゃない。


 寄付金のお陰、というのは事実。


 だから席を譲ったり多少の融通を利かせたりするのは、まあ構わない。


 だが、さあ崇めろ讃えろ敬えと言われても、そんな気になれるかって感じだ。


 他の生徒がどう思っているかは知らないが自分はこう思っていると、暗に込めて。


 対するオレリアはボリュームのある縦ロールを一撫でし、


「小賢しいですわね」


 不敵に、微笑んだ。


「なら貴方は、女王は国を統べる者と敬意を払えても、その子息である王子王女には平民同様の対応を取るとでも言いまして?

 戴冠していなければ、国政に関わるまでは礼を尽くす対象にはならないと言いますの?

 愚かしいですわ」


「……」


「この私の身に流れる血、グランヴィル家は王族には及ばないものの、歴としたイギリス貴族の血族。

 それも伯爵家に連なる、堂々たる名門でしてよ?

 私もいずれは高貴なる血の義務に従い、『紅き羽根の水鳥』の紋章に相応しい殿方と結ばれ次代以降への繁栄に身を注ぐでしょう。

 それが貴族の務めですもの」


 朗々と、謳うように。


 綺麗で、優雅で、余裕ある微笑みがむかつくくらいよく似合う。


「上に立つ人間には才覚と、庶民には不要な努力が必須ですわ。

 生まれが違い、育ち方が違い、目指すものも違う。

 ならばそこに格差があるのは当然でしょう?

 ええ、確かに寄付金を払っているのは私個人ではなく、家が出していますわよ?

 けれどそれはグランヴィルの名に相応しい人間を育てる為であり、当然の必要経費ですわ。

 そしてこの学院が多額の寄付金を得られたのは、私という人間がいるからこそ。

 同時に、名家の令嬢が育つに相応しい環境だからですわ」


「……ほう」


「私は、私達はどこに出ても恥ずかしくない令嬢となるべく教育を受けていますわ。

 そして従育科は私達に仕える人間となるべく育てられるのです。

 ならば貴女が私に傅き、頭を垂れるのは当然でしょう?

 同じクラスに編入されたからといって同格を気取り、あまつさえ勘違い甚だしい指摘をするなど言語道断ですわ!」


 ピシャリと言い切って、オレリアは口元にどうだと言わんばかりの満足げな微笑を浮かべた。


 それに対し、春輝は、


「……確かに、な」


 認めた後で、頷いた。


 オレリアは勝ち誇ったように腕を組んだまま胸を張り、「フフン」と笑う。


 いや、正直なところ驚いた。


 朱音にああも簡単に言い負かされていたから弁が立つタイプじゃないと思っていたが、どうやら認識を改めないといけない。


 こいつはきっと、正直正銘の『名家の令嬢』なんだろう。


 自分の家に、自分自身に誇りを持ち、揺るがないだけの教育を受けている。


 だからこそああも滔々と語ることが出来るのだろう。


 なるほど、確かに生まれも育ちも違うと納得出来る。


 あんな凶器みたいな髪型で自己主張の激しい、喧しいだけの女かと思ったら、大間違いだった。


 ……いや、バカには違いないんだろうけど。


 本音を言えぱ、見直した。


 ただし、ちょっとばかり甘いけど。


「お前の言い分は分かった。

 確かに我ながら、アホな突っかかり方をしちまったな」


「それが理解出来たのなら早急に謝罪を述べなさいな。

 跪いて、己の身の矮小さを改めて感じ入るがいいですわ」


「けど、お前は大事なことを勘違いしてる」


「なんですって?」


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