一話・24
心身共に疲れ果てた春輝はいつの間にか落としていたディバッグを探し、それから職員室に行った。
そこで様々な説明を受けたが、ちっとも頭に入らなかった。
その後、都に案内されて寮に着いたのは、もう夕方になろうという時刻。
重い足を気力で動かし、ようやくで東館102号室に辿り落く。
これから自分が暮らす部屋を前にすると、期待感で少しだけ疲れが和らいだ。
気休め程度ではあるけど、それで涙が滲みそうになるんだから、やっぱり相当に弱っている。
事前に聞いた話によると、二人部屋らしい。
部屋数は十二分にあるけど、従育科女子は一人一部屋にする程には部屋が余っておらず、男子だけ一人部屋というのは不公平なので、空き室はいくらでもあるのに相部屋なのだという。
一応一人では自堕落になる生活も、他人がいることによって張りが出る、という説明を受けた。
それでもやっぱり、どうせ余っているならケチケチせずに解放してくれればと思ってしまうのは仕方ないはずだ。
ともあれ、既に先客がいるらしい。
ある程度、ちゃんとした対応をしなければ。
春輝はノックをして……しかし何秒経っても返事が無かった。
なので、貰っていた鍵で解錠し、中へ入る。
部屋の中は意外に広かった。
バス・トイレ付きで二人分の家具が入る部屋なのだから当たり前なのかもしれない。
ただ、前に住んでいた寮も同じように二人部屋だったが、明らかにそこよりも広い。
そんな快適な空間に一人、小柄な少年が立っていた。
同性でも目を奪われそうになる美少年で、冷ややかで鋭い瞳と無造作に切られた黒く短い髪がよく似合っていた。
先程見た男があまりにもアレだったので、まともそうな相手がルームメイトだということに、内心ホッとした。
少し嬉しく思ったので軽く手を上げて、
「よぉ、お前がルームメイトなんだな。
これからよろしく頼む」
親しげに、とまではいかないかもしれないが、それでもちゃんと拶拶をする。
数少ない同性だ、ちょっとずつでも仲良くなって、楽しくやれればいい。
愚痴を溢さずにはやってられないこの境遇なら尚更に。
対して、先に住んでいた少年は、
「……倉木、皐月」
素っ気なく名前を告げ、細めた目でこちらを冷ややかに睨んで、
「先に言っておくが、僕の生活の邪魔をするな」
刺々しい返礼をして、春輝の横を通り過ぎて部屋から出て行ってしまった。
まるでコミュニケーションの取れないルームメイトの行動に、しばし呆然とする。
ややあって、
「なんなんだ、あいつは」
呟いた後、走馬燈のように今日一日の出来事が思い浮かび、言い直す。
「なんなんだ、この学校は」
自ら望んで編入をしたんだけど、渦巻く不安はどうにも止められない。
授業に参加するのは明日からだ。
なのに本番を前にして、もう精神的にはボロボロだった。
とっくに忘れたはずだったのに、新たな名字を護得し劇的な猫被りをした姿で再会した、藤條朱音。
異国の血が混じり、恐ろしく綺麗で凶器的髪型をした、勘違い甚だしい暴走女、オレリア。
小学生にしか見えない高校生。
青竜刀を振り回す背の高い中華女。
ナルシストバカな男。
愛想のない美少年。
無能っぽい事務員兼理事長。
これから、彼等と共に学院生活をしていくのだ。
「人生決めんの、早まったかな……」
つい弱気な本音を吐いて、春輝は盛大に肩を落とし、ベッドに仰向けで倒れ込む。
気怠く横を向けば、窓の外に広がる美しい光景が広がっていた。
夜の帳が落ちた空には、昼の好天が続いて月や星々が見える。
「希望の光は……どれだー……?」
呟いた言葉には、当然ながら誰も応えてくれなかった。




