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お嬢様たちの恋のバトルが過熱して、結果として色気が出てしまう  作者: 藤守 友


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二話・1

 クリーム色のカーテンを開け放つと、溢れんばかりの陽光が窓ガラスを越えて部屋の中へと注ぎ込んでくる。


 眩しさに目を細めながら、春輝は窓を開けた。


 吹く風は髪を軽く流す程度の心地良いもので、まだ残っていた眠気を擽る。


 それでも欠伸をしなかったのは、空が昨日にも増して良く晴れた、雲一つ無い快晴だったからだ。


「そろそろ六月だってのに、いい天気が続くな」


 まだ梅雨入りまで時間はあるだろうが、それでも二日続けて快晴というのは気持ちいいものだ。


 こう、無条件に全てが上手くいくような高揚感が湧き上がってくる。


 今日はきっと、何かいいことが……


「……起こんのかな」


 昨日のことが頭を過ぎると、どうにも不安になってしまう。


 そうだ、昨日も快晴だった。


 けど、昨日は何が起こった?


 予期せぬ再会に、判明したいくつかの事実。


 痴漢だ不審者だ性犯罪者だと騒がれ追い立て回された挙げ句、小さい頃の恥ずべき過去を暴露されて……


 ……なんか岩に頭を打ち付けて死にたくなってきた。


「……昨日で厄払い出来たと思うことにすっか」


 そう、昨日はあくまでも準備段階。


 本当の編入第一日目は、授業が行われる月曜の今日からだ。


 昨日一日で禊ぎが済んだと思えばいい。


 今日から改めて、第二の人生のスタートだ。


 だから今日からはきっと、絶対、必ず、上手くいくに決まっている。


「っし、頑張るか!」


 気合いが入ったところで、早速着替えることにした。


 今日の遅刻は許されない。


 教員が、ではなくて、自分が許さない。


 私立ラベールブロンシュ学院高等部従育科に編入してからの初登校という、記念すべき日だ。


 ドタバタ悲劇だった昨日の記憶を遠くに置き去りにする為にも、今日からしっかりと学び、一日も早く立派な執事になれるように


 と、そこまで考えて。


 春輝は、肝心なことに気がついた。


「立派な執事って、どうやってなるんだ……?」


 勢いで編入を決めて、とんとん拍子に事が進んだので、ちゃんとしたカリキュラムは聞いてもいない。


 そもそも、なんだ。


 執事という特殊な家事伝いな職業、日本であるなんて聞いたことがないし。


 学費と寮費用がタダ同然で、おまけにやりたいこととマッチしているからと編入したものの、本当に就職先はあるんだろうか?


 考えると不安が募るがまあ、需要があるから供給があるというし、育成機関が出来るということは必要とする人間が少なからずいるはずだ。


 あの童顔脳天気の事務員兼理事長なら思いつきでやっちまったということも考えられるけども、そもそも発足を決めたのは経済界で有名な政治力もある前理事長のはずなので、そこは平気だろう。


 ……たぶん。


「とにかく、頑張っか」


 どうか平気でありますようにと短い祈りを捧げて、寝間着にしていたティーシャツをベッドに脱ぎ捨てる。


 用意されていた制服は仕立てたばかりと言うかのように紙箱に仕舞われていて、開けて取り出してみると素材の良さがすぐに分かる触り心地だった。


 ただ、普通のワイシャツかカッターシャツかと思ったら少し違うものらしい。


 第一ボタンが首のところにあって、襟がピンと立っている。


 ズボンの方はと見てみると、高級感はあれど普通に黒いスラックスのようで、少し安心した。


 とりあえずその二つを身に付けて、窮屈な感じに眉を顰めつつ、上着を取り……


「ん……なんだこりゃ」


 袖を通したところで、気づく。


 どうも 、ブレザーじゃないっぽい。


 腹のやや上の方にボタンがあるものの、数は一つだけ。


 しかも裾が前から後ろへといくに従って伸びるように長くなっていて、なんというかこれは構造的にはテレビのマジックショーで見たことのある燕尾服に近いかも。


「これが制服、なのか?」


 まあ、従育科女子はメイド服なんてけったいなものを着ていたので、普通の詰め襟やブレザーじゃないのもある意味では納得なんだが……これが何なのか、よく分からない。


 執事が着るといえばタキシードのイメージがあるけど、これはタキシードともちょっと違う気がする。


 おまけに、


「これ、ネクタイだよ、な?」


 黒いひらひらとしたスカーフのような感じの物体だが、たぶんネクタイのはずだ。


 ということは、これを締めなくてはならないんだろうが……普通のネクタイの締め方でいいのだろーか?


 いやそれ以前に普通のネクタイの締め方も知らないので、普通に締めろと言われても出来ないかもしれない。


 とりあえず上着は皺にならないように気を付けつつベッドに置いて、タイを首に巻いてみる。


 父親が締めていた光景を思い出そうとしながらそれらしく結んで、クローゼットの横にあった備え付けの鏡の前に移動。


 鏡に映る自分を見て春輝は力強く頷いた。


「これは、違うな」


 正解図がハッキリと頭にあるわけじゃないけど、間違いなくこれは違う。


 それは分かる。


 だってこんな、ぐにょっとしたものがぶら下がっているなんて、あり得ない。


 なんだこのやる気がどこにも感じられないツリガネムシみたいな様相は。


 これが解くのも一苦労という厄介なことになっていて、三分近くかけてようやく首から外すことに成功した頃には折角の新品がよれよれになってしまっていた。


 幸先悪い。


 けど、これをどうにかしないことには始まらない。


 もう一度、脳内で完成図をイメージしてから、春輝は慎重にタイを襟首に回す。


「ここを……こうか?

 いや、ああなるってことは……ここか?

 ここで、一思いに」


 何度かの試行錯誤、天啓のような閃きに手を動かすこと数分。


 もう弄りようがないと手を止めたところで、鏡を見ると……


「……これは」


 二日酔いから完全復活したティラノザウルスをイメージしてみました、と言わんばかりの躍動感溢れる形が出来上がっていた。


 これはある意味、奇跡だ。


 やれと言われても二度と同じ作品に仕上がるとは思えない、最高にへンテコなバランスで今にも歩き出しそうな雰囲気があるし。


 ある意味では大成功といえなくもない。


 が、こんな恐竜仕立てのタイのまま授業に出るのは、やっぱり憚られる。


 それに趣味でやったと思われると少し恥ずかしい。


 解いてやり直すしかないけど、特に間違ったつもりもないのにこうなってしまった以上、どうすれば成功するかも分からないし。


「……ん?」


 鏡の前で首を捻っているところに、ドアが開く音がした。


 春輝が反射的にそちらを向くと、そこにはドアを閉めるルームメイトの倉木皐月の姿があった。


 まだ登校時刻まで三十分以上間があるのに、もう制服に着替えた後だ。


 随分と早起きなんだなと感心するが……早過ぎないか?


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