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お嬢様たちの恋のバトルが過熱して、結果として色気が出てしまう  作者: 藤守 友


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一話・17

「ああくそっ、どうしてこんな……ったく、やってらんねぇ……!」


 逃げ出して三十分が過ぎた頃。


 ようやく見つけることが出来た落ち着ける場所で、春輝は悪態を吐いて座り込んだ。


 ずっと走りっぱなしだった訳じゃないが、飛び火するようにあちこちから、


「不審者……」


「痴漢が……!?」


 という声が聞こえて来て、発見される度に生きた心地がしなくなった。


 とてもじゃないけど人目に付く所で休むことは出来ず、しかもどこに何があるのかも知らないので隠れるに適した場所を探すにも大変な苦労だった。


 息も上がり脇腹に違和感が出始め、もういいからギブアップしちゃおう袋叩きでも魔女裁判でもどんと来いと混乱気味に思い始めた矢先、図書館らしき大きな建物が目に入った。


 その蔦が絡まり苔が蔓延った建物の裏手に、背の高い茂みに覆われるようにして大きな石碑があるのを見つけ、とりあえずその陰に隠れることにしたのだ。


 ひとまず、これで外側からは見つからないだろう。


 怪しいと睨まれれば逃げる場所にも困るけど、まさか自分がしたように茂みの中を無理に通過するような真似を名門校の女生徒がするとは思えないし。


 男子ならするかもしれないが、片手の指の数程もいない奴等のことまで気にしていられるか。


 せめて男共には見つからないよう祈るだけだ。


 というか、男子相手ならちゃんと話せば誤解も解ける気もする。


 女子はダメだ。


 特に集団はダメだ。


 集団になるとまるで話を聞かなくなる。


 あの金髪ドリルは単体でも馬耳東風だったけど。


 髪型もそうだし、色々と規格外な奴め。


「さて、どうすっか」


 一息つけたので、今後の展開を考えないと。


 厄介なのは本格的に不審者だと思い込まれ、通報された場合だ。


 一応、朱音や理事長を含め数人は自分の容姿を知っているから、そこまで話がいけば勘違いだと理解してくれるだろう。


 希望的観測ではあるけれど……それくらいは淡い期待が叶ってもいいはずだ。


 というか、頼むからそれくらいは叶ってくれ。


 ただ、警備員とかが駆り出される事態になると、かなりまずい。


 身の危険もそうだが、編入早々問題を起こすのはどう考えてもヤバい。


 薔薇色の学院生活はもう諦めたけど、せめて真っ当に三年問を過ごしたい。


「……ほとぼりが冷めてから、こっそり職員室に行って……ああいや、その前にあのドリル女の誤解を解かないとまずいか?」


 後頭部をがしがしと掻きながら、春輝は呟く。


 少しでも冷静にならなければ。


 呼吸が整い、石碑と茂みを挟んだ向こうの人気が無くなり次第行動に出ないと、事がどんどん大きくなるのは簡単に予測出来る。


「……くっそ、せめて朱音の奴と合流出来れば……講堂の方でどうとか言っていたが……」


 でも、その講堂ってどこだろう?


 肝心の講堂がある場所が分からないんじゃ意味がない。


 お手上げだ。


 どうしたもんかと、石碑に背を預けて大きくため息を吐き、




 カサリ、という微かな音がした。




「っ?!」


 まさかもう誰かに見つかってしまったのかと、焦りに頬を引き吊らせて反射的にそちらへと視線を向け、


「……にゃぅ?」


 変な鳴き声を発する少女と、目が合った。


 小学生か、よくて中学一年生かという体躯。


 こっちが座っている状態なので目測しづらいが、


 恐らく身長は百四十センチもない。


 シンプルな黄色のワンピースを着て、ふわふわと柔らかそうな髪は綿毛のような感じで短くまとめられている。


 手足を見るに全体的には痩せているものの、頬はぷっくりとしていて、端的に言えば小動物のように愛くるしい。


 咄嗟に逃げようと腰を浮かしかけたが……ぱちくりと何度も瞬きをしている彼女を見て、大きく息を吐き出し座り直す。


 やれやれだ、どうしたものかと思ったけど、


「なんだ、子供か……」


 てっきりここの生徒に見つかったんだと思ったけど、それは勘違いだったらしい。


 ホッと胸を撫で下ろした春輝は、苦笑に近い笑みを口元に浮かべる。


 一方、少女は表情を驚きから不満げに変えた。


 若干膨らませた頬を赤くしつつ、こちらへと近付いて来て、


「こ、子供じゃないのっ。

 ななみは高校生っ」


 小さな声で、そう言った。


 精一杯自分を大きく見せようとしているのか、背伸びをして。


 地面に座っていた春輝はそんな彼女を見上げる形だったが……ふと、手を伸ばす。


 ギリギリだったが、座ったままで彼女の頭に手を載せることが出来た。


「それで、迷子か?

 日曜だし、姉ちゃんでも訪ねてきたのか?」


「だ、だから高校生だってば!

 ななみはこれでも十九歳なんだよっ」


「そーかそーか、んで、学年は?」


「……に、二年生……」


「中二……?

 ……いや、小学二年生か」


 中学生なら中等部の生徒、という線もある。


 ただし十九歳だと高校は卒業しているということも分からないのなら、小学生の線が強い。


 二年生というと、八歳。


 そう考えると、年の割にはかなり背が高い方なのかもしれない。


 まあ、子供には変わりないが。


 ポンポンと軽く頭を撫でてやると、少女は益々顔を赤くして、言いたいことがあるのに上手く言葉にまとめられないような感じにもじもじと体を振る。


 可愛らしい仕種に笑みを溢し、一方でどうしたもんかなー、と考える。


 迷子の少女を放っておく、という選択肢は自動的に消去。


 これでも割と子供好きな方だと自認しているし、困っている小さい子を見捨てるような真似はしたくない。


 中学生ならともかく、まだ小学生なんだし。


 放っては置けないだろ。


 しかし……勝手の知らないラベールブロンシュで、しかも今は追われる身だからなぁ。


 のこのこと表に出て、しかも少女連れなどという目立つ上に逃げるのも難しい状況は、かなりまずい。


 下手をすれば幼女愛好者のレッテルまで貼られてしまう。


 痴漢で、変質者で、幼女愛好癖。


 凄い、変態三冠王だ。


 死ねる。


 そんな風に蔑まれるくらいなら、いっそ無実の罪でタコ殴りにあった方が億倍マシだ。


 いやまあ、確かに胸は触ってしまったけど。


 事故だし、ノーカンということにして。


 となると、どうしたもんか。


 喉を鳴らして唸り、春輝は考えを巡らせる。


 同行が無理ならせめて親切そうな人物に預けたいが、誰がそうなのか分からない。


 朱音なら……うん、安心して任せられる。


 食えない奴ではあるけど、あれで意外に面倒見はいい奴だから平気だろ。


 けど、そもそもあいつと連絡がつくのならこんな苦労はしていない。


 スマホを持ってないし、向こうの番号も知らない。


 こっちが持っていたとしても、原則として寮以外では使用禁止のはずだ。


 優等生を演じている朱音が持ち歩いているとは思えない。


 上手い手段が見つからない。


 けど、ぐずぐずしている暇もない。


 時間が経てばこの少女の姉なり親なりが心配するに違いないから、早めに対処しないと。


 とはいえ、どうにも八方塞がりに思えて、ついため息を吐いてしまう。


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