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お嬢様たちの恋のバトルが過熱して、結果として色気が出てしまう  作者: 藤守 友


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一話・18

「……やっぱ、どうにかして職員室に行くしかない、か……?」


 ただし現在地がどの辺りかも分からない状態だから、所要時間も分からないけど。


 しかも職員室のある第二校舎は、一度乗り込もうとして失敗している。


 あの二人がまだ倒れている、ということはないだろうが、きっとマークされていて難易度も危険度も高い。


 けど……まあ、そうだな。


 こんな小さな子を一人にしたり、その家族を不安にさせたりするよりはマシか。


 どうせ自分が追われているのは誤解なんだ、いざ取っ捕まったらちゃんと説明すればいい。


 小さな女の子と一緒なら、流石にあの金髪ドリルも襲いかかって来たりはしないだろうし。


 またあらぬ疑いを掛けられてギャーギャー言われるかもしれないが、そこは我慢するか。


 そこまで考えがまとまり、春輝は顔を上げた。


 すると、少し涙目になっている少女と視線がかち合う。


「こっ、子供扱いは、しないで欲しい……」


「ん?……ああ」


 少女の言葉に首を傾げそうになり、思い当たる。


 そういえば少女の頭に手を置いたままだった。


 なんだか、考えながら頭を撫でたり髪をいじったりしていたような気もしないでもない。


 いくら幼いとはいえ、女の子相手にその態度は少しまずかったか。


 少女が下唇を突き出して不満げな様子なのを見て、つい漏れそうになる苦笑を堪えつつ反省する。


「悪かったな。

 少し考え事があったもんだから」


「……その、別にいい、けど……そんなことより、こんな所で何をしてたの?」


 口調はちっとも『構わない』という感じではなかったが、そこに突っ込むような真似はしない。


 ヤブヘビはもうたくさんだ。


 頭を撫でていた手を引っ込めて、さてどう説明しようかと考える。


 相手は子供なので難しい言葉は使えないし、まあとりあえず、ある程度伝わればいいだろう。


 そう思い、簡潔に話すことにした。


「いやな、ドリル装備の女に迫われてな」


「ど……どりる?」


「そう、ドリルだ。

 にしても、誤解が解けないっつーのは厄介なもんだ」


「それは本当に厄介だよ」


 何故か少女は睨むような目でこちらを見て来る。


 ただし睨むというには可愛らしいので、不快感は無し。


 なので春輝は気にすることなく、「さてと」と言いながら立ち上がった。


「職員室、行かないとな。

 放送かけて貰えば、お前の家族もすぐに見つかるよ」


「だ、だからつ、ななみはここの生徒でっ、」


「ああ、ここの小学生……いや初等部っていうのか?

 まあいいや、それなんだな」


「そ、そうじゃなくてっ」


 手足をばたつかせた少女が抗議の声を上げる、そんな微笑ましい光景を笑って受け流そうとして、春輝は……


「向こうから男の声が」


 石碑の向こうから聞こえて来た声に、表情を強張らせた。


 咄嗟に自分のいる位置を確認。


 左右に目を光らせてるが、自分の体は茂みの向こうからでは石碑に隠れて完璧に見えないはず。


 だが、目の前にいる少女。


 彼女だけは角度次第では向こうからも見えるかもしれない。


 今この場で見つかるのはまずい。


 表で見つかるならまだしも、こんな物陰に二人きりでいるところを見つかれば、もう確実に騒がれる。


 めでたくロリコン犯罪者の出来上がりだ……って、ちっともめでたくない。


 そんな事態になることだけは避けねば。


 そう思い至った次の瞬間には、もう体は行動に移っていた。


「悪いっ」


「え……ふにゃっ!?」


 小声で謝罪して、少女の二の腕を掴んで体を引き寄せる。


 見た目以上に軽い彼女をすっぽりと腕の中に収め、騒がれるとまずいのでそっと手で口を塞ぐ。


「っ……?!

 ……っ、っ……!?」


「悪い、少しの間静かにしてくれ」


 流石に驚いたのか暴れる少女の耳元でそう呟いて、春輝は背後の気配を探る。


 感覚を研ぎ澄ますべく目を瞑る。


 複数の足音が聞こえ、茂みの向こうに誰かいるのが分かる。


 恐らくは……三人。


 何だかすっかりこそこそするのに慣れてしまった気がする。


 なんだか複雑だ。


 履歴書に書けない特技が増えて、人として大事な何かが磨り減っているような錯覚がある。


 ……錯覚、だよな、うん。


 きっと何も減ってない。


 そうだといいからそう思い込む。


 日陰者にお似合いの技術を磨きたいわけじゃない。


 それはもう断固として違う。


 そんな自分への言い訳をしつつ耳を澄ますのは何だか本末転倒な気もするが、事が事だ。


 やむをえないのだ。


 頑張れ、自分。


「……いない……不審者……」


「でも……話し声が……」


「……向こうから……」


 ひそひそと何かを話し合う声は断片的にしか聞こえない。


 ややあってから遠ざかる足音がして、誰かさん達の気配は無くなった。


 しかし安堵は出来ない。


 それどころかむしろ焦燥に駆られた。


 今、暴れ疲れたのか腕の中で大人しくなっている少女は、目の前にある建物の横から現れた。


 つまり、ぐるっと建物の正面側に回れば囲ってある茂みは途切れ、この少女と同じようにしてここへ辿りつけるのかもしれない。


 そう考えるとうかうかしていられない。


 恐らく今の足音の、主達は、迂回してここへ向かって来る。


 楽観的な考えはしない方がいい。


 一刻も早く少女を連れて逃げなければ……


「……いや待て」


 さっさの、茂みの向こうにいた奴等が好奇心か正義感か、どちらかに駆られてここに来るのかは分からない。


 しかしどちらにしろ、迷子の少女を放っては置かないだろう。


 ちゃんと然るべき対応をするはずだ。


 なら、自分の為にも少女の為にも、ここで別れた方がいいんじゃないか?


 そう思った春輝は、腕の中の少女に手短に説明をすべく視線を落とし……固まった。


 顔を真っ赤にした少女は、ぐるぐると目を回して気を失っていた。


「おいおいおいおい、マジか……!?」


 慌てて少女の口を覆っていた手を除ける。


 けれど意識を取り戻さないし、咳き込むような様子もない。


 よく考えてみたら、そもそも呼吸は鼻で出来ただろうし、息苦しくて気絶したにしては呼吸が穏やかだ。


 ならどうして、と、本日三人目の気絶者の誕生に途方に暮れるが、それに気を取られてばかりいられない。


 幸か不幸か、耳は誰かの近付く足音を敏感に聞き取っていた。


 もうすぐ誰かがここに来る。


 焦燥感は益々募る。


 辿り着いた生徒達が気絶した少女を発見したら、大騒ぎになるだろう。


 あの金髪ドリルを押し倒した程度の騒ぎじゃ済まないのは確実だ。


 浮き足立ちながらも少女の顔色を確認する。


 病気で倒れたようには見えないので、しばらくすれば目を覚ます……と思いたい。


 それまでの間、時間を稼がなくては本当に厄介なことになる。


 しかし、逃げ場は無い。


 見つかり難そうな閉ざされた場所を選んだのが裏目に出た。


 もう十秒足らずで誰かがここに踏み入るだろうし、おまけに最悪なタイミングで、誰かが茂みの向こうを歩いているらしい話し声も聞こえてきた。


「どうする……どうするか……!?」


 この場を見つかれば『不審者&痴漢&ロリ野郎』という、最早弁解も何も通じない事態になるのは明白だ。


 冤罪と主張しても、それが真実だとしても、事実とされるのは不名誉な性犯罪の方に違いない。


 まずい、まずい、本当にまずい。


 第二の人生を踏み出すはずが、誤って後退りしたら崖から転落のゲームオーバーという急転直下のバッドエンドになってしまう。


 ああくそ、なんだってこんなことに。


 いくらなんでもロリコンの誹りはあんまりだ。


 そんな気はちっともないのに、それなのにロリコンって。


 ロリコンって!


 男としてどうなんだ、そのレッテルは。


 そんな不名誉過ぎて泣ける名称で後ろ指を指されるくらいなら、まだあの金髪碧眼ドリルのオレリアの高校生にしては豊満な体に惑わされて捕まった方が……って、違う、それも駄目だ、そっちは性犯罪の側だ。


 落ち着け、ヤバいけど落ち着け、なんかガサガサ音が聞こえて、早くしないと、だけど落ち着かないと、ああでもどうすりゃ……


 前門の虎、後門の狼という窮地に、足音はもうすぐ近くに迫って……


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