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お嬢様たちの恋のバトルが過熱して、結果として色気が出てしまう  作者: 藤守 友


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一話・22

 かなり怪しい内容だったので、当然ながら朱音の目には疑わしげな光が宿る。


 しかし、意外なことにそれはすぐに払拭された。


「ま、嘘ならもう少しマシなこと言うか。

 いいわ、ここはわたしが何とかしてあげる」


 さらりと、からかっているのかと思うくらい気軽にそう言うと、朱音は女生徒達の方へ体を向ける。


 ぽかんと口を開けて見守ることしか出来ない春輝の目の前で、朱音は優雅に微笑んだ。


「話を聞いてみましたが、不幸な事故のようですよ?」


「ッ、そんな戯言を信じるつもりですの!?

 現に私は胸をっ、誰にもあのように乱暴に扱われたことなどなかったというのに」


「彼の言い分では、グランヴィルさんが不審者扱いをした挙げ句、襲いかかってきた、ということですが、その辺りはどうなんですか?」


「うっ……!」


 そこを突かれると弱いのか、オレリアは頬を引きつらせた。


 しかしすぐに悪くなった旗色を立て直すべく鼓舞するように右腕を振るい、


「それでもその男が不埒な男ということに変わりはありませんわ!

 胸に疾しいところがないのであれば、逃げずに堂々と振る舞えるはず!

 逃げたということはつまり、己の罪を認めたとうことに相違ないですわ!」


「あら、そうですか?

 わたしなら見ず知らずの方に在らぬ疑いをかけられて、しかも追われるようなことがあれば逃げ出してしまいます。

 怖いですからわ」


 朱音の言葉に、女生徒の数人がクスクスと小さく笑う。


 しかしオレリアに睨まれて、すぐに彼女等はそっぽを向いた。


 その間を好機とみたのか、


「グランヴィルさんもご存じの通り、わたしは中等部からラベールブロンシュに通っているのでこの数年の彼、春輝くんに関しては、何も存じていません」


「ならっ!」


「ですが、小さい頃の彼はとても優しく親切で、件の不審者のように盗みや盗撮をするような人柄とは遠く離れた子でした。

 だから彼が無実あると、わたしは信じます」


 毅然とした、それでいて過度な脚色の無い言葉に、オレリアを中心に女生徒達がざわついた。


 そこで春輝は思い出す。


 藤條朱音は中等部を首席で卒業した才女で、教師からも頼りにされているらしかった。


 それに吉住という名の女生徒がわざわざ朱音を探して仲裁を頼んでいたことから、生徙内でもかなりの信頼があるのだろう。


 その彼女が、堂々と不審者を庇う発言をした。


 朱音は自分で言っていた。


 上育科の生徒にとって、従育科の生徒は別の人種だと。


 だからただでさえ従育科の、それも男子を庇うというのは大変なことのはずなのに。


 今この場にいる女生徒達にとって、それがどれ程衝撃を与えることだったのか、転入をしたばかりの自分には分からない。


 だが、簡単に済ませられることではない、ということだけは想像出来た。


「納得、出来ませんわ」


 ただ一人、ショックの色を隠せずにいるものの、オレリアだけは食い下がる。


「事実として私は辱めを受けましたわ。

 そう簡単に納得など出来るはずがありませんわ」


「あら、グランヴィルさんったら、春輝くんに責任を取って婚約しろとでも?」


「そんなはずあるわけないでしょう!?

 私が言っているのは、謝罪と」


 オレリアが具体的な要求をした瞬間、横から朱音の視線が飛んだ。


 春輝はその意味をすぐに理解し、即座にオレリアへと視線を向けて、


「あれは俺が悪かった。

 済まない」


「なんっ……?!」


 有無を言わさぬタイミングで謝られ、彼女は二の句が継げなくなる。


 昔から何度となく朱音の悪戯に巻き込まれ、人身御供のように矢面に立たされ謝罪する役割を押しつけられていた身だ。


 謝罪が必要な時に躊躇するようなヘマはしない。


 ちっともいばれるような経験じゃないが。


 しかし自分で言うのもあれだが、見た目が不良と変わらないので、素直に謝るという行動は相手にとって予想外のはず。


 その上今回は朱音のタイミングアシスト付きなのだから、効果は抜群。


 オレリアは完全に怒りをぶつける対象を無くし、それによって他の生徒達の不審者撃退モードも解けていく。


 と、その時、抱えっぱなしだった少女が腕の中で身動いだ。


「……ふ、にゃ……?

 ここは……?」


「お、良かった、気が付いたか」


 ゆっくりと地面に下ろして立たせると、少女は目を擦りながらぼんやりと辺りを見回した。


 まだ少しだけ病気か何かじゃないかと心配していたけど、この様子なら大丈夫そうだ。


 胸を撫で下ろし、春輝は一歩退いて彼女から離れる。


 そして朱音はというと、微笑ましい少女の様子につられるように柔らかく笑んで、彼女の髪を優しく手櫛で梳いてやりながら声を掛けた。


「七瀬さん、七瀬ななみさん。

 お目覚めですか?」


「にゃ……あ、朱音ちゃん……?」


「はい、藤條です。

 具合は大丈夫ですか?」


「本当に大丈夫か?

 急に気絶するから、驚いたぞ」


 二人がかりで呼びかけられて覚醒したのか、ななみは瞼をぱっちり開き……


 春輝を死人して、小さな顔を耳まで真っ赤に染めた。


「そっ、そのっ……ななみ、男の人に抱き付かれたの、初めてで、びっくりしてっ……」


 何故か懸命に弁解しようとするが、春輝は何となく納得した。


 人は驚くと気絶するものらしい。


 近距離で二人、密着して一人。


 今日だけで三人もそういうケースに遭遇すれば、そりゃあ納得もする。


 珍獣の生態を知ったように頷いていると、朱音がじっとりとした陰湿な目でこちらを見ていることに気がついた。


 唇を目立たないように動かした朱音は、


「……ロリコン」


 男としての威厳を全て打ち砕くような一言。


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