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お嬢様たちの恋のバトルが過熱して、結果として色気が出てしまう  作者: 藤守 友


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一話・20

 何が起きたのか、それを確認せずに背中を見せるのは危険すぎる。


 見れば、先程まで自分が隠れていた茂みの前に、映画などで見るような青い中華服を着た女性が立っていた。


 かなり背の高い眼鏡を掛けた彼女の両手に握られているのは……


 おいおい、と思わす口に出そうだった。


 だってあれは、青竜刀だ。


 漫画で見るような蛮刀タイプじゃなくて、長刀のようなモノホンタイプの青竜刀だ。


 素人が持つ物じゃないし、お嬢様が持つ物でもない。


 三国志の英雄か、現実からうっかり足を踏み外し気味な危険なヒトが持つアイテムだ。


 先程聞こえた風切り音は、あれが一閃した音に違いない。


 もしもあのまま隠れていたならば、枝葉だけでなく血が舞うことになっていたのは確実だ。


「正気かあいつら!?

 マジに殺す気かよ!」


 あまりにぶっ飛んだ行動に血の気が引く。


 だが今貧血で倒れれば待っているのは死だ。


 その想像が否応なく足を回転させる。


 小柄な少女とはいえ人一人を抱えながらもかなりの速度が出ているのが分かる。


 命が掛かると人はこうも速く走れるものかと自分で感心してしまうくらいだ。


「お待ちなさい、この変質者!」


 後ろからオレリアの声が追って来るが、今度は振り向かない。


 一刻も早く距離を開け、どこか安全な場所を見つけなければならないのだ。


 待てるか馬鹿。


 構っている暇なんて無い。


 死にたくもない。


 不幸中の幸いで、追って来ているのは先程の二人だけ。


 しかも足はこっちの方が速いようで、後ろの気配は少しずつ遠ざかって……


「変態発見ですわっ!」


「あれが性犯罪者ですのね!?」


 左手側にある建物から、長刀で武装した集団が……


「いた、奸賊!」


「……見敵必滅」


 そして右手側にある建物から、和弓で武装した集団が、わらわらと現れた。


 明らかに体育会系のグループが二方を固め、おまけに後ろからは青竜刀の脅威。


 絶体絶命の危機に、正面を突破するしかない状況に、


「なんだなんだなんだっつーんだよこの学校はぁぁぁぁっ!?」


 キレた。


 今まで溜め込んでいた全ての鬱積を吐き出すように叫びながら、もう全力とか限界とかそんな言葉が追いつかないくらいの、今まで出したことのない速度で疾走する。


 酸素が足りないと激しく訴える肺と脳と全身の筋肉の悲鳴を聞きながら、春輝は思う。


 心底から、疑問に思う。


 どうしてこんなことになってしまったのか、と。


 どこぞの詩人が『神は死んだ』とぬかしていたことが、何故か脳裏を過ぎる。


 なるほど、神は死んだのかもしれない。


 これから死ぬのは自分らしいが。


 集団で気絶とかしてくれないかと祈ってみるが、どうにも叶いそうもない。


 ただならぬプレッシャーと金属製の鏃が付いた矢が飛んで来る中を切り抜けなければならないと、覚悟を決めたというか、もうこうなったら酸素不足で失神するか足の靱帯が切れるまで走り続けてやろうとヤケになって……




「待ちたまえっ!」




 救いの神が現れた。


 周囲一带に響き渡ろうかという、大きな声。


 すぐに男のものと分かったが、がなり声とは程遠い。


 初夏の涼風を思わせる爽やかな印象で、切迫したこの場には不似合いなもの。


 突然の声に、春輝は立ち止まってしまった。


 気を取られている場合じゃないと分かっているのに、つい声の主を探してしまう。


 そしてそれは自分だけじゃなく、取り囲もうとしていた女性陣も同様だ。


 殺気立っていたはずなのに、キョロキョ口と周囲を見回して事態を把握しようとしている。


 なんか特撮ヒーロー番組っぽい状況だ。


 自分が一般市民、腕に抱えている少女は危機に晒された子供、囲んでいる女生徒達は悪の戦闘員で、ドリルと青竜刀のコンビが怪人か悪の幹部か。


 となれば現れるのはマントを羽織ったヒーローだろうと登場を予感していると、一部の女生徒達が歓声を上げた。


 つられるようにそちらを見て、春輝は、絶句した。


 白い鳩が数十羽、バサバサと飛んでいく光景がそこにあった。


 そして鳩がいた辺りの女生徒達は左右に割れるように身を引いて道を空け、映画のワンシーンのように、そこから一人の男が歩いてくる。


 着ているのは真っ白い、袖口や襟首が妙にひらひらしている開襟シャツ。


 その第二ボタンまで閉じずに白い素肌を見せた彼は、やはり白いベルボトムを穿いて、白のエナメル靴を装着していた。


 さらさらのやや長い髪を櫛で掻き上げて斜め後ろに流し、何を勘違いしているのか胸ポケットには赤い務薇が差してある。


 堂々とした歩みで近付いて来る彼は目鼻立ちの整った文句ない美形で、表情には自信が満ち溢れていた。


 春輝は、思った。


 救いの神じゃなくて、バカが来た。


「君達。

 何を騒いでいるのかは知らないが、冷静になりたまえ」


 バカ貴族っぽい男は、しかしその口から出て来た言葉は場を静めることを促すものだった。


 これは意外だ。


 もしかすると、事態が好転するかもしれない。


 落ち着いて話し合えば、解けない誤解じゃないし。


 期待を込めて男を見ていると、彼はおもむろに胸元の薔薇を引き抜いた。


 それを口元へ持っていき、


「……原因は、知らない。

 そこの粗野な外見の彼がしでかしたことにも興味は無い。

 大切なことは、ただ一つだけだ……」


 そこまで言うと、一度瞳を閉じる。


 おいコラ誰が粗野だ、と突っ込める雰囲気でもなく、春輝は固唾を吞んで見守るしかない。


 そして男は瞼を上げるのと同時に、薔薇を持った手を頭上に掲げて、叫んだ。




「この学院で……いや、この世界で、この宇宙で最も注目されるべき麗しい存在は、この僕!

 羽柴清司郎だということだよ!」


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