九話・4
「ここまで来たらもう確定やな。
須野原の街中でデートにしけ込もうっちゅう腹に間違いないで」
「し、しけ込むって……お二人はもうそんな関係に!?」
「そうや、エロエロで肉体的な関係なんや!
って、自分で言うといてなんやけど、それは無いんやろーなあ。
ハルハルは絶対に奥手のビビリやから、まだ大人の階段は上れてへんのやろなー。
むっつりやし」
「そ、それは良かったですけど、盛り場でデートをするんですから、勢いで間違いが発生しちゃう可能性だって……!」
「そないな美味しい事になったら……ああっ、しもうた!?
録画用のデジカメ持って来るの忘れとるやないか!」
「録画……そういえば私、以前街を歩いていた時に、
『テレビに映る仕事に興味無い?
モチあるよね?
テレビに映ってしかもお金が貰える、美味しい仕事があるんだよ?
色んな意味で美味しい仕事だよ?』
ってスカウトされたんですけど、説明されている間もずっとビデオで撮られてて、何だかおかしいなって思ったことがあるんですよ。
あのスカウトさん、どうして『テレビに出る』じゃなくて『テレビに映る』って言い方をしていたんでしょう?」
「あー、それは地上波では流せん映像を撮るお仕事やったんやろなー……って、なんやねんそのデンジャラスかつエロスに満ち溢れたシチュエーション!?
も、もっと詳しく、情感たっぷりに説明を」
「うるさいですわよ貴方達っ!」
ついに我慢が限度を超えてオレリアが怒鳴りつけると、姦しく騒いでいた二人はビクリと身を震わせて口を噤んだ。
ただしその後の反応はそれぞれ違う。
鳳凰寺早苗は身を縮こませて宇宙人にキャトられた農民みたいに視線を彷徨わせ、香取卓也は素知らぬ顔で口笛を吹く真似をしながら明後日の方向を見る。
「全くなってませんわ」
呟いて、オレリアは苛立つ気持ちを追い出すように息を吐いた。
「他所様の車に乗るときはそれなりの態度というものがありましてよ。
……大体、どうしてこの私が貴方達を同乗させなければなりませんの?」
そう、別に誘い合わせて従育科の二人と共に行動をしている訳じゃなかった。
肩身が狭そうにしている早苗から聞いた情報を元に、今朝は九時前からラベールブロンシュの正門を見張れる位置に車を停めておき、オレリアは車内で張り込みをしていた。
『どうして』とか『何の為に』とか、そんな理由なんて頭の中になく、ただそうしなければという義務感めいたものに突き動かされての行動だ。
一体いつあの二人は現れるのかと焦れったい気持ちのまま三十分が過ぎ、一時間が過ぎ……そして二時間が経とうとした頃。
正門から出て来たのは藤條朱音と兵頭春輝の二人……ではなくて、香取と早苗という良く分からない組み合わせで。
しかも香取が目敏くオレリアの車を発見、押しかけるようにして同乗された。
盛大に文句を言おうとした矢先、正門前に一台の車が止まり、それからすぐに朱音と春輝の二人が現れたものだから、追い出す機会を完璧に見失ってしまったのだ。
仕方ないのでこうして一緒に乗ってはいるものの……当然、オレリアとしては不本意だ。
強引にこの状況を作り出した香取を横目で睨んでやると、口元をにやっと吊り上げ、
「そないな怖い目をせんでもええやんか。
これはあれや、互いの目的が一致している上での協力なんやから」
「……誰と誰の目的が一緒だと言うつもりですの?
私はただ、たまには街へ出るのもいいと思って……」
「それにしては随分と待機時間が長かったみたいやけどな?
オレリア嬢が正門に向かって行くのは見たけども、二時間以上前のことやで?」
「うっ……!?」
思わぬ目撃証言に、オレリアは言葉に詰まって視線を膝に落としてしまう。
しかしそれは一瞬、いくらでも誤魔化しが効く範囲内で立て直し、
「……それは、そのっ……わ、忘れ物があったからですわ!」
「ちなみにオレ、その時から正門の内側で見張っててん。
鳳凰寺以外は誰も来なかったはずなんやけどなあ?」
「な、ぐっ……ストーカーみたいな真似をっ……!」
「いややなあ、嬢さんと同じ事やっただけやのにストーカーやなんて。
オレは単に、こんな面白いモン見逃してたまるかっちゅう好奇心で動いているだけやで?」
理由がどうあれやっている内容に変わりはありませんわよ、というかむしろそっちの方が人としてより最悪な理由じゃないですの、と、オレリアが反論する前に。
香取の視線が早苗へと移り、笑みがさらに濃くなった。
「尤も、鳳凰寺はオレとは別の理由で動いているみたいやけどな」
「わっ……私は、その、どうしたらいいか分からなくてお姉ちゃんに相談したら、
『兵頭さんがデートをしているところを様子見して、隙あらば拉致るといいですよ』
ってアドバイスを貰ったので……」
「それはアドバイスじゃなくて誘拐教唆ですわっ!」
あまりに突拍子もない発言に頭痛の気配が出始めて、オレリアは額に掌を当ててため息を吐いた。
本当にこの同級生ときたら、ちっとも変わってない。




